婦人科
婦人科診療案内
婦人科疾患に関して当院で治療をお考えの患者さんへ
当院では良性、悪性を問わず様々な婦人科疾患の治療に対応して、可能な限り腹腔鏡やロボット支援下手術などの低侵襲な治療に力を入れています。また様々な診療科と協力して高度な医療を提供できるよう努めております。以下は当科で取扱いをしている代表的な治療内容に関するご案内です。
ロボット支援下手術/腹腔鏡手術
婦人科進行癌の治療
子宮頸部異形成(子宮頸部高度異形成/CIN3 など)
骨盤臓器脱(子宮脱など)に対する仙骨腟固定術
子宮頸癌に対する妊孕性温存治療 「広汎子宮頸部摘出術」
ロボット支援下手術/腹腔鏡手術
当院のロボット支援下手術(hinotori, DaVinci)、腹腔鏡手術について
当院では婦人科悪性腫瘍、良性疾患ともに手術侵襲の軽減を目的としたロボット支援下手術、腹腔鏡手術などの内視鏡手術に力を入れています。内視鏡手術は開腹手術と比較し創部が小さいため術後回復が早く、また美容面でも優れています(図1)。当科ではロボット支援下手術者や日本婦人科内視鏡学会技術認定医の有資格者が手術を行っております。また、悪性腫瘍では、婦人科腫瘍専門医と内視鏡技術認定医のダブルライセンスを持った医師が手術を行っております。
子宮筋腫や卵巣腫瘍など良性疾患に対するロボット支援下/腹腔鏡手術
良性疾患は8割以上を腹腔鏡、ロボット手術を行っています。卵巣良性疾患に対して卵巣嚢腫や子宮内膜症病巣の摘出ないし付属器摘出を、良性子宮疾患の子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮頸部上皮内腫瘍に対して筋腫核出や子宮摘出を行っています。 また、子宮脱や膀胱脱など骨盤臓器脱の患者さんに対してロボット支援下仙骨頸部固定術(RSC)を行っております。
婦人科癌に対するロボット支援下/腹腔鏡手術
当科では子宮悪性疾患に対して、婦人科腫瘍専門医と内視鏡技術認定医のダブルライセンスを持った医師が内視鏡手術を行っています。初期で悪性度の低い子宮体癌には2014年より腹腔鏡手術が、2018年からはロボット手術も保険診療で行うことが認められました。
当院にはDaVinci X・Xi、hinotoriと3台のロボット機器が導入され、ロボット悪性腫瘍手術件数は兵庫県下随一です。DaVinci、hinotoriともにロボット手術症例見学施設(メンターサイト)として、認定を受けており、当院婦人科で行われているロボット手術の手技や実績が高く評価されたものであり、ロボット手術の教育施設として全国の医師の指導・育成にあたっております。
その他、術後の再発・転移リスクが高い症例に対して、上腹部までの広範囲の手術を要する子宮体癌にも腹腔鏡手術(腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清術)も行っております。また、初期の子宮頸癌に対しても腹腔鏡手術を行っています。
ロボット支援下手術および腹腔鏡手術の手術適応について
ロボット支援下手術対応症例
・子宮筋腫、腺筋症、高度異形成など良性子宮疾患に対する子宮全摘術
・骨盤臓器脱(子宮脱など)に対する仙骨頸部固定術
・初期の子宮体癌
腹腔鏡手術対応症例
・良性卵巣腫瘍に対する腫瘍/付属器摘出術
・子宮筋腫、腺筋症、高度異形成など良性子宮疾患に対する子宮全摘術
・初期の子宮頚癌
・初期の子宮体癌
婦人科進行癌の治療
婦人科進行癌の治療について
進行がんの治療には、手術療法、放射線療法、化学療法といった様々な方法を組み合わせて取り組むことが大切です。
当院では、これらの治療法について専門家が集まるカンファレンスを定期的に開催し、一人ひとりの患者さんに最適な治療方法を決め、情報を共有して治療を行っています。
