妊婦が感染すると胎児に感染(先天性感染)する
サイトメガロウイルス母子感染の実情と症状

 妊娠中にお母さんが感染した結果、胎児に感染して(先天性感染といいます)、生まれてくる赤ちゃんに異常をきたすことがある感染症があります。そのなかで頻度が多いのは、毎年およそ出生児の3000人以上が感染して1000人程度に障害を発生させる先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症と年136〜339人発生する先天性トキソプラズマ感染症です。特に先天性CMV感染は、お子さんに神経学的な障害を残す疾患として最も重要です。
 先天性CMV感染症の症状は、出生児の低出生体重、肝脾腫、肝機能異常、小頭症、水頭症、脳内石灰化、紫斑、血小板減少、貧血、黄疸、網膜症、白内障、肺炎、痙攀などです。生まれた時には症状が無くても、半年以上たってから難聴、精神や身体の発達の遅れ、運動の障害を起こすことがあります。

図1 サイトメガロウイルスの母子感染と出生児障害のリスク

 図1に示すように、CMVに対する抗体を持っていない(過去に感染していないので免疫が無い)妊婦では、妊娠中に1〜2%が初めてCMVに感染(初感染)します。感冒様の症状や発熱をともなうことも時にありますが、無症状であることが多いため、自分がCMVに感染したことが分からないのが普通です。母体の初感染うち60%は胎児に感染しませんが、およそ40%が胎児に感染します。胎児感染例のおよそ20%が上に述べた症状を示し(症候性)、のこり80%が症状無く(無症候性で)出生します。症候性の先天性CMV感染のうち90%が、また無症候性の先天感染ではその10〜15%が精神発達遅滞、運動障害、難聴などの障害を発症します。それ以外の先天性感染児は、正常に発達します。仮に、妊娠中の母体の初感染が間違いなくても、出生児に軽症から重症まで何らかの障害を発症する頻度は1割程度に過ぎません。先天性感染児への抗ウイルス薬治療が日本でも近年試みられており、難聴の改善効果などが期待されています。したがって、出生時にきちんと先天性CMV感染の診断を行うことと、精密検査と聴覚検査などのフォローアップを行うことが大切です。抗ウイルス薬治療を行うかどうかは、小児科専門医との相談になります。
 世界でCMVワクチンの開発は進められていますが、まだ実用化には至っていません。日本人妊婦のCMV抗体保有率は1990年頃には90%台でしたが、近年では60〜70%台に低下してきました。したがって、抗体が陰性の妊婦さんは妊娠中にCMVに感染しないように注意を払いましょう。

担当
神戸大学大学院医学研究科 産科婦人科分野 山田秀人
 
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