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脳血管内治療

当施設では開頭手術だけでなく,カテーテルを用いて治療を行う脳血管内治療を行っております.開頭手術と比較して,小さな創(足の付け根に数ミリの創)で治療することから,低侵襲治療として発達してきました.治療時には,足の付け根の創部から頭部までカテーテルを誘導して,様々な疾患に対して血管を広げたり(血管拡張術),閉塞させたり(塞栓術)して治療を行います.体への負担が少ないと言う点が利点で,多くの場合局所麻酔で行いますが,病気によっては全身麻酔が必要になることもあります.当科は日本脳神経血管内治療学会の研修施設に認定されており,学会認定指導医,専門医を中心として治療を行っております.以下に当科で扱う代表的疾患をお示しします.

参考サイト

脳動脈瘤に対する塞栓術

破裂脳動脈瘤

脳の血管(動脈)の一部に壁の薄い部分が出来,これがこぶ状に膨らんだものを脳動脈瘤と言います.脳動脈瘤の壁は正常血管と異なり,薄く弱いために破裂(出血)することがあり,破裂した場合にはくも膜下出血を引き起こすことになります.出血を起こすと,これまでに経験のない激しい頭痛と嘔吐が出現し,多くの場合は意識がなります(意識障害).

くも膜下出血を発症した場合には発症早期に約1/3の方が命を失い,残りの2/3の患者様は病院に搬送されて手術を受けることになりますが,後遺症なく社会復帰することが出来るのは約半数(全体としては1/3)と言われております.一旦破裂した脳動脈瘤は未処置の場合,ほとんどが再破裂するとされております.この場合,初回出血よりも重篤となり生命を脅かすことになるため,再破裂予防のための治療が必要です.再破裂予防を目的とした脳動脈瘤の治療は,動脈瘤に流入する血液を止めて体循環から遮断することです.

再破裂予防の治療法は二種類あり,開頭術により動脈瘤を金属(チタン製)のクリップで挟み込んで動脈瘤を閉塞する方法(脳動脈瘤クリッピング術)と開頭術は行わずに血管内からカテーテルを挿入してプラチナコイルで動脈瘤を閉塞する脳動脈瘤コイル塞栓術という方法です.開頭術では実際に脳を圧排しながらその間にある血管を露出するために,脳実質の損傷,クリップによる正常血管の閉塞(脳梗塞)などの危険性は伴いますが,脳動脈瘤を直接露出させて閉塞させるために,術中の動脈瘤の破裂にも対処可能であり,多くの場合クリップで確実に処理できます.開頭術による治療は古くから確立した治療として広く行われており,現在では手術の死亡率<1%,後遺症<5%であるとされております.

脳動脈瘤塞栓術は開頭手術と比較すると比較的新しい治療ですが,直接脳を触ることはありませんので,低侵襲であり脳損傷の可能性は少ないことから,治療対象が広がっております.特に全身状態が開頭術に向かずに手術困難であると考えられる症例においても治療可能な場合があります.しかし,直視下に動脈瘤を見て手術をする開頭術と比較して,術中に動脈瘤が破裂した場合には止血操作が困難になり,緊急開頭術による止血を必要とすることがあります.動脈瘤の形状や周囲の血管の状況によっては動脈瘤を完全に閉塞できないこともあり,この場合は破裂した部分のみを再出血しないように処置し,後日開頭手術をするという複合治療も可能です.図1に破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術の1例を提示します.動脈瘤内に挿入されたマイクロカテーテルから挿入したコイルで脳動脈瘤の描出が消失していることがわかります.

【図1】
  • 破裂脳動脈瘤
  • 破裂脳動脈瘤
  • 破裂脳動脈瘤
  • 破裂脳動脈瘤

最大径14mmの内頸動脈動脈動脈瘤(A,矢印)に対してコイル塞栓術を行った.マイクロカテーテルを動脈瘤内に誘導(B)し,最初のコイルを挿入(C),順次コイルを追加することで動脈瘤が描出されなくなった(D).

