平成30年留学便り

神戸大学システム生理学分野での研究 尾﨑可奈

 2016 年9 月から神戸大学システム生理学分野にて研究をしています。早いもので2 年が経過しました。研究テーマに大きな変更無く、母体炎症モデルマウスにおける胎児ミクログリアの動態を続けています。研究室は、博士課程、修士課程、共同研究、医学部生も加わって、人数が増えています。
 今年に入ってからやっと具体的な研究方法が確立してきた状況です。トランスジェニックマウス(ミクログリアのみGFP が発現するCX3CR1+/GFP マウス)を用いて、妊娠マウスにPoly(I:C)という物質投与することで、ウイルス感染と類似した全身炎症モデルを作成。そこから胎児のミクログリアの状態、さらに、出生後10 日の仔のミクログリアを、共焦点顕微鏡を用いて形態、2 光子顕微鏡を用いて動態を分析することを主に行っています。胎児のイメージングに関しては、子宮内に胎児がいる状態での2 光子顕微鏡での観察には成功しておらず、現在は代用として胎児の急性スライス脳をリアルタイムで観察する方法を用いています。生後10 日の仔マウスは2光子顕微鏡下に固定した状態で、生きた状態で大脳皮質を観察するという方法を用いています。また、胎児ミクログリアのみを抽出して、複数のサイトカインの発現量をRT-PCR で測定し変化がないか検証。さらに、仔の行動に相違がでてこないか実験できればと考えています。
 2018年5 月に進捗を日本産婦人科学会で発表しましたが、炎症モデルにおける、胎児ミクログリアの動態、また、出生後10 日のミクログリアの動態は、突起の動く速度にコントロールと比較すると相違がありました。n数がまだ少ないので、今後は増やして確実な結果がでてくれればと考えています。母体炎症による児への影響、ミクログリアの発生や機能から生理学的に裏付けできるような結論にもっていければと考えています。もうしばらく結果が残せられるよう粘りたいと思います。

神戸大学分子細胞生物学分野での研究 川口徹也

 2017 年7 月から神戸大学分子細胞生物学分野(鈴木 聡教授)で研究を始め、約1 年半が経ちました。はじめは実験に関して右も左もわからない状態でしたが、なんとか自分で実験計画を立て、基本的な実験を行えるようになりました。基本を習得するのに約1 年かかり、いざ自分で実験を組み立ててみるもなかなか結果がでず、焦りながらも実験を繰り返す日々を送っています。
 研究室での日々の過ごし方ですが、毎週月曜日、金曜日にミーティングが行われ、1 週間の実験結果を報告するプログレスレポート、抄読会、これまでの研究結果のまとめを報告する研究報告が行われます。ふだんは担当教官に指導していただきながら実験方針を組み立てるのですが、週に一度のミーティングで研究室全体のアドバイスをいただき、軌道修正をしながら研究を進めています。
 私の研究内容ですが、分子細胞生物学分野の鈴木教授が専門とされているHippo 経路に関連づけた内容で、「婦人科がんの予後と関連のある分子の同定・解析」をテーマに実験をしています。Hippo 経路とは、器官サイズの制御やがん化の抑制に作用すると報告されており、その破綻によりがん化が促進されると言われています。このHippo 経路の構成因子であるYAP が活性化し、細胞の核内で作用すると、細胞増殖に作用してがん化を促進することがわかっています。そこで、ヒト全ゲノムライブラリー約18,000 種類の遺伝子を用いたスクリーニングを行い、YAP の活性化に関与する約950 種類の遺伝子をピックアップしました。その中から卵巣癌において遺伝子増幅がみられ、卵巣癌の予後と相関のある2つの遺伝子に着目し、現在研究を進めています。
 まずは、それらの遺伝子が卵巣癌において実際に増幅されているかを確認することから始めました。「増幅の確認」と言葉に表すと一言ですが、その確認のために様々なプロセスが含まれており、基礎研究の奥深さを感じています。具体的には、増幅を確認するために様々な条件で実験を行い、その条件なら何度実験を行っても同じ結果が得られる、という再現性の有無を確認した上で、もっとも有意差の得られる条件をみつけていきます。その条件のもとで増幅の確認を行っていきます。この一連のプロセスを経て結果が出るのに数日、時には週単位の時間がかかるのですが、それでも期待していた結果が出ないということも多々あります。仮に結果が出なかったとしても、得られたデータをもとに再度検討を行い、改善すべき点をみつけ、結果が出るまで根気強く実験を続けます。これは臨床にも通じており、常に探究心をもって粘り強く物事に取り組む姿勢を学んでいるようにも感じます。

神戸大学iPS 細胞応用医学分野での研究 田中恵里加

 2018年4 月から、神戸大学大学院医学研究科内科系講座iPS 細胞応用医学分野で研究を行っています。
 iPS 細胞について簡単にご紹介します。iPS 細胞とは、2006 年に誕生した人工多能性幹細胞です。人間の皮膚などの体細胞(一度分化した細胞)に、4つの初期化因子を導入することによって、未分化な状態に戻すことで作製されます。英語では「induced pluripotent stem cell」と表記するため、頭文字をとって「iPS 細胞」と呼ばれています。様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもち、病態解明や再生医療などに用いられ、国内外で研究が進んでいます。
 神戸大学iPS 細胞応用医学分野は、2013 年に青井貴之教授が着任され、スタートしました。現在、さまざまな科から大学院生やポスドクの先生が集まり、それぞれ自分の専門分野に関連するテーマで研究を進めており、とても活気のある研究室です。毎週水曜にミーティング・進捗報告会、金曜に抄読会が行われます。そこでは実験の方向性やプレゼンテーションの方法など、アドバイスをたくさんいただくことができます。皆、研究テーマはそれぞれ異なりますが、研究熱心であり、とても刺激を受けます。また親切で、何もわからない未熟な私のことを気にかけてくれ、実験のこと、研究室のルールなどたくさんのことを教わりました。このような素晴らしい研究室で、充実した毎日を過ごせています。
 私の研究テーマは「iPS 細胞から胎盤(trophoblast)を分化誘導させる」ことです。妊娠高血圧症候群、胎児発育不全、流産などの妊娠合併症は胎盤の初期発生の過程が障害されることが一因となっていると言われていますが、その機序については不明な点もまだ多くあります。そこで、iPS 細胞からtrophoblast への分化が可能になれば、その胎盤の初期発生の過程について研究することができます。また疾患患者様から作製したiPS 細胞を用いることで、例えば、原因不明の不育症などの病態解明や治療法開発にも貢献できるかもしれません。とても夢のあるテーマだと思っています。研究についてはまだ途中の段階で、行き詰まることも多いですが、引き続き頑張っていきたいと思います。
 まだまだ初心者のつもりでしたが、研究室にお世話になってから、早くも1 年が過ぎようとしています。最初はあまりの基礎医学の知識の無さに落ち込み、ディスカッションについていけず、戸惑うばかりでしたが、ようやくなんとか慣れてきたような気がします。
 研究室生活をしていて、「すごい」と思う研究者の先生ほど、ただ賢いだけではなく、並々ならぬ努力をしているということに気づかされました。実験のアイデアを思いつくたびに次から次へと試行錯誤したり、膨大な量の文献を読んだり、そのために睡眠時間を削ったり、夜中や休日も研究室に出てきたりしている姿をみます。それでも必ずしも良い結果が得られるという保証がない、という厳しい世界ですが、その中でも、地道な努力を続けている姿は本当に尊敬します。

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