妊婦サイトメガロウイルス感染の検査とカウンセリング

目的と検査方法

 2011年調査によれば、全国産科施設のうち4.5%が妊婦健診でCMV抗体検査を行っていた。妊婦の抗体検査は、初感染予防、胎児感染ハイリスク(要精査・フォローアップ)出生児の抽出の目的などで行われる。

 妊婦健診でCMV抗体検査を行う目的は、以下に分けられる。
1)抗体陰性者に感染予防啓発を行う。
2)初感染の可能性が高い妊婦を抽出し、新生児精査、フォローアップと治療を行う。
3)初感染妊婦に胎児感染予防の投薬や先天性感染児に治療を行う。
  1)の場合は、妊娠初期にCMV IgG検査を行い、抗体陰性妊婦に妊娠中の初感染予防のための啓発教育を行う。
  2)や3)の場合、図1の方法が考えられる。

図1 妊婦のサイトメガロウイルス検査の流れ
妊婦のサイトメガロウイルス検査の流れ
 抗体測定を妊娠初期、16〜18週、妊娠後期(34〜36週)のうち、2)ないし3)の目的に応じて2〜3回実施する。以下の方法が考えられる。
 a)2回測定法:妊娠初期 にCMV IgGを測定し、抗体陰性妊婦に対して妊娠中の初感染予防のための啓発教育を行う。そして、妊娠後期のIgG再測定により妊娠中にIgGが陽性化した初感染妊婦を同定する。出生児の40%は先天感染に至るため、新生児精査と感染児のフォローアップや治療を行う。
 b)2回測定法:妊娠初期に抗体測定を行わずに、全妊婦に対して一様に妊娠中の初感染予防のための啓発教育を行う。妊娠16〜18週にCMV IgG測定を行い、陽性者にはIgM測定を行う。IgG陰性者は妊娠後期にIgG再測定を行い、IgG陽性化となった初感染妊婦を同定し新生児の扱いはa)に準じる。
 c)3回測定法:妊娠初期 にCMV IgGを測定し、抗体陰性妊婦に対して妊娠中の初感染予防のための啓発教育を行う。妊娠16〜18週にCMV IgG測定を行い、陽性者にはIgM測定を行う。IgG陰性者は妊娠後期にIgG再測定を行い、IgG陽性化となった初感染妊婦を同定し新生児の扱いはa)に準じる。
 b)とc)の方法で、CMV IgM 陽性となった場合には妊娠中の初感染が疑われるが、実際に本当の初感染であるのはIgM陽性者のおよそ30%とされ、それ以外はpersistent IgMを含めた偽陽性である。IgM陽性やボーダーラインの時には、IgG avidity測定を行い、低値(例えば≦35%)であれば初感染が強く疑われる。

抗体陽性妊婦への対応とカウンセリング

1)抗体陽性の頻度
・妊娠16〜18週の検査で全妊婦の70%がCMV IgG陽性。CMV IgG陽性者の約4%がIgM陽性となる。また、CMV IgG陽性者の約5%がIgG avidity≦45%で、2〜3%がIgG avidity≦35%となる。
 すなわち、妊娠16〜18週のIgG、IgM、IgG avidity測定の組み合わせで、妊娠中のCMV初感染(IgG IgM陽性かつIgG avidity≦35%)と判断されるのは、全妊婦100人中2人程度である。
・妊娠初期ないし妊娠16〜18週の検査で全妊婦の30%がCMV IgG陰性。CMV IgG陰性者の1.5%が、妊娠後期に抗体陽性化となる。
 すなわち、初回抗体陰性が妊娠後期に陽性となり、妊娠中のCMV初感染と判断されるのは、全妊婦100人中0.5人程度である。