手術療法の特徴と安全性
骨盤臓器に関わる手術は、その特性から腸管切除や膀胱部分切除といった婦人科のみでの対応が困難な病気もあります。消化器外科や泌尿器科との合同カンファレンスを通じて情報共有を行い、困難な手術でも協力しながら安全に対応できるよう努めています。進行・再発癌に対する骨盤臓器全摘などの高度な手術にも対応しており、患者さんの安全で高度な治療を第一に考えています。
放射線治療科との連携
特に子宮頸がんの進行した場合、化学療法と併せて放射線治療を行うことが多いです。放射線治療科とのカンファレンスを通じて、患者さんの状態に合った治療計画を立てたり、再発したがんの治療や緩和ケアにおける放射線治療の可能性についても検討しています。
化学療法の最新動向と安全性の確保
婦人科腫瘍に対する化学療法では、従来の抗がん剤だけでなく、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しい薬剤が導入されて用いられています。また、新たな治療選択のための臨床研究なども行っております。これら新規治療薬は効果的ですが、副作用に注意が必要です。腫瘍血液内科とのカンファレンスでは、最適な治療薬の選択、副作用の管理や新しい薬の使用について慎重に話し合い、安全かつ効果的な治療を目指しています。
神戸大学医学部附属病院・婦人科では、手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的治療を行っています(図1)。これにより、患者さん一人ひとりに合った治療を提供できるよう心がけています。患者さんとご家族の期待に応えるため、私たちの医療チームは常に最新の医療知識を取り入れ、質の高い医療サービスを提供することに努めています。
子宮頸部異形成(子宮頸部高度異形成/CIN3 など)
子宮頸部異形成(CIN)とは
子宮頸部異形成は、子宮頸部上皮内腫瘍(Cervical Intraepithelial Neoplasia:CIN)とも呼ばれる子宮頸がんの前段階(前がん病変)です。ほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因とされています。HPVの持続感染は、子宮頸部異形成を経て子宮頸がんへ進展します。
細胞診やコルポスコピーという拡大鏡を使用した生検検査を行い、診断を行います。細胞の異形性の段階によってCIN1から3まで分類されます(図1)。
軽度異形成(CIN1)と中等度異形成(CIN2)は自然消退することも多いため、経過観察を行います。高度異形成(CIN3)に対しては子宮頸部円錐切除術を行います。
https://jsgo.or.jp/animationlist/1285/
現在、当科消化器内科と合同で内視鏡カメラを用いた子宮頸部異形成の診断への有用性についての臨床試験を実施しております。詳しくは、
担当医に確認してください。
術式について
子宮頸部円錐切除術は、子宮頸部を円錐状にくりぬく手術です(図2)。
切除した子宮頸部の細胞を顕微鏡検査し、最終診断が確定されます。入院期間は約3日です。
https://jsgo.or.jp/animationlist/1285/
手術後について
円錐切除術後は少量の赤色帯下が1-2週間継続しますが、徐々に減少して創部が治癒していきます。術後出血量が多い場合は外来に受診して頂く事があります。
術後に子宮頸部高度異形成が再発あるいは残存している場合もあるため、約3か月から6カ月後に子宮頸部細胞診やHPVの検査を行い、治癒しているかを確認します。
骨盤臓器脱(子宮脱など)に対する仙骨腟固定術
骨盤臓器脱(子宮脱など)に対する仙骨腟固定術とは
