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脳腫瘍

脳腫瘍(総論)

脳腫瘍は、頭蓋内に発生した腫瘍を指し、脳実質から生じたものと脳実質外から生じたものに大きく分かれます。脳実質から発生したものは、神経膠腫(グリオーマ)や悪性リンパ腫、転移性腫瘍などがあり、脳実質外から発生したものは髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腫瘍などがあります。一般的に、脳実質から発生した腫瘍は悪性タイプが多く、脳実質外から発生した腫瘍は良性タイプが多い傾向があります。

脳実質から発生した脳腫瘍は、脳に浸潤し、手術で全摘出できないことも多く、手術のみではなく放射線治療や化学療法(抗がん剤治療)を併用しなくてはならないことがあります。一方、脳実質外から発生した腫瘍は、脳の表面にできれば問題ありませんが、頭蓋底部など脳深部に発生することもあり、手術での摘出が時に困難なこともあります。したがって、脳実質外から発生した良性脳腫瘍でも脳深部の頭蓋底に発生したものは、必ずしも良好な経過を辿るとは限りません。

当教室脳腫瘍グループは、脳腫瘍に対して画像、病理、遺伝子診断など包括的に診断し、個々の患者さんのニーズを考慮し、検査結果に基づいて各種の治療(手術、放射線療法、化学療法、免疫療法など)を提供しています。

手術は、Brain LAB社のナビゲーションシステム、術中蛍光診断が可能なLICAの手術用顕微鏡、術中MRI装置(3.0テスラのMRI:SIMENS社 MAGNETOM Skyra 3T)、神経機能モニタリング(SEP, MEP, VEP, ABR, NIMなど)、脳皮質・白質マッピング、3D/4K内視鏡などの最新手術支援機器を導入し、脳・神経の機能温存、手術の低侵襲化、治療成績の向上に日夜努力しています。神戸大学では、手術室の隣に術中MRI装置が装備され、手術中にMRIが行えるようになり、より安全により正確に腫瘍の摘出が行えます。当院の術中MRI装置は、より細かな解析が可能な3.0テスラのMRI を入れており、形態学的診断のみでなく、神経の走行を見たり、代謝物を見たり、血流などの解析も可能であり、術中の腫瘍の変化や残存腫瘍の把握に活用しています。


  • 手術室とナビゲーションシステム

  • 術中MRI装置

悪性脳腫瘍は手術のみでは治らないので、手術以外の治療(放射線療法、化学療法、免疫療法)も積極的に行っています。膠芽腫に対しては、新たな治療法である電場療法(オプチューン)を外来維持療法で積極的に行っています。放射線治療は放射線腫瘍科の先生と協力して行い、必要に応じてサイバーナイフやガンマナイフなどの定位的放射線治療や、陽子線治療、重粒子線治療などを行っています。定位放射線治療は神戸大学では行えませんので、関連病院である低侵襲がん医療センターや、新須磨病院ガンマナイフセンターと協力して行っています。

化学療法などの抗がん剤治療が必要であれば、脳神経外科で化学療法を行っています。脳腫瘍はそれぞれ有効な抗がん剤が異なりますので、各患者さんの腫瘍の性質を解析し、最も有効な治療薬を選択し、治療を行っています。抗がん剤治療は場合によっては腫瘍血液内科の先生と協力して行います。また、転移性脳腫瘍などの様に、原発癌が存在する患者さんは、原発癌の治療を主に行う診療科と協力して抗がん剤治療を行います。この様に、悪性脳腫瘍は、脳神経外科だけでは治療できないことが多いので、他の診療科と連携して、チーム医療を行っています。

主な脳腫瘍(各論)

神経膠腫(グリオーマ)

脳を構成する膠細胞(グリア細胞)が腫瘍化したものを、神経膠腫(グリオーマ)と呼びます。神経膠腫は原発性脳腫瘍の中で最も頻度が高い腫瘍の1つで、脳腫瘍を代表するものです。神経膠腫は病理学的な特徴から、星細胞腫、退形成星細胞腫、膠芽腫、乏突起膠腫、退形成乏突起膠腫、上衣腫、退形成上衣腫、脈絡叢乳頭腫などに分類されます。一概に神経膠腫といっても、それぞれ悪性度や進行速度、治療に対する反応や予後が異なります。手術のみでも成績が良いもの、化学療法が効果的なもの、放射線療法と化学療法を併用することで良好な成績が得られるものなど、これまでの研究や経験で多くのことが解明されてきました。神経膠腫(グリオーマ)といっても様々な治療法があり、そのためには、手術により腫瘍を採取し正確な病理診断を得る必要があること、場合によっては特殊な免疫染色や染色体検査をおこなう必要があります。

