顕微鏡を用いた耳の診察
対象疾患と診療内容
人工聴覚器の相談
人工内耳・人工中耳・骨導インプラント
「音は聞こえるのに、言葉が分からない」「補聴器を調整しても会話が難しい」——そのような方は、人工聴覚器による治療が選択肢になることがあります。
手術の対象になるか分からない段階でもご相談いただけます。聞こえの状態と日常生活での困りごとを確認し、補聴器の効果も評価したうえで、ご本人の希望に沿って治療方法を検討します。
人工内耳:このような方はご相談ください
- 両耳の聞こえが低下し、補聴器を使っても会話が聞き取りにくい方。完全に聞こえなくなるまで待つ必要はありません。
- 低い音は聞こえても、高い音や言葉が聞き取りにくい方。残っている聞こえを活用するタイプの人工内耳が選択肢になる場合もあります。
- 片耳が著しく聞こえにくい方(一側性高度難聴・SSD)や、左右の聞こえに大きな差がある方(非対称性難聴)。騒がしい場所で会話が難しい、音がどちらから来たか分かりにくい、といった困りごともご相談ください。
当院では2017年から、成人で言葉を獲得した後に聞こえが低下した方を対象に、人工内耳手術に取り組んでいます。
人工内耳の適応は、どのように調べますか?
音の聞こえる大きさに加えて、言葉の聞き取りや補聴器を使ったときの効果を調べます。耳の画像検査なども行い、聞こえが低下してからの期間、耳や全身の状態、期待できる効果を総合的に判断します。
片耳の難聴・非対称性難聴では、通常の補聴器や、聞こえにくい側の音を反対側へ届ける補聴器などの効果も確認したうえで検討します。適応かどうかが分からない段階で構いません。人工聴覚器について相談したい方は、まずご紹介ください。
人工内耳の効果には個人差があり、とくに片耳の難聴では慎重な評価が必要です。術後も機器を継続して使い、調整やリハビリテーションを続けることが大切です。
2026年には一側性高度難聴・非対称性難聴にも人工内耳の保険適用が広がりました。対象となる条件や使用できる機器は、診察時に確認してご説明します。
人工中耳・骨導インプラントという選択肢
生まれつき中耳や外耳の形に違いがある方、耳の穴が閉じている外耳道閉鎖症の方など、通常の補聴器を使いにくい、または十分な効果が得られない方では、人工中耳や骨導インプラントが選択肢になることがあります。片側だけの外耳道閉鎖症も、ご相談の対象です。
耳の構造や内耳の聞こえの働き、反対側の聴力などを調べ、ご自身に合う機器と治療方法を検討します。すべての方に同じ機器が適するわけではありません。
当院の手術と術後の支援
人工内耳はコクレア、メドエル、アドバンスド・バイオニクスの3社の製品に対応しています。機器ごとの適応を踏まえて選択します。
人工内耳手術は3〜4時間程度、入院は1週間程度が目安です。病状や術後経過によって異なります。術後は専門の言語聴覚士によるリハビリテーションを行い、初期には月1回程度、機器の調整(マッピング)のために通院していただきます。
人工内耳・人工中耳・骨導インプラントを合わせた手術実績は、累計約150件です。
難聴の原因についての相談
難聴の遺伝学的検査・遺伝カウンセリング
ご家族に難聴の方がいなくても、遺伝子を調べることで難聴の原因が分かる場合があります。原因を知りたい方や、検査について詳しく聞きたい方はご相談ください。
当院では、これまでに300例以上の難聴に関する遺伝学的検査を行ってきました。検査を受けるかどうか迷っている段階から、結果が分かった後まで、ご本人やご家族の相談に対応しています。
検査で分かること・分からないこと
難聴に関係する遺伝子の変化を調べ、原因の特定を目指す検査です。原因によっては、今後の聞こえの変化や治療・経過観察を考える手がかりになることがあります。
一方で、検査をしても原因が分からない場合や、見つかった遺伝子の変化が難聴と関係するか判断できない場合もあります。また、結果がご家族にも関係することや、結果を知ることで不安を感じる可能性についても、事前に一緒に考えます。
保険診療と研究による検査・費用
