唾液腺・甲状腺外来
1.唾液腺・甲状腺外来について
2002年9月に唾液腺・甲状腺外来を開設し、耳下腺、顎下腺などの唾液腺(唾液を産生、分泌)と甲状腺(甲状腺ホルモンを産生)および副甲状腺(血液中のカルシウムを調節するホルモンを産生)に発生する腫瘍性病変を主な対象として、系統的な術前診断、手術後の定期的な経過観察を行っています。
当外来の新規患者数は年間約180人で、手術症例は2019年度1例(甲状腺腫瘍78例、副甲状腺手術13例、唾液腺腫瘍65例)です。また、甲状腺専門病院である隈病院とも緊密な診療連携を行っており、肥満のある症例、併存疾患のある症例、術後再発手術症例、局所進行拡大切除症例などをご紹介いただき治療にあたっております。
唾液腺腫瘍は多彩な病理組織を示すため、穿刺吸引細胞診、経皮的針生検と超音波検査を組み合わせることにより、精度の高い術前診断を行い、手術を中心とした質の高い治療を提供できるように努めています。特に耳下腺癌で顔面神経を犠牲(顔面が動かなくなる)にせざるを得ない場合や甲状腺癌で反回神経の切除(声がかれる)を余儀なくされる場合には積極的に神経再建手術を同時に行い、術後機能障害の軽減を目指しています。
2.担当医師
-
病院講師 下田 光
耳鼻咽喉科専門医
-
助教 藤原 肇
耳鼻咽喉科専門医
-
医員 藤井 大智
耳鼻咽喉科専門医
-
医員 山田 晃大
3.受診と患者様のご紹介について
甲状腺・副甲状腺・唾液腺の病気で当院の受診を希望される方は、かかりつけの先生から「診療情報提供書(紹介状)」と「地域予約」をお願いいたします。外来は水曜日の腺外来初診枠で当日検査も含めてスムーズに診療が可能です。かかりつけの先生に施行いただいた画像検査などがあれば持参いただき、当院での検査も省くことも可能です。
4.診療の特徴
甲状腺腫瘍
甲状腺が部分的に腫れているものを結節性甲状腺腫と呼び、良性腫瘍と悪性腫瘍に大別されます。
・良性腫瘍
腺腫様甲状腺腫、濾胞腺腫や嚢胞などがあります。4cmを超えるものになると整容面で問題となるため腫瘍のある側を切除します。
・悪性腫瘍
甲状腺癌には乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌があり、組織型によって予後は異なります。治療の主体は手術となりますが、術前の良性・悪性の鑑別は、穿刺吸引細胞診(FNA)の診断を行い、腫瘍の広がりはCT、MRIで把握することで手術術式を決定しております。手術に際しては症例に応じて神経モニタリング装置を使用し反回神経温存と副甲状腺機能の温存に留意しております。また、術後、放射性ヨード内用療法が必要な症例に対しては当院糖尿病・内分泌内科、放射線腫瘍科へ依頼し、分子標的薬が必要な症例に対しては当院腫瘍・血液内科へ依頼し、当院で治療を完結することが可能な体制となっております。
・甲状腺微小癌の積極的経過観察について
日本内分泌外科学会・甲状腺微小癌取扱い委員会による提言に準じて成人の甲状腺低リスク微小乳頭癌cT1aN0M0に対する積極的経過観察を行っております。原発巣の最大径が10mm以下の乳頭癌のことを微小癌と定義されており、リンパ節転移、遠隔転移、そして周囲組織や隣接臓器への浸潤といった高リスク因子を持たない低リスク微小癌対する積極的経過観察の前向き臨床試験においては、現在に至るまで非常によい結果が報告されています。当外来でも低リスク微小癌に対して年1~2回医師による超音波検査を施行し定期経過観察を行っております。
副甲状腺手術
副甲状腺機能亢進症は副甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症、三次性副甲状腺機能亢進症の三つに分類されます。原発性は副甲状腺そのものが異常を起こすもの、二次性は腎臓などほかの臓器が原因となり血液中のカルシウム上昇を起こすもの、三次性は副甲状腺に慢性刺激が起こることにより腫瘍化した状態をいいます。当院内分泌内科や腎臓内科と連携して超音波検査、造影CT、MIBIシンチグラムなどを併用して腫瘍の位置や副甲状腺ホルモンを産生する腫瘍かを確認し、手術によって摘出する治療を行っています。
唾液腺腫瘍手術
唾液腺悪性腫瘍の年間発症数は10万人あたり1.04~1.6人で、全癌の0.2~0.3%といわれております。特に耳下腺癌の病理は、他に類を見ないほど多彩で(WHO 国際分類2016)、病理診断に難渋することが少なくありません。現在、術前の良性・悪性の鑑別は、穿刺吸引細胞診(FNA)の診断結果に臨床所見や超音波やCT,MRIなどの画像診断の情報を組みあわせて行っておりますが、悪性腫瘍を良性、良性腫瘍を悪性と誤った診断となるリスクが少なからず存在します。
現在、耳下腺腫瘍の標準治療は外科的切除であり、耳下腺癌の多くは耳下腺全摘出術の適応となり、高悪性度腫瘍では顔面神経を合併切除することも選択されます。耳下腺癌は放射線治療や化学療法に対する感受性が乏しく、術後に(化学)放射線治療を行っても不完全な切除では再発のリスクは高く、再発や転移は高悪性度腫瘍では生命予後に直結し、低悪性度腫瘍であっても繰り返す局所再発は、患者の生活の質(QOL)の著しい低下を招きます。適切な術式選択は、耳下腺癌の治療の成否を握る鍵であり、術前の悪性度診断が重要となります。
当科では超音波検査、CTやMRIなどの画像検査に加えて穿刺吸引細胞診を術前に行っております。また、細胞診で鑑別困難、意義不明の腫瘤に関しましては針生検を行い、その診断に基づいて手術術式や治療方針を決定しております。
5.手術・診療の実績
2019年度 手術症例数
手術名 | 症例数 |
---|---|
甲状腺良性腫瘍手術 | 24 |
甲状腺悪性腫瘍手術 | 53 |
バセドウ病手術 | 1 |
副甲状腺手術 | 13 |
顎下腺摘出術 | 11 |
顎下腺良性腫瘍手術 | 11 |
顎下腺悪性腫瘍手術 | 3 |
耳下腺良性腫瘍手術 | 30 |
耳下腺悪性腫瘍手術 | 10 |
その他の手術(正中頸嚢胞など) | 12 |
合計 | 168 |
6.研究
既に当科で治療あるいは検査を受けられた方の中で、ご自身の既存情報(画像データ、検査データなど)が使われることを希望されない場合は治験・臨床研究にかかる患者相談窓口(078-382-6667)までご連絡ください。
臨床研究
唾液腺腺様嚢胞癌の予後因子スコア化について
唾液腺腺様嚢胞癌の神経周囲進展に関する画像診断
基礎研究
甲状腺の結節性病変に対する細胞診による分子生物学的診断法の開発
血中マイクロRNA解析による唾液腺癌バイオマーカーの開発