良性グリオーマは手術(開頭腫瘍摘出術)のみで治癒するものもありますが、悪性グリオーマは手術治療のみでは治癒が得られる可能性が極めて低く、再発や再増大を来します。したがって、化学療法や放射線療法、免疫療法を組み合わせた集学的治療をおこない、腫瘍の再発や再増大を抑えます。悪性神経膠腫の場合、できるだけたくさん摘出する方が治療成績はよいことが報告されています。しかし、神経膠腫の腫瘍と正常脳組織の境界が不明瞭なために、重要な脳機能をもつ部分の摘出には細心の注意が必要です。

≫神経膠腫(グリオーマ)について詳しくはこちら

中枢神経悪性リンパ腫

血液細胞の中のリンパ球が腫瘍化した腫瘍で、比較的高齢者に多く、原発性脳腫瘍の3~5%を占めます。リンパ腫はB細胞系とT細胞系とに分類されますが、中枢神経悪性リンパ腫の殆どはB細胞系のリンパ腫です。進行が非常に早く、頭痛、認知力低下、精神症状(無欲、傾眠、記憶障害)、麻痺、動作緩慢などの症状でしばしば発症します。また、眼球にも併発することが多く、視力低下、霧視などの眼症状で発症することもしばしば認められます。

中枢神経リンパ腫の診断は、MRI、PETなどの画像診断、髄液検査などで術前診断を行い、生検術や摘出術で腫瘍組織を採取して病理検査を行うことで確定します。最近は髄液腫瘍マーカーが確立してきており、生検困難な場合は髄液検査で確定診断します。

中枢神経悪性リンパ腫の診断

治療は、最近はメソトレキセートを中心とした多剤化学療法(R-MPV療法: リツキシマブ、メトトレキセート、プロカルバジン、ビンクリスチン)とその後の大量Ara-C療法が標準治療となっています。神戸大学では初期治療では極力放射線治療を行いませんが、化学療法で腫瘍が消失しない場合は、ガンマナイフ等の放射線療法を追加します。

中枢神経悪性リンパ腫の症例

悪性リンパ腫は比較的治療に良く反応し、初期治療でほとんど消失しますが、再発することが高いのが特徴です。当施設では、再発時には新薬であるチラブルチニブ(商品名:ベレキシブル)を積極的に使用していますが、その他、カルボプラチンとエトポシドを用いたR-CARE療法や、R-MPV療法の再投与など化学療法や放射線治療や定位放射線照射などの治療を行っています。

中枢神経悪性リンパ腫の症例

神戸大学脳神経外科では、医師主導試験や治験、また観察研究を積極的に行っています。

神戸大学脳神経外科で行っている臨床試験
  • (1) 企業治験
    • ⅰ)ONO-4059-02E試験 「再発又は難治性の中枢神経系原発リンパ腫に対する拡大治験」
  • (2) 医師主導治験
    • ⅰ)高齢者R-MPV試験
      「高齢者の初発中枢神経系原発悪性リンパ腫 (PCNSL) に対して、R-MPV 療法、それに引き続いた放射線治療と大量Ara-C療法を行う際に、高齢者機能評価により治療強度を調整した場合の治療効果と副作用を探索する多施設共同臨床試験(phase II)」
    • ⅱ)JCOG1114試験
      「初発中枢神経系原発悪性リンパ腫に対する照射前大量メトトレキサート療法+放射線治療と照射前大量メトトレキサート療法+テモゾロミド併用放射線治療+テモゾロミド維持療法とのランダム化比較試験」
  • (3) 観察研究
    • ⅰ)中枢神経系悪性リンパ腫に対する放射線化学療法の治療効果ならびに予後を規定する因子に関する研究
    • ⅱ)中枢神経原発悪性リンパ腫における発がんの分子機構の解明および治療法の開発に関する研究
    • ⅲ)中枢神経悪性リンパ腫の髄液診断マーカーの研究

髄膜腫

脳・脊髄をつつむ髄膜(硬膜、くも膜)から発生する良性腫瘍で、原発性脳腫瘍の中で最も多い腫瘍です。進行が遅く徐々に脳を圧迫して、発生した部位により様々な神経症状をひきおこします。また、症状が出現しにくい場所に発生した場合は、非常に大きくなってから発見されることもあります。また、最近は脳ドックなどで、無症候性の髄膜腫としても発見されることが多くなっています。髄膜腫は発生した部位により分類されます。大脳の表面の髄膜から発生する円蓋部髄膜腫や、大脳鎌に発生する大脳鎌髄膜腫、蝶形骨縁髄膜に発生する蝶形骨縁髄膜腫や側脳室内に発生する三角部髄膜腫、また、頭蓋底部に発生する錐体斜台部髄膜腫、小脳橋角部髄膜腫、嗅窩部髄膜腫、大孔部髄膜腫などがあります。

