

私たちは、骨折が治らずお困りの患者さんを専門的に治療しています。骨折は通常、数ヶ月~半年位で骨がくっつき、治るものです。しかし、中には、なかなか治らないものもあります。偽関節、遷延治癒などと呼ばれます。また、骨折の手術をしたところに菌が感染して骨髄炎を起こし、骨もくっつかないという場合もあります。このような難治骨折の治療には専門的な知識が求められ、通常の骨折治療には経験が豊富な医師でも、対応がなかなか難しい場合も多くあります。私たちは、これまでに多くの難治骨折の治療に携わってきました。ですから、専門的な知識、最先端の治療手段を持っています。それだけでなく、難治骨折を何とか治すため、さらには、骨折をただ治すだけではなく、より早く治すための、次世代の骨折治療に関する基礎研究、臨床研究を行っています。 骨折が治らずお困りの患者さんは、神戸大学整形外科の「難治骨折診」を受診して下さい。
主に、四肢(腕、脚)の大きな骨でのこのような病態を対象にしています。大腿骨、脛骨、上腕骨、鎖骨などです。脊椎(せきつい、せぼね)の骨折や病気は、難治骨折診では扱っていません。当科の脊椎グループが専門的に診療しています。 *手首より先、足首より先の外傷も扱いますが、外傷の種類によっては、同じ神戸大学整形外科の他のグループの方が専門分野のものもあり、そのグループの医師へ紹介することもあります。
私たちは、臨床に直結する研究を行うことをモットーとしています。これらの研究テーマは、私たちが実際の臨床において患者さんに実施している治療法です。
骨折すると痛みに苦しめられ、手足、体を自由に動かせなくなります。骨が治らなければ、これらの症状がずっと続いてしまいます。骨折の標準的な治療としては骨のずれを直し、固定する、また、骨に悪影響をおよぼすものを取り除くといったことが挙げられ、われわれもこれらを治療の基本としています。私たちは、このような今ある最良の治療を患者さんに提供するとともに、さらに優れた治療法の確立を試みています。私たちが携わっている新しい骨折治癒促進法に関する治験、実施している特徴的な治療法を紹介致します。3・5は上記のように学会で高く評価され、動物実験にとどまらず、既に臨床で実際の患者さんの治療へと応用しているものです。また、2に関しては、国内で屈指の症例数に対して使用している実績があります。
骨折した骨が治らないとき、骨に欠損があるときには、骨癒合(骨が治ること)を目指して自分の腸骨(骨盤)の一部を移植する自家骨移植術が行われることが多いです。自家骨移植術は有効な治療手段ですが、問題点もあります。それはすなわち、自分の体の無傷な部分を切開し、骨を採らなければいけないということです。移植用の骨を採取した部位に感染症や骨折という合併症が起こることがあります。また、移植用の骨を採取した部位からの出血は避けられませんし、術後の痛みもある程度伴います。さらに、腸骨から採取できる骨の量には限界があり、大きな骨欠損を補充し切れないこともあります。これらの問題が克服できれば、患者さんにとって大きなメリットになります。
神戸大学病院整形外科で、新しい骨癒合促進法の治験を実施します。BMP(Bone morphogenetic protein)という骨を作るタンパク質があります。BMPを含有した製品は欧米や韓国などでは既に承認され、多くの患者さんの治療に用いられています。しかし日本では未だに臨床使用が承認されていません。日本で初めて、BMPの製造販売承認を得るための治験を神戸大学病院にて行います。神戸大学病院治験審査委員会で2019年11月に治験実施の承認を受けました。限定された患者数で主に安全性を、同時に有効性も評価します。大腿骨、脛骨、上腕骨の骨折後治療を受けても骨癒合が得られない偽関節患者さん合計8名を対象とします。
この治療ではBMPを人工骨に添加して、骨が治っていない部位、骨が欠けている部位に補充します。人工骨は既に多くの症例で臨床使用されているものです。このBMPと人工骨を組み合わせた製品はオステオファーマ社が開発したもので、治験ではこれを使用します。図では、動物実験でこの製品:BMP+人工骨を用いることで良好な骨再生が達成された成果を示しています。この治療がヒトにおいて安全で有効であることが分かれば、自家骨移植の代替手段となる可能性があり、上記した自家骨移植の問題が克服できることになります。自家骨移植をしなくても骨を治せる新たな治療法となれば、患者さんが得るメリットは大きいです。治験参加をご希望して下さる患者さん(大腿骨、脛骨、上腕骨の骨折後治療を受けても骨癒合が得られない偽関節患者さん)は、かかりつけ医で紹介状を書いてもらい、受診して下さい。※受診して頂いてから、治験対象者としても適格性を調べ、治験実施可能かどうかを判断します。この治験を実施できないこともあります。