2)初感染疑いの妊婦への対応
 IgG陽性、IgM+〜±の妊婦に対して、以下の説明が可能である。
・IgM陽性の約7割は、本当の初感染ではないことを説明する。
・脳室拡大、小頭症、頭蓋内石灰化、腹水、肝腫大、胎児発育遅延などの所見があれば先天性感染である確率は高いので、超音波検査を行う。異常所見がある場合、羊水検査によって胎児感染の有無が高い確率で判定できる。
・IgG avidity測定を行うことによって、低値であれば初感染の可能性が高い。
CMV IgG avidity測定オーダーの連絡先
愛泉会日南病院 疾病制御研究所 所長 峰松俊夫先生
TEL 0987-23-3131 FAX 0987-23-8130
初感染の判定基準の目安は、妊娠25週以下での採血で35〜45%以下。料金未定。
 SRL、三菱化学メディエンスは、CMV IgG avidity検査は行っていない。

3)IgG avidity低値の初感染妊婦への対応と出生前診断の方法
 IgG陽性、IgM+〜±、IgG avidity≦35%、感染症状の出現等で、妊娠中の初感染が強く疑われる妊婦に対して、以下の説明が可能である。
・本当に初感染であっても、6割は胎児に感染しない。4割は胎児に感染するが、軽症から重症まで何らかの障害を発症するのは母体初感染の1割程度であり、9割はほぼ正常に発達する。
・心配であれば羊水穿刺による羊水CMV DNA検査で先天性感染の有無がほぼ判定できる。但し、妊娠22週未満の羊水検査では偽陰性が多いことが知られているので注意する。
 出生前診断の意義は以下である。
 a)陰性で、より安心して妊娠を継続できる。
 b)陽性で、高次施設へ紹介し、新生児の精査や治療が受けられる。
 c)陽性で症候性の場合には、胎児治療が可能な施設へ紹介できる。
羊水PCRおよびリアルタイムPCR検査オーダー先
 SRL、BML、三菱化学メディエンス

4)出生児の精査、治療とフォローアップ
 先天感染が疑われる児に対しては、新生児尿CMV PCR検査のほか、眼底検査、超音波断層法、CT、MRI、髄液PCR、聴性脳幹反応(ABR)検査などを実施する。臍帯血ないし新生児血のCMV IgM検査を行う。
 新生児尿でPCR法ないしウイルス培養同定法で陽性で先天性CMV感染と診断される。先天感染児の約半数は血清CMV IgMが陰性となる。ABR異常は、しばしば生後数ヶ月後に出現するために、新生児期Passであっても、定期的にフォローし再検査が必要である。症状がある場合、GCVやVGCVによる治療について、小児科専門医と相談する。

免疫グロブリンによる胎児感染予防と胎児治療

1)胎児感染予防
 Nigroらは、妊娠21週未満にCMV初感染となった母体へ免疫グロブリン静脈内投与を毎月分娩まで実施した結果、先天性感染の発生率は16%(6/37)、無治療群では40%(19/47)であった。しかも無治療群では3例の症候性が含まれていたが、治療群では症候性はいなかった1)。しかし、初感染母体への免疫グロブリン静脈内投与による胎児感染の予防効果について、それ以外の論文報告はまだない。

 2012年11月現在、各国の臨床治験の状況は以下の通りである.
a)CHIP study; congenital HCMV infection prevention-clinical trial: Revello et al., Torino, Italy
 11施設.Phase IIB, 前方視的,無作為二重盲検法,プラセボ(NaCl)コントロール.2010年2月から2011年まで.IgG陰性者は4週毎に再検査.妊娠5〜26週の初感染を対象.感染から6週以内に投与を開始.
Cytotect 100 u/kgかプラセボ, 4週毎,36週まで投与.
結果 
 157 eligible, 124 enrolled, 62 HIG vs 62 placebo
    62 HIG: 61 evaluated, 18 transmitted (30%)
    62 placebo: 27 transmitted (44%)
         p=0.13, not significant
 Phase IIIが必要であるとの結論

b)Cytotect study: Buxmann et al., Germany
 Phase III,妊娠初期に抗体陽性化した妊婦に,Cytotec 100-200 u/kgを2〜3回投与.胎児感染予防効果の検討.2008年から継続中. Buxmann et al.は,2006年〜2010年の retrospective, preliminary analysis として報告(J Perinat Med, 2012).
対象42人
 39人が予防投与.30人(77%)が先天性感染なし.9人(23%)が先天性感染で出生,うち無症候性8人,人工流産1人.
 4人は,臍帯内,羊水内,母体静脈内投与による胎児治療を行い,3人が無症候性,1人が症候性で出生.