未破裂脳動脈瘤

前述のように破裂するとくも膜下出血を引き起こす脳動脈瘤の保有率は約3%程度と言われておりますが,脳動脈瘤が破裂する前に発見された場合,これを未破裂(破裂していない)動脈瘤と言い,くも膜下出血を引き起こした破裂脳動脈瘤とは区別しております.未破裂脳動脈瘤の治療を考える際には,発見された脳動脈瘤が将来に渡ってどれくらいの割合で破裂する可能性があるのかが重要ですが,現在の所正確にはわかっていません.日本の研究からは一年に1-2%の破裂率であろうと考えられておりますが,欧米の報告での破裂率は一年に0.05%にしか満たないという研究結果もあります.この確率は将来に渡って累積して考えますので,今後10年で10-20%,20年で20-40%の方が破裂してくも膜下出血を発症すると考えられます.

治療に関しては日本脳ドック学会が作成したガイドラインが参考になります.それによりますと,

  • 脳動脈瘤の最大径が5mm前後より大きい
  • 年齢がほぼ70歳以下
  • その他の条件が治療を妨げない場合

に手術治療が勧められるとされております.
ことに10mm前後より大きい病変は強く勧められるが,3,4mmの病変,70歳以上の場合にも,脳動脈瘤の大きさ,形,部位,手術の危険性,患者の平均余命を考慮して個別的に判断すると推奨しております.このように治療の適応については個別の判断が求められ,それぞれの治療には優れた点があり,我々は各々の患者様の検査結果をカンファレンスで検討し,治療の選択を提案できるようにしております.

破裂及び未破裂脳動脈瘤のコイル塞栓術は全身麻酔で原則,全身麻酔で行います.通常,右大腿動脈(足の付け根の血管)からカテーテルを挿入しますが,両側の大腿動脈や,左右の上腕動脈(肘の血管)から二本のカテーテルを挿入することもあります.ガイドになるカテーテルを脳の血管に近い部分まで進めて,この中にマイクロカテーテルと呼ばれる直径1mm程度の細いカテーテルを挿入してこれを脳動脈瘤まで進めて留置します.この中にプラチナ製の金属コイルを進めて動脈瘤内に充満させることで動脈瘤を閉塞させます.コイルが動脈瘤から逸脱してくる時には,先端に風船(バルン)がついたカテーテルを追加で挿入し,コイルを支えたり,頭蓋内血管に使用するステントが必要になることもあります.

治療に際しては,血液を固まりにくくする薬(抗血小板剤)を服用していただき,術後も一定期間の服用が必要です(頭蓋内ステント使用時には継続的な服用が必要).手術後には約半年前後に経過観察のための脳血管撮影が必要となる場合があります.手術後に挿入したコイルが変形して動脈瘤の一部にかたよることがあり,この場合には動脈瘤が再発することになり,再発した場合には追加治療が必要になる場合があります.

脳動静脈奇形に対する塞栓術

胎生期(母親の胎内で)に脳血管は動脈・毛細血管・静脈に分化しますが,この分化がうまく起こらずに脳動脈が脳静脈に直接つながった(短絡と言います )病気を脳動静脈奇形と言います.恐らく先天的な血管異常であると考えられておりますが,はっきりした原因については不明です.脳動脈が脳静脈に直接短絡するのですが,この間には正常の血管壁の構造を有しない異常な血管の集まり(ナイダスと言います)が存在し,この部分には脳動脈からの血圧が直接作用し,多くの血流が流入します.通常は5-10mmHg程度の圧しかない脳静脈に120-140mmHgの動脈圧が直接掛かるために,脳動静脈奇形は破れて出血を起こすことがあり,脳出血やくも膜下出血により,大きな後遺症を残すこととなります.

また,脳血流の多くが脳動静脈奇形に盗られる(盗血と言います)ために,正常脳の血流が不足し,てんかん発作を引き起こすこともあります.脳動静脈奇形はその約半数の方が出血を引き起こして発症し,約30%程度の方がてんかん発作で発見されます.脳動静脈奇形が出血する危険率は年間2-3%と言われておりますが,一旦出血すると約30%の方は重度の後遺症が残存し,約30%の方は死亡すると考えられております.更に一旦出血した場合はその後の再出血率は年間6%と倍増すると言われております.よって,破裂して発見された場合は出血前(未破裂)に発見された方とは異なり,早急に再出血予防のための治療が必要であると考えます.未破裂で発見された場合は今後の出血予防のために治療を十分に検討する必要があります. 脳動静脈奇形の治療は大きく分けて,開頭術による脳動静脈奇形摘出術,定位放射線治療(ガンマナイフと言われます),脳血管内治療による塞栓術がありますが,これらの治療を単独でないしは,組み合わせて各々の患者様に適切な治療を選択します.以下に当科で行う塞栓術を概説します.