骨盤臓器脱とは加齢や分娩などにより骨盤の底で子宮や膀胱、直腸を支えている「骨盤底筋群」がゆるみ、子宮、膀胱、直腸の下垂が生じることです。骨盤臓器は靭帯や膜で支えられており、出産や加齢によりそれらが弱くなることで生じます。
骨盤臓器脱の症状
骨盤臓器脱の症状は陰部に何かが下がってきている感じ(下垂感)や何か物がある感じ(会陰部不快感、異物感)、頻尿など排尿障害や排便障害があります。重いものを持つ、排便でいきむなど日常生活の中で腹圧をかけることで生じるため、腹圧をかける動作が困難になり、日常生活に支障をきたします。
治療法について
軽症の場合は骨盤底体操やリングペッサリー(膣内に挿入する器具)などで治療します。中等度以上では手術療法が選択されます。当院ではロボット支援下仙骨膣固定術を行なっております。
術式について
ロボット支援下仙骨膣固定術はまず子宮上部切断術(子宮全摘術)を行い、腟管を剥離しメッシュの尾側端を留置・固定し、頭側端のメッシュを仙骨前面の前縦靭帯に吊り上げて固定する手術です。 骨盤臓器脱の原因である脆弱化した骨盤底に対して、その補強としてメッシュと呼ばれる医療用人工繊維を用いて骨盤底を再建します(図1)。
メリット:従来の子宮脱根治手術と比較して再発率が低いです。また膣や会陰の縫縮は行わないため性交渉は今まで通り行えます。ロボット手術で行うため約1週間で退院でき、退院後もデスクワークなど体に負担のない仕事は通常通り行うことができ早期に社会復帰できます。
デメリット:メッシュ感染や椎間板炎など感染のリスクがあります。
手術後について
手術後は骨盤臓器脱で生じていた様々な症状(下垂感や排尿障害、排便障害など)が改善され生活の質が向上します。またこれまで骨盤臓器脱のせいで出来なかった運動や趣味も行うことが可能となります。
骨盤臓器脱でお悩みの方は一度当院にご相談ください。
子宮頸癌に対する妊孕性温存治療 「広汎子宮頸部摘出術」
子宮頸癌に対する妊孕性温存治療 「広汎子宮頸部摘出術」について
当院では腫瘍の大きさが2cm程度で転移がないような子宮頸癌で、妊孕性温存治療注を希望される患者様に対して、「広汎子宮頸部摘出術」を行っています。この手術では、がんのある子宮頸部、腟の上部、及び子宮の周囲組織を取り除き、子宮の本体、卵巣、卵管は残す術式です。
注:妊孕性温存治療とは、「妊娠する能力を保つための治療」のことです。病気の治療を受ける際にも、将来子どもを持つことができるように、子宮や卵巣などの生殖機能を守るための治療方法です。
術式について
広汎子宮頸部摘出術は一般的な広汎子宮全摘出術に準じて子宮頸部のみを摘出する手術です。摘出した子宮頸部は術中迅速検査にて切除断端から5㎜以内に癌組織がないことを確認し、癌組織が十分に摘出できていることを確かめます。その後、子宮頸部断端部は流早産予防のために縫縮し、腟部と縫合します(図1)。
腹腔鏡手術について
当院ではこの手術を腹腔鏡手術で行う場合もあります。腹腔鏡手術は小さな切開創で行えるため、美容的にも優れており、回復も早く、早期に社会復帰が可能です。しかし、腹腔鏡手術は、狭い視野で行われるため、開腹手術と比べると制約が多いです。本手術では、子宮頚部を切除する際には下腹部を横切って切除摘出を行ったり、縫縮を行ったりします。腹腔内の病変が予想以上に広がっている場合、癒着が強固な場合、予期せぬ出血や周辺臓器の損傷があった場合は、腹腔鏡手術から開腹手術へと切り替えることもあります。
術後合併症や妊娠について
本手術では、手術中のお腹の中の状態で、子宮を残すことが推奨されない場合や、術後追加治療が必要になり妊孕性が維持できなくなる可能性もあります。
また頸管狭窄など不妊の原因となる合併症リスクや妊娠した場合の早産、低出生体重児のリスクなどもあります。希望があれば産科プレコンセプション外来に受診して頂き、妊娠に関することについて詳細な説明を受けることが可能です。