- 2026.10.16
高齢者の転倒はなぜ起こる?原因やリスク、予防のための対策を解説
- トピックス > 整形外科コラム

高齢者は、加齢による筋力やバランス能力の低下、病気、薬の影響、生活環境など、さまざまな要因によって転倒しやすくなります。転倒によるケガを防ぐには、原因を把握し、身体機能と生活環境の両面から対策することが大切です。
しかし、転倒を予防したくても、
「高齢者はなぜ転倒しやすいの?」
「転倒した後はどのように対応すればよい?」
と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、高齢者が転倒しやすくなる原因や特徴、転倒によって起こりうるリスクを解説します。
なお、神戸大学医学部整形外科では、株式会社マリンコアと共同で、足底インソールが足アーチ構造および歩行時の下肢アライメントに与える影響を検証する研究を進めています。
その内容も踏まえながら、日常生活で取り組みたい予防策も紹介します。高齢者の転倒予防や適切な対応に役立てるために、ぜひ参考にしてください。目次
- 高齢者が転倒しやすくなる原因
- 転倒しやすい高齢者にみられる特徴
- 高齢者の転倒によって起こりうるリスク
- 高齢者の転倒を防ぐために取り組みたい対策
- 高齢者が転倒した後の対応と確認したいポイント
- 高齢者の転倒に関するよくある質問
- 高齢者の転倒は原因を把握して早めに対策しよう
高齢者が転倒しやすくなる原因

高齢者の転倒には、身体機能などに関係する「内的要因」と、生活環境に関係する「外的要因」があります。転倒はどちらか一方だけが原因になるとは限らず、複数の要因が重なって起こるケースも少なくありません。
まずは、高齢者が転倒しやすくなる内的要因と外的要因をそれぞれ解説します。内的要因
高齢者は加齢によって筋力やバランス能力などが低下するため、若い頃よりも転倒しやすくなります。内的要因には、加齢による身体機能の変化だけでなく、病気による症状や服用している薬の影響も含まれます。
主な内的要因は、以下のとおりです。加齢による身体機能の変化 筋力の低下、バランス能力の低下、姿勢の変化、運動速度の低下、視力・聴力の低下など 病気・症状 認知症、不整脈、起立性低血圧、パーキンソン病、脳血管障害、変形性関節症など 薬の影響 睡眠薬、抗不安薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、抗てんかん薬、利尿薬など 加齢によって筋力やバランス能力が低下すると、足を十分に持ち上げにくくなったり、ふらついた際に体勢を立て直しにくくなったりします。また、視力が低下すると、段差や障害物に気づきにくくなる場合があります。
外的要因
高齢者の転倒には身体機能だけでなく、床や段差など周囲の環境も関係します。外的要因とは、段差や障害物、履物など、本人の身体以外にある転倒につながる要因です。
主な外的要因は、以下のとおりです。住環境 階段や段差、滑りやすい床、暗い場所、手すりがない場所、坂道など 障害物 電気コード、カーペット、床に置いた荷物など 履物 サイズが合っていない靴、脱げやすい履物など 慣れない環境 病院や介護施設など、普段とは異なる生活環境 高齢者は筋力やバランス能力、視力などが低下している場合があり、わずかな段差や床の障害物でもつまずく可能性があります。
さらに、足に合っていない靴や脱げやすい履物も注意が必要です。病院や介護施設などの慣れない場所では、普段と異なる動線や設備が転倒につながる場合もあります。
外的要因は生活する環境によって異なるため、どのような場面でつまずきやすいのかを確認し、転倒につながる要因を減らすことが大切です。転倒しやすい高齢者にみられる特徴
転倒しやすい高齢者には、歩行やバランス能力などにいくつかの特徴がみられる場合があります。以前よりもつまずきやふらつきが増えた場合は、身体機能が低下していないか確認することが大切です。
厚生労働省の「転倒等リスク評価セルフチェック票」では、歩行能力や筋力、敏捷性、バランス能力などを確認しています。日常生活では、以下のような変化がないか確認してみましょう。確認したいポイント 日常生活でみられる状態 つまずき 以前よりもつまずく回数が増えた 立っている時の安定性 片脚で立った姿勢を保ちにくい 歩行 歩いている時にふらつく バランス 急な動きに対して体勢を立て直しにくい 足の動き 足を素早く動かしにくい 身体機能の自己認識 実際の身体機能以上に「自分は動ける」と認識している 以前と比べて歩きにくくなった、ふらつきが増えたなどの変化があれば、転倒予防を意識するきっかけにしましょう。筋力やバランス能力など現在の身体状態を把握し、必要な対策につなげることが重要です。
高齢者の転倒によって起こりうるリスク