塞栓術は全身麻酔で原則,全身麻酔で行います.通常,右大腿動脈(足の付け根の血管)からガイドカテーテルを挿入し,マイクロカテーテルと言われる細いカテーテルを脳動静脈奇形の栄養血管まで進めます.ここから塞栓物質と呼ばれる物質を注入する治療方法です.この治療単独では脳動静脈奇形が完全に消失する可能性は10%に満たないと言われており,原則この治療のみで脳動静脈奇形を治療することは困難と考えております.よって,多くの場合はその後に開頭術による脳動静脈奇形摘出術や定位放射線治療が追加治療として必要となります.流入している血管を塞栓する際には,急激な血流の変化を避ける目的で治療が複数回にわたる(一回の治療で数本の血管を閉塞させる)場合もあります.血管内に留置するのは,プラチナ製の金属コイルや液体塞栓物質を使用します.古くから用いられている液体の塞栓物質はヒストアクリールと呼ばれ,外科用接着剤という医療材料として販売されており,本来は脳血管に注入する目的で製造されておりません.しかし,この物質が血液と触れることで即時に硬化する性質を利用することで病変に注入した直後から止血効果があり,脳動静脈奇形の治療では古くから使用されて来ました.またその止血効果も永続的であるとされ,再開通は非常に稀であると考えられており,脳動静脈奇形の治療では第一選択として使用されてきました.

しかし,近年新たな液体塞栓物質として発売されたオニックスという塞栓物質はヒストアクリルの欠点であったカテテールとの接着性が改善されており,同じ血管からより多くの量の塞栓物質を注入できるようになりました.当科におきましても現在はこの塞栓物質を第一選択として用いております.図2にこのオニックスで治療した脳動静脈奇形の1例を提示します.病変部にいちさせたマイクロカテーテルから塞栓物質を注入し,最終的な血管撮影で脳動静脈奇形がほぼ描出されなくなっています.患者さんは翌日開頭手術を受け,脳動静脈奇形は全摘出されました.

【図2】
  • 脳動静脈奇形に対する塞栓術
  • 脳動静脈奇形に対する塞栓術
  • 脳動静脈奇形に対する塞栓術
  • 脳動静脈奇形に対する塞栓術

前頭葉の脳動静脈奇形(A,矢印)に対してOnyxを用いた塞栓術を行った.マイクロカテーテルを動脈瘤内に誘導してOnyxの注入開始(B),数本の血管からOnyxを注入することで(C),脳動静脈奇形がほぼが描出されなくなった(D),翌日に開頭術で脳動静脈奇形を摘出した.

硬膜動静脈瘻に対する塞栓術

脳をつつむ膜である硬膜に異常な動脈と静脈のつながりが生じ,本来低い圧であるはずの脳静脈に高い圧をもつ多数の動脈が直接流れ込むことにより,静脈高血圧が生じ,様々な問題を生ずる病気です.前述の脳動静脈奇形と異なり,後天的な病気であると考えられております.珍しい病気であり,本邦での発生頻度は0.29人/10万人/年とされております.硬膜動静脈瘻はその発生部位により,様々な症状を出します.代表的な症状は動脈から静脈へ異常な血流が流れることによる拍動性耳鳴りがあります.

治療を考える上で重要な要素は,脳血管撮影において脳静脈への流出があるか(脳静脈の逆流)が重視されます.この静脈高血圧がある場合には脳循環が慢性的に障害され,脳に悪影響を及ぼします.脳循環が障害されることで痴呆のような症状が出現したり,重篤な合併症である脳出血を引き起こす可能性があります.脳静脈への逆流がある方は,年間死亡率が10.4%,重篤な有害事象の年間発生率は15%になるという報告もあり,このような方は治療をお勧めしております.この10年間で当科の責任者が当科及び関連病院で治療した症例の内訳を図3にお示しします.当科では様々な部位に発生するこの疾患に対して,本邦で行われた全国調査と比較して偏り無く治療経験があります.