保険診療で調べられる範囲に加えて、研究としてさらに詳しく調べられる範囲があります。当院では、保険診療の対象となり、研究について説明を受けて参加に同意された場合、研究による追加解析の費用負担はなく、保険診療分の自己負担で検査を受けられます。
保険適用の条件や自己負担額、研究で調べる内容については、受診時にご説明します。研究への参加は、ご本人・ご家族の希望を確認して進めます。
専門家と相談してから決められます
臨床遺伝専門医の上原奈津美・藤田岳の2名が、遺伝カウンセラーと連携して対応します。検査のメリットとデメリット、分かることの限界、ご家族への影響などを、ご希望や気がかりに合わせて説明します。
相談したからといって、必ず検査を受ける必要はありません。説明を聞いたうえで、検査を受けるかどうかをご検討いただけます。
人工聴覚器を検討している方も
人工内耳などによる治療についての相談とともに、難聴の原因を調べる検査についてもご相談いただけます。検査の必要性やご希望を確認し、それぞれの方に応じて検討します。
人工聴覚器の診療について →真珠腫性中耳炎・慢性中耳炎
当科では、先天性・後天性の中耳真珠腫と、慢性中耳炎のいずれにも対応しています。真珠腫は中耳に角化物がたまり、周囲の骨などに影響を及ぼす病気です。慢性中耳炎では、鼓膜に穴が残り、耳だれや聞こえにくさを伴うことがあります。
病態に応じて顕微鏡・外視鏡・内視鏡などを選び、できる限り体への負担を抑えた手術を目指します。真珠腫では、病状により複数回の手術が必要になることがあります。慢性中耳炎に伴う鼓膜穿孔では、状態に応じてbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を用いた鼓膜再生を促す治療も行っています。
手術時間は2〜3時間程度、入院期間は5日間程度が目安です。病状や治療方法、術後経過によって異なります。
手術実績:鼓室形成術 約300件、乳突削開術 150件。(2022〜2025年の4年間)
耳硬化症・アブミ骨手術
耳硬化症は、3つある耳小骨のうち、アブミ骨が固着して動きにくくなり、音が内耳へ伝わりにくくなる病気です。徐々に聞こえが悪くなり、女性に多いとされています。
当科では、人工のピストンでアブミ骨の音を伝える働きを補う「アブミ骨手術」を行っています。手術により聴力の改善が期待できますが、適応や見込まれる効果は耳の状態や聴力検査などをもとに検討します。
手術時間は1〜2時間程度、入院期間は1週間弱が目安です。病状や術後経過によって異なります。
手術実績:約30件。(2022〜2025年の4年間)
外リンパ瘻
外リンパ瘻(がいリンパろう)は、内耳の液体である「外リンパ」が漏れ出し、難聴やめまいなどを起こす病気です。典型的には、けがや強く鼻をかむこと、いきむことなどをきっかけに症状が現れます。
一方で、治りにくいめまいや、聞こえが良くなったり悪くなったりする難聴の背景に、外リンパ瘻がある場合も考えられます。
当院ではめまい外来と連携し、外リンパ瘻が疑われる方にCTP検査を行っています。これは、中耳の洗浄液に外リンパに含まれる特有のたんぱく質があるかを調べる検査です。症状や検査結果を総合的に評価し、適応がある場合には、漏れを止めるための内耳窓閉鎖術を行います。
耳の悪性腫瘍・外耳道がん
耳にできる悪性腫瘍は非常にまれですが、耳の穴にあたる「外耳道」にがんが発生することがあります。
病気の進行度や全身の状態に応じて、手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)、またはこれらを組み合わせた治療を検討します。早期であれば手術でがんを取り切ることが可能な場合があり、良好な治療成績が期待できます。このような場合の手術は、耳の手術を専門とするチームが担当します。
当院では、このまれな疾患について150例以上の治療経験があります。手術が難しい場合も、放射線腫瘍科や腫瘍・血液内科と連携し、一人ひとりの病状に適した治療をご提案します。
聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)