進行が緩徐であるため無症状の場合は経過を見る場合もありますが、症状がある場合や将来症状が出現する可能性が高い場合は手術による摘出を行うのが一般的です。手術はナビゲーションシステムや電気生理学的モニタリングを用いて、症状を悪化させることなく、全摘出をめざしています。頭蓋底や脳深部に発生したものでは全摘出が困難な場合もあり、定位的放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフ)等を行う場合もあります。

また、髄膜腫は時に髄膜の血管から豊富な血流を得て、腫瘍栄養血管が発達している場合があります。そのような腫瘍は手術中に沢山出血してしまいます。手術中の出血を軽減させるために、手術前に血管塞栓術を行う場合もあります。手術中の出血が軽減できれば、より安全に手術が可能となります。

髄膜腫

髄膜腫

神戸大学脳神経外科で行っている臨床試験

(1)医師主導試験
「悪性髄膜腫に対する光線力学的療法(Photodynamic therapy;PDT)の有効性と安全性を検討する第Ⅱ相臨床試験」
稀ですが悪性のものもあり、早期の再発や転移を起こすものもあります。神戸大学では、悪性髄膜腫に対して光線陸学療法を用いた医師主導臨床試験を実施しています。

神経鞘腫

神経鞘腫は末梢神経のシュワン細胞から発生した腫瘍です。組織学的悪性度はWHO分類ではグレードIの良性腫瘍です。原発性脳腫瘍の約10%を占め、40歳~60歳の女性に多く発生します。脳神経では聴神経からの発生が圧倒的に多く、聴神経以外では三叉神経、顔面神経、舌咽・迷走神経、舌下神経の順に多く発生します。

≫聴神経鞘腫について詳しくはこちら

神戸大学脳神経外科で行っている臨床試験

(1)観察研究
「水頭症を合併した聴神経腫瘍患者さんの臨床的特長および治療経過に関する研究」
神戸大学医学部附属病院脳神経外科では、現在、平成20年1月1日~平成27年6月30日の期間中に本院で聴神経腫瘍の手術を受けられた患者さんを対象に、「水頭症を合併した聴神経腫瘍患者さんの臨床的特長および治療経過に関する研究」を実施しております。尚、この研究についてご質問等ございましたら、下記までご連絡ください。

【問い合わせ窓口】
神戸大学医学部附属病院脳神経外科 :篠山隆司
(連絡先:078-382-5966)

下垂体腫瘍

下垂体とは、頭蓋骨の底(鼻の奥)に存在する2cmほどの小さい組織で、いろいろなホルモンを分泌する重要なところです。

ここより生じる腫瘍は、ホルモンを過剰に出すタイプ(機能性下垂体腺腫)と、出さずに体積が大きくなるタイプ(非機能性下垂体腺腫)とに大きく分かれます。また、周囲にある組織から、頭蓋咽頭腫、ラトケ嚢胞、髄膜腫などの腫瘍が生じることもあります。

症状も、腫瘍がまわりの脳や視神経などを圧迫することによって起きるものや、ホルモンが出すぎたり逆に出なくなったりすることによるものなど、さまざまなものがあります。

≫下垂体疾患について詳しくはこちら

胚細胞腫瘍

胚細胞腫瘍は、胎児期の胚細胞に由来すると考えられている腫瘍で、頭蓋内にも発生します。多くは小児期に発生し、平均診断年齢は18歳前後です。発生部位は主に松果体とトルコ鞍上部で、水頭症、上方注視麻痺、視力・視野障害、尿崩症、下垂体機能不全症などの症状を発症します。女性では無月経で気付く場合もあります。胚細胞腫瘍には以下に示すような様々な組織型があます。

胚細胞腫瘍の組織型 胚腫  (Germinoma)
奇形腫  (Teratoma)
卵黄嚢腫瘍 (Yolk Sac Tumor)
胎児性癌  (Embryonal Carcinoma)
絨毛癌  (Choriocarcinoma)
混合性胚細胞腫瘍  (Mixed Germ Cell Tumor)

さまざまな胚細胞腫瘍

治療は組織型によって異なりますが、基本的に手術、放射線治療、化学療法などの治療を組み合わせて治療を行います。胚腫は、放射線療法、化学療法にとても感受性があり、奇形腫は放射線療法、化学療法に対して感受性が低く、手術での摘出が必要であります。卵黄嚢腫瘍、胎児性癌、絨毛癌は悪性の胚細胞腫瘍と言われ、強力な放射線治療、化学療法が必要です。