【図3】
  • 硬膜動静脈瘻に対する塞栓術
  • 硬膜動静脈瘻に対する塞栓術

この病気に対しての治療は,以前は開頭術が行われたり,放射線治療が行われたりしておりましたが,現在では細いカテーテルを使用した血管内治療が第一選択とされています.しかし,現在でもカテーテル治療が不可能な場合には,開頭術,放射線治療を追加する場合もあります.カテーテル治療ではプラチナ製の金属コイルないしは液体の塞栓物質を挿入して病変を閉塞しますが,静脈側から病変に近づき,塞栓物質(金属コイル)を挿入して病変を閉塞(塞栓)するのが最も効果的であると考えられております.これが不可能な場合には,動脈から塞栓物質を挿入して病変の血流を減少させる治療もあります.治療法の選択に関しては,脳血管撮影による詳細な検討により決定します.

治療は原則局所麻酔で行いますが,使用する塞栓物質の種類によっては全身麻酔が必要になることもあります.大腿部(ふともも)の付け根から動脈と静脈に複数本のガイドカテーテルを挿入し,脳の近くまで進めます.静脈の中にカテーテルを進めるには時間が掛かることが多く,手術時間も5-6時間掛かることもあります.また,血管内手術では長時間の放射線照射が必要になることが多く,頭部の脱毛が起こることがありますが,多くは一時的な脱毛であり,その後数ヶ月で改善します.図4に脳出血で発症した横静脈洞部の硬膜動静脈瘻の1例を提示します.横静脈洞部から脳静脈へ逆流していた血流は,病変部に留置されたコイルで完全に消失していることがわかります.

【図4】
  • 硬膜動静脈瘻に対する塞栓術
  • 硬膜動静脈瘻に対する塞栓術
  • 硬膜動静脈瘻に対する塞栓術
  • 硬膜動静脈瘻に対する塞栓術

側頭葉の脳出血(A,矢印)で発症.脳血管撮影では,左横静脈洞部に硬膜動静脈瘻が認められ(B,矢印)塞栓術を行った.マイクロカテーテルを病変部に誘導してプラチナコイル(C,矢印)を挿入して塞栓を行い,病変の完全消失が得られた(D).

頸動脈狭窄症に対するステント留置術

頸動脈狭窄症とは,脳に血液を供給する主要な血管である頸動脈が動脈硬化症などによって狭くなる(狭窄)病気です.この病気の頻度は,症状を呈していなくとも50-79歳の方では約6%程度は50%以上の狭窄が発見されると言われており,全身の動脈硬化性病変と関連しています.

頸動脈に狭窄があると,脳へ供給される血液量が減少すること,狭窄部の血液の乱流などで血液の固まり(血栓)ができ,正常の脳血管に詰まることの主に二つが問題となります.脳への血液供給が途絶えることで発症する脳梗塞では,その症状は一時的な発作の場合と,様々な後遺症を残すことがあります.

症状は脳梗塞に陥った脳がどのような機能を持っているかによって異なるため,手足の麻痺,言葉が理解できないないしは発語が出来ない(失語症),感覚障害,視機能障害,記憶障害さらには寝たきり状態,生命の危険にかかわる程度までさまざまです.

治療方法としては,薬剤投与による内科的治療と外科的治療の二つがあります.内科的治療としては動脈硬化の悪化を防ぐために高血圧,高脂血症,糖尿病,不整脈の治療を行い,危険因子(喫煙や飲酒)を除去することが主体となります.さらに血液が固まることを防ぐために,抗血小板剤や抗凝固剤の薬剤を使用します.外科的治療方法は,狭窄部分を手術的に拡げる手術を行うもので,頸部切開により狭窄血管を露出して狭窄部分を切除して拡げる方法(血栓内膜剥離術)と,病気の部分まで誘導したカテーテルのなかに,バルーンカテーテルという風船を装着した特殊なカテーテルで狭窄部分を押し拡げる方法(脳血管内手術)の二つがあります.頚動脈狭窄症に関する治療効果に関する検討では,症状のない(無症候性)60%以上の頚動脈狭窄を有する方はお薬による内科的治療で11%/5年の割合で脳梗塞を発症する可能性があり,外科的治療を行うことで5%/5年まで低下すると報告されております.

一方,虚血発作等の症状がある(症候性)方では,70%以上の狭窄がある場合には内科的治療を行っても26%/2年という高率な割合で脳梗塞を発症する可能性がありますが,外科的治療を行うことで9%/2年まで低下させることが出来たと報告されております.症候のある方は,50%以上であれば手術を行うほうが再発が少ないということがその後報告されております.