聴神経腫瘍は、主に体のバランスに関わる神経から発生する良性の腫瘍です。聞こえやバランスに関わる神経、顔を動かす神経が通る「内耳道」や、その周囲に生じます。難聴やめまいを調べるためにMRIを撮影した際に見つかることがあります。
腫瘍の大きさや増大の速さ、症状などに応じて、手術や放射線治療を検討します。一方で、すぐに治療せず、定期的なMRIなどで経過をみる場合もあります。
経過観察中も、聞こえや体のバランスの状態を確認することが大切です。耳鼻咽喉科では聴力や平衡機能の検査を定期的に行い、難聴やめまいなどの症状の変化を評価します。
藤田岳教授は聴神経腫瘍に関する研究を長年続けており、日本聴神経腫瘍研究会の認定医師です。当院では脳神経外科と連携し、患者さんの評価と継続的なフォローを行っています。
聴神経腫瘍と診断された方や、経過観察中の聞こえ・めまいについて相談したい方も、耳・難聴外来でご相談いただけます。医療機関の先生方は、当外来へご紹介ください。
関連する専門外来との連携
耳の症状や疾患に応じ、めまい、顔面神経、腫瘍などの専門外来と連携して診療を進めます。
めまい外来を見る →
顔面神経外来の案内を見る →担当チーム
教授
藤田 岳
准教授
上原 奈津美
助教
横井 純
医員
赤澤 亜由
医員
松野 祐久
言語聴覚士
岩城 忍
言語聴覚士
長富 大祐
言語聴覚士などと連携して診療しています。外来担当日については、公開中の外来案内・予約時の案内をご確認ください。
受診を希望される方へ
耳外来は火曜日午前、難聴外来は木曜日午前、遺伝性難聴外来は木曜日午後に行っています。難聴の遺伝学的検査・遺伝カウンセリングのご相談は、難聴外来または遺伝性難聴外来でお受けします。詳しい曜日と担当医は外来予定をご覧ください。
人工聴覚器や難聴の遺伝学的検査・遺伝カウンセリングについて詳しく知りたい方は、かかりつけの耳鼻咽喉科からの紹介でご相談ください。
01かかりつけ医に相談
当科での診療を希望する旨をお伝えください。
02紹介状と予約
医療機関から患者支援センターを通じた予約をお願いします。
03病院の案内を確認
受診日時・持参する資料などは、予約時の案内をご確認ください。
受診のご案内 →医療機関の皆様へ
補聴器を使用しても聞き取りが不十分な場合は、まずご紹介ください。紹介前に人工内耳の適応を確定いただく必要はありません。当院で各種検査を行い、適した治療方法を検討します。
患者さんのご紹介は、紹介状をご用意のうえ、当院の患者支援センターを通じてご予約ください。紹介予約申込書や最新の手順は、病院の公式案内をご確認ください。
診療から生まれる研究
難聴の病態解明、内耳の画像・計測、人工聴覚器の評価など、臨床の問いを研究につなげています。
耳科・聴覚の研究を見る →治療実績(2025年)
2025年の主な耳科手術の実績をご紹介します。
主な耳科手術の実績(2025年)| 手術名 | 件数 |
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| 鼓室形成術 | 78件 |
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| 乳突削開術 | 46件 |
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| 人工内耳手術 | 14件 |
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| アブミ骨手術 | 8件 |
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| 顔面神経減荷術 | 8件 |
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| 内耳窓閉鎖 | 9件 |
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