骨折手術後感染、骨髄炎などの骨・軟部組織感染症はなかなか治癒しにくく、一旦治ったように見えても再発することがあります。多数回にわたる手術、長期間の入院が必要になる等、患者さんに大きなストレスがかかる疾患です。骨・軟部組織感染症が治癒しにくい原因として、病巣周囲の血流が良くないため抗菌薬が静脈投与や内服投与では病巣に到達しにくい、十分に作用しにくいことが挙げられます。よって、抗菌薬を病巣に効率よく届けることが骨・軟部組織感染症の治療には重要となります。その新規治療法として最近注目されているものに「局所持続抗菌薬還流法:Continuous Local Antibiotics Perfusion(CLAP)」があります。
この方法は局所にピンやチューブを留置し必要な濃度の抗菌薬を持続的に投与し、陰圧器機を用いて還流させ病巣部に抗菌薬を届ける方法(図1、2)のことで、当院でも適応症例に実施しております。なお、当院では安全性に配慮し抗菌薬の血中濃度を適宜モニタリングしております。骨折手術後感染、骨髄炎などでお困りの患者さんは難治骨折診へご相談下さい。
交通事故などの重度外傷による骨折では受傷時に大きな骨欠損が生じる場合があり、また、難治性骨折・感染性偽関節(長期間にわたり骨折の治癒が認められない状態)でも、大きな骨欠損が生じる場合があります。一方、骨髄炎においても、感染した骨を切除する手術を行った結果、大きな骨欠損が生じてしまう場合があります。このような大きな骨欠損に対しては、患者さんの骨盤から骨を採ってきて欠損部に充てんする自家骨移植術だけでは採れる骨の量に限界があるため、量が足らず、治癒に至らない場合がありました。その場合には、創外固定を長期間装着して行う骨延長術や、血管柄付き骨移植といって脚を大きく切開し、腓骨という骨を採りだして移植するといった治療しかこれまでにはありませんでした。
RIA systemは、患者さんの大腿骨の中から大量に骨を採取することを可能とした新しい手術器具です。海外では2005年から臨床使用されていましたが、日本ではようやく2013年4月より使用開始となりました。この新しい手術器具を利用することで大量の移植用の骨を確保することが可能となり、大きな骨欠損においても骨移植術を行うことができるようになりました。神戸大学病院はいち早くRIA systemを導入し、全国でも屈指の症例数を誇っています。大きな骨欠損を伴う難治性骨折の治療や、大腿骨の感染症(骨髄炎)の髄内掘削・洗浄など様々な治療用途に活用しています。
私たちは、「炭酸ガス経皮吸収療法」を行うと、骨折した脚の血流が良くなり、骨折が早く治るということを動物実験で証明しました。また、炭酸ガス療法を行うと、血流が良くなることに加え、筋肉にも良い影響が出ることなどを見出しています。骨折治療にはリハビリが欠かせないものであり、リハビリの進み具合を良くする可能性があります。
この炭酸ガス療法を、骨折患者さんの通常の治療に追加して行い、安全性と有効性を確認する臨床研究を神戸大学病院にて実施しました。炭酸ガス療法はヒト骨折患者において安全に実施できること、また、骨折している脚の血流を増加させる作用があることを確認し、論文報告しました。将来的には、骨折を早く治す、より確実に治すといった用途の、標準的な骨折治癒促進法へと発展させるべく研究を継続しています。
この治療法は、骨折が長期間経過しても治らない偽関節の患者さんにおいて、自分の血液の中から骨や血管のもとになる細胞となる能力のある細胞(CD34陽性細胞)を取り出し、骨が治らないところに移植して骨を治そうというものです。これまでに、神戸ポートアイランドにある神戸医療産業都市推進機構(旧:先端医療振興財団)との共同研究として各種研究を行ってきました。偽関節の患者さん7名に対して第I・II相臨床試験として細胞移植を実施し、全員で骨が治り良好な治療成績が得られ、安全性も確認されました。
次の段階として、厚生労働省に届け出て新しい治療技術の承認を得るための臨床試験である「医師主導治験」を、当院整形外科を含む5つの医療機関で行いました。脛骨骨幹部骨折後の偽関節患者さん15名、大腿骨骨折後の偽関節患者さん10名を対象にCD34陽性細胞移植による骨・血管再生療法を実施しました。この治験における患者登録は終了致しました。
今後は治験参加患者さんの臨床データを集積し、これを解析して治療の有効性、安全性を検討します。この治療にご興味のある方は、https://www.fbri-kobe.org/fracture/をご覧ください。
「難治骨折診」の初診は原則的に火曜日の午前中に予約制で診療を行っています。ただし火曜日にご都合が悪い場合には木曜・金曜日の午前中の予約も受け付けます。かかりつけ医療機関から当院患者支援センター地域連携部門へFAX(078-382-5265)にてご予約頂けますようよろしくお願い致します。できるだけ、まずかかりつけの主治医の先生にご相談の上、紹介状を書いてもらって下さい。また、これまでに受けたレントゲン、CT、MRIなどの検査結果を添付してもらって下さい。当院で治療を開始するまでの治療歴が大変重要であり、これによってどんな治療法がよいかを判断するからです。しかし、どうしても紹介状、検査結果を用意することができないのなら、通常の初診手続きで受診して頂いても、出来る限り対応させて頂きます。