高齢者の転倒は、骨折などのケガだけでなく、その後の生活にも影響をおよぼす可能性があります。転倒をきっかけに身体を動かす機会が減ると、ADL(日常生活動作)が低下し、介護が必要になる場合もあるため注意が必要です。
高齢になると、加齢や骨粗しょう症などによって骨が弱くなっている場合があります。そのため、転倒によって大腿骨近位部や背骨、手首、腕の付け根などを骨折する可能性があります。また、頭を強く打った場合には、頭蓋内出血などの重いケガなどにつながるおそれもあります。
骨折などで安静にする期間が長くなると、筋力や体力が低下し、移動・排泄・入浴・着替えといったADLにも影響がおよびます。実際に、厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」では、介護が必要となった主な原因のうち「骨折・転倒」は全体の14.6%を占め、第3位となっています。出典: 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」
転倒は、その時のケガだけでなく、その後の自立した生活にも関わる問題です。本人はもちろん、家族や介護に関わる人も転倒のリスクを把握し、日頃から予防に取り組むことが大切です。
高齢者の転倒を防ぐために取り組みたい対策
高齢者の転倒を防ぐには、身体機能と生活環境の両方から対策を進めることが大切です。筋力やバランス能力を維持するとともに、転倒につながる身の回りの危険を減らす必要があります。
次は、高齢者が日常生活で取り組みやすい転倒対策を解説します。筋力とバランス能力を維持する
高齢者の転倒を防ぐには、日頃から身体を動かし、歩行に必要な下半身の筋力と姿勢を保つためのバランス能力を維持することが大切です。加齢によってこれらの身体機能が低下すると、つまずいた際に踏ん張ったり、崩れた姿勢を立て直したりするのが難しくなります。
自宅で取り組める運動としては、「片脚立ち」や「スクワット」などがあります。片脚立ちは主にバランス能力を鍛える運動です。ふらつきがある場合は、転倒を防ぐために机や手すりなど、安定した場所につかまりながら行います。
スクワットでは、歩行や立ち上がりに使う太ももやお尻の筋肉を鍛えられます。深くしゃがむ必要はなく、無理のない範囲でゆっくり膝を曲げ伸ばしすることがポイントです。