胚細胞腫は小児期に発症することが多い腫瘍です。小児の胚細胞腫は、小児科、放射線腫瘍科と連携して治療にあたります。成人で発症したものでも、若年の患者さんでは小児科の先生と相談して治療を行います。また、乳児の場合で手術が必要な場合は、兵庫県立こども病院と連携して治療を行います。

胚腫(ジャーミノーマの治療例)

悪性胚細胞腫瘍

神戸大学で行っている臨床試験、観察研究
  • (1)医師主導試験
    • ⅰ)初発の頭蓋内原発胚細胞腫に対する放射線・化学療法第II相臨床試験 この臨床試験は、従来から行われている放射線化学療法の有効性を再度検討するための目的で計画されました。昔行われた臨床試験の精度が現在ほど高くなく、放射線治療範囲、放射線治療と化学療法開始時期など細部で徹底さにかけており、これらを統一するとさらに良好な生存率が得られる見込みとの分析がなされたため、治療方法を統一して再度臨床試験をして治療効果を検討することとなりました。この臨床試験について詳細をお聞きしたい方は、神戸大学医学部附属病院脳神経外科 篠山までお問い合わせください。
  • (2)観察研究
    • ⅰ)頭蓋内胚細胞腫における(1)bifocal tumorの意義、(2)髄液細胞診陽性症例の治療についての後方視的研究

転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍は全脳腫瘍の中では最も頻度が多く、原発巣としては肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、悪性黒色腫などからの転移が多く見られます。原発巣の治療中に見つかる場合もありますが、痙攣、麻痺、高次機能障害などの脳・神経症状として発症し、脳腫瘍が先に見つかり、全身検査によって原発巣が同定される場合も比較的多いです。

転移性脳腫瘍

当施設では転移性脳腫瘍に対し、患者さんの状態を見極めながら積極的に治療を行っております。脳原発巣のコントロールが良好で全身状態が安定しており、腫瘍が比較的大きく神経症状が生じている場合は外科的摘出を行います。病変が重要な脳機能の近傍にある場合は、ナビゲーション、トラクトグラフィー、術中モニタリングなどを駆使して、安全に腫瘍を摘出するように努めています。また、摘出したのちは、再発のリスクを軽減するために放射線腫瘍科の先生と協力して、放射線療法などを行うようにしています。

転移性脳腫瘍

病変が複数あるいは深部に存在する場合は、関連病院である神戸低侵襲がん医療センターや新須磨病院と協力して、定位的放射線治療(サイバーナイフ、ガンマナイフ治療)を行っています。また、脳神経外科で治療中に原発巣が同定された場合は、腫瘍血液内科や呼吸器・消化器内科等の他科の先生方と協力して、原発巣の治療にもあったっています。

その他の脳腫瘍

髄芽腫

髄芽腫は、主に小児に発生する小脳腫瘍です。比較的稀な腫瘍であり、日本脳腫瘍統計によれば、日本での発生率は年々減少傾向にありますが、小児では3番目に頻度の多い腫瘍となっています。年齢別には、15歳未満が殆どですが、成人(20歳以上)でも少ないながら発生が見られます。腫瘍は小脳正中部に発生するため、体幹失調および眼球運動障害が多く認められます。増大すると第四脳室が腫瘍に占拠され、非交通性水頭症を生じ、頭痛や嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状を認めます。症状は、比較的急速に進行します。

手術により摘出した腫瘍組織から、病理診断を行います。最近は分子診断が進み、髄芽腫を4つのサブタイプに分類しています(WNTグループ、、SHHグループ、グループ3,グループ4)。また、病理診断によって治療法や予後がかなり異なる可能性があるので、非常に重要です。

治療は、まずは手術で安全な範囲でできるだけ摘出を行い、その後、臨床所見・組織診断・分子診断を組み合わせて,低リスク群,標準リスク群,高リスク群の3つに分けて、放射線治療と化学療法を行います。

転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍

血管芽腫

血管芽腫は主に成人の小脳、脳幹、脊髄に発生する良性腫瘍です。血管の周囲を覆う細胞から発生すると考えられており、基本的には良性ですが、まれに、脳・脊髄のくも膜下腔に広範囲に腫瘍が浸潤して悪性の経過を辿るものもあります。von Hippel-Lindau病は常染色体優性遺伝を示す家族性のがん症候群で、しばしば血管芽腫を発生します。血管芽腫と診断された場合、von Hippel-Lindau病の可能性を考えて検査する必要もあります。

腫瘍が小脳に存在する場合、ふらつきやめまいといった症状、頭蓋内圧亢進症状(頭痛と嘔吐)で発症することが多いです。治療は手術が第一選択です。腫瘍の結節を全摘すれば完治できます。腫瘍には血管が沢山入っており、腫瘍の血流も多いので、摘出術の前に腫瘍栄養血管を詰める塞栓術を行うこともあります。

転移性脳腫瘍