これらの結果から,狭窄率が高くなると(無症候性80%以上,症候性50%以上),投薬のみに寄る内科的治療よりも外科的治療が望ましいであろうと考えております.カテーテルの治療は外科的治療が難しい場合や,血管の状態から手術に向かないと考えられる方を中心として行われており,様々な要因を考慮して治療方法をお勧めしております.

治療は主として大腿動脈(ふとももの付け根)からから支えになるガイドカテーテルを挿入して,そのなかにバルーンカテーテル(風船付きカテーテル)を通して狭くなった部分を押し拡げる治療方法です.下肢の動脈に閉塞性動脈硬化症(ASOと呼ばれます)がある場合には,上腕動脈(肘の動脈)から治療を行うこともあります.病変部分をバルンで押し広げたり,ステントを留置したりする間に発生すると考えられる塞栓類は,これが脳に流れていかないように,より遠位部に留置したバルンやフィルターでブロックして治療を行います.血栓内膜剥離術に比べて,創が残らないこと,血行の遮断時間が数十秒から数分と短いことが利点です. 図5に頸動脈狭窄症に対するステント留置術の1例を提示します.狭窄部はバルンと留置したステントで良好に拡張していることがわかります.

【図5】

硬膜動静脈瘻に対する塞栓術

脳梗塞で発症し,原因として矢印で示す頸動脈狭窄症(A,B)が考えられた. バルーンカテーテルで狭窄部を拡張させ(C),ステント留置を行った.これに より,狭窄が改善した(D, E).

急性期脳主幹動脈閉塞症に対する血栓回収療法

ある日,ある時に突然発症する急性脳主幹動脈閉塞症(頭蓋内の主要な血管の急性閉塞)は放置すれば重篤な後遺症を残し,早期の治療が必要です.この閉塞した脳動脈を早期に再開通することが出来れば,患者さんの予後が改善できるということが様々な臨床研究から明らかになってきました.発症3時間以内の急性期脳梗塞に対するrt-PA(アルテプラーゼ)静注療法の有効性が示され,我が国では2005年10月から臨床で用いられております.

その後2012年8月には,この治療法は発症4.5時間まで治療適応が拡大されました.当科におきましても,急性期脳梗塞に対してはrt-PA静注療法を第一選択として位置づけております.この治療には,出血性合併症を避けるため様々な適応条件があり,全脳梗塞患者さんの中でrt-PA静注療法の適応となるのは1割に満たないという報告もあります.

近年,頭蓋内に安全に誘導出来るデバイス(機器)の発達により,急性期脳主幹動脈閉塞症に対してカテーテル治療が有効であることが証明されてきております.本邦では,発症6時間以内の中大脳動脈閉塞症に対して頭蓋内の閉塞部位まで誘導したマイクロカテーテルから行う局所線溶療法の有効性を示す試験が行われ,この治療により患者さんの予後が改善できるということが示されました.

その後,様々な血栓回収機器が出現し,これらを用いた経皮経管的血栓回収療法により発症後8時間以内の急性期脳梗塞における有効性が示されてきました.rt-PA静注療法の適応外の患者さんや,rt-PA静注療法が無効な患者さんでも,発症8時間以内に血栓回収療法を行い,閉塞動脈を再開通させることで患者さんの予後が改善することが証明されてきました.当科では急性脳主幹動脈閉塞症の患者さんに対する血栓回収療法を24時間体制で行っております.

前述のように,急性期脳梗塞の患者さまには,まずrt-PA静注療法の適応を考慮しますが,rt-PA静注療法の適応外である患者さんや,rt-PA静注療法を行ったが,無効である患者さんには積極的にカテーテルによる経皮経管的血栓回収療法を行っております.図6に急性期左中大脳動脈閉塞症に対する血栓回収療法の1例をお示しいたします.カテーテルで回収された血栓と,再開通により,左大脳半球の血流が良好となっていることがわかります.

【図6】

硬膜動静脈瘻に対する塞栓術

突然の左半身麻痺,失語で発症し,MRI検査では脳梗塞(A)を認めた.脳血管撮影により左中大脳動脈閉塞を認 め(B,矢印),血栓回収カテーテルを誘導(C,矢印)して血栓回収を行った(C,挿入図は回収された血栓).それ により閉塞血管の再開通が得られ,症状の改善を認めた(D).