ただし、体力や身体機能には個人差があります。痛みや強いふらつきがある場合は無理に運動せず、医師や理学療法士などに相談しながら、自分の状態に合った運動を継続しましょう。
自宅の転倒しやすい場所を見直す
高齢者の転倒を防ぐには、身体機能への対策とあわせて、普段過ごしている自宅の環境を整える必要があります。段差や滑りやすい床、障害物など、転倒につながる原因を見つけて取り除くことが大切です。
床に電気コードや荷物がある場合は移動させ、カーペットやマットはめくれたり滑ったりしないように固定します。階段や大きな段差には手すりやスロープを設置すると、移動時に身体を支えやすくなります。
また、夜間にトイレへ行く際は、暗い廊下や階段で足元が見えにくくなるため、照明や常夜灯を活用するのも有効です。生活動線を実際に確認しながら、危険な場所をひとつずつ改善していきましょう。靴や歩行補助具を適切に選ぶ
高齢者の転倒を防ぐには、身体の状態や歩き方に合った靴や歩行補助具を選ぶことも重要です。足に合わない靴や身体に合っていない歩行補助具は、歩行を不安定にし、転倒につながる可能性があります。
靴を選ぶ際は、足の大きさに合っているか、かかとがしっかり固定されるかを確認しましょう。加齢によって足の筋力が低下すると、足を十分に上げられずつまずきやすくなるため、つま先が適度に反り上がり、靴底が滑りにくい靴を選ぶのもひとつの方法です。
また、インソールは靴の中で足裏を支え、立っている時や歩行時の姿勢を安定させるために使用されます。足裏への圧力のかかり方や重心の偏りなどは一人ひとり異なるため、インソール購入の際は試し履きをすることをおすすめします。
歩行が不安定な場合には、身体の状態に合った杖や歩行器などを使用し、歩行時の安定性を補うことも大切です。高齢者が転倒した後の対応と確認したいポイント
高齢者が転倒した場合は、すぐに起き上がらせるのではなく、まず本人の状態を落ち着いて確認することが大切です。
ここでは、転倒後の対応と確認したいポイントについて解説します。痛みやケガがないか確認する
高齢者が転倒した場合は、すぐに起こしたり動かしたりせず、意識の状態や痛み、腫れ、出血などを確認します。骨折している状態で無理に身体を動かすと、痛みが強くなったり、状態が悪化したりするおそれがあります。
まずは呼びかけに反応するか、普段と同じように会話できるかを確認します。そのうえで、腰や背中、股関節、手首、肩などに痛みや腫れがないかを確認しましょう。転倒後に歩けたとしても、骨折していないとは限りません。
特に高齢者は、転倒によって大腿骨近位部や背骨などを骨折する場合があります。立ち上がる時や寝返りを打つ時に腰や背中が痛む、股関節周辺に痛みがある、自力で立ち上がれないといった場合は注意が必要です。
強い痛みや変形がある、自力で立てないなどの異常がみられる場合は、無理に動かさず医療機関への受診を検討します。頭を打った場合はその後の症状にも注意する
転倒によって頭を打った場合は、その直後に異常がなくても、しばらくは体調の変化に注意する必要があります。
特に確認したいのは、意識の変化やけいれん、頭痛、吐き気・嘔吐などです。手足のしびれや動かしにくさ、ろれつが回らない、ふらつくなど、普段とは異なる症状がないかも確認しましょう。
高齢者では、頭を打ってから時間が経過した後に「慢性硬膜下血腫」が生じる場合があります。頭痛や物忘れ、手足の動かしにくさなどが徐々に現れることもあるため、「転倒直後に問題がなかったから大丈夫」と判断するのは避けましょう。
また、抗凝固薬など血液を固まりにくくする薬を服用している場合は、頭蓋内出血が重症化する可能性があります。頭を打った場合や、その後に気になる症状が現れた場合は、速やかに医療機関へ相談することが重要です。高齢者の転倒に関するよくある質問
ここでは、高齢者の転倒に関するよくある質問に回答します。
高齢者が外出時に転倒しやすい場所はどこですか?
高齢者は、自宅では居室や寝室、玄関、廊下など、外出先では道路や交通施設などで転倒する可能性があります。特に、住み慣れた自宅でも転倒事故が多く発生しているため注意が必要です。
東京消防庁によると、令和6年中に「ころぶ」事故で救急搬送された高齢者73,500人のうち「住宅等居住場所」で発生した事故は42,180人です。住宅内では「居室・寝室等」での事故が最も多く、次いで「玄関・勝手口等」「廊下・縁側・通路」の順となっています。
また、自宅以外では「道路・交通施設」での転倒も多くみられます。雨で濡れた路面やマンホール、歩道の段差、駐車場の車止めなどにも注意しましょう。高齢者が転倒を繰り返す場合は何科を受診すればよいですか?
高齢者が転倒を繰り返す場合は、原因に応じて整形外科や脳神経内科などを受診します。
転倒後に手足や腰、背中などの痛みがある場合は、整形外科を受診しましょう。一方、歩行時のふらつきや手足の動かしにくさ、しびれなどがあり、転倒を繰り返している場合は、脳神経内科への相談が選択肢となります。
なお、転倒後に意識がない、ろれつが回らない、けいれんや繰り返す嘔吐などの症状がみられる場合は、通常の外来受診ではなく救急要請が必要になる可能性があります。緊急性が判断できない場合は、地域で利用できる救急相談窓口を活用してください。高齢者の転倒は原因を把握して早めに対策しよう

高齢者の転倒には、筋力やバランス能力の低下といった内的要因だけでなく、段差や滑りやすい床などの外的要因も関係しています。転倒を防ぐためには、自身の身体状態を把握し、生活環境を整えるなど、日頃から対策を続けることが大切です。
自宅では段差や障害物を減らし、身体の状態に合った靴やインソール、歩行補助具を活用しましょう。また、無理のない範囲で運動を続け、歩行に必要な筋力やバランス能力を維持することも転倒予防につながります。
転倒した場合は、痛みやケガ、意識の状態などを確認し、必要に応じて医療機関を受診してください。転倒を繰り返している場合もそのままにせず、原因を確認するために医師へ相談しましょう。