c)A Randomized Trial to Prevent Congenital Cytomegalovirus: an Ongoing Trial. The Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development Maternal Fetal Medicine Units (MFMU) Network, USA
 胎児感染予防効果の検討.前方視的,無作為二重盲検法,プラセボコントロール.2012年4月から.妊娠24週未満の初感染を対象.IgG陰性者は8週毎に再検査.IgG陽性化ないし IgM陽性かつIgG avidity<50%.超音波での胎児異常(症候性)は除く.CMV hyperimmunoglobulin 100mg/kgかプラセボを毎月投与,分娩まで.400人ずつのenrollmentを予定.

d)Treatment of Cytomegalovirus Fetal Infection by Valaciclovir: Phase II Trial. Ville Y, France
 胎児治療目的。免疫グロブリンでは無く,Valganciclovirを用いた前方視的,無作為二重盲検法,プラセボコントロール研究.羊水でCMVが確認され,胎児超音波異常がある妊婦にVACVを投与.2009年〜.治療群21人の 62% vs コントロール群24人の42%が症候性先天性感染であったため研究はストップ.
 2011年9月から別研究.羊水でCMVが確認され,胎児超音波異常がある妊婦に 8g VACV/日を分娩まで内服.無症候性先天性感染の発生率80%を目指す.現在,16人が対象となり,2人が中絶,2人が on going,12人が出生.8/11人で無症候性の先天性感染であった.

2)胎児治療
 症候性の先天性CMV感染に対する抗体高力価免疫グロブリン胎児治療は、1995年に世界で初めて日本で実施された2)。2005年9月にNigroらは、免疫グロブリン母体静脈内投与による胎児治療法(症例によっては羊水腔内、臍帯内投与併用)を発表した1)。羊水中CMVが確認された母体への免疫グロブリン静脈内投与によって、症候性感染の発生率は3%(1/31)で、無治療群は50%(7/14)であった。ただし、この研究は二重盲検比較ではない。
 日本では2005年7月に免疫グロブリン胎児医療研究会が設立され、症候性先天性CMV感染に対する免疫グロブリン胎児腹腔内/母体静脈内投与法の有用性が検討されてきた。2010年までに胎児治療が完了した12例で、出生児は2年以上にわたり神経学的経過が観察された上で、その治療成績が報告された3)。治療内訳は、胎児腹腔内投与のみ7例、胎児腹腔内および母体静脈内投与4例、母体静脈内投与のみ1例であった。治療後の胎児所見の変化として、腹水消失 57% (4/7)、腹水減少 14% (1/7)、胎児発育遅延の改善55% (6/11)、軽度脳室拡大の消失40% (2/5)、肝腫大・水腎症の消失1例が観察された。生存率は83% (10/12)で、発達遅滞42%(5/12)、正常発達25% (3/12)、片側難聴のみ17%(2/12)であった。正常発達ないし片側難聴のみは42% (5/12)となり、本治療法は、出生児の障害発生を抑制する可能性がある。治療による毋児への直接的な危険性は認められなかった。
 新生児抗ウイルス剤治療例に限ってみると、正常発達ないし片側難聴のみは57% (4/7)とより成績がいい。障害の発生抑制には胎児治療のみならず、出生児の抗ウイルス治療も寄与すると考えられる。
 免疫グロブリンのCMVに対する効果として、動物実験による抑制効果(Bratcherら、 1995)、増殖とサイトカイン産生抑制(Hoetzeneckerら、 2007)、ウイルス中和・細胞感染抑制・mRNA発現抑制(Frenzelら、 2012)などが報告されている。

妊婦への感染予防のためのカウンセリング

 妊娠初期に全妊婦ないしCMV IgG陰性妊婦に対して、パンフレット(ダウンロード可)を用いて妊娠中の初感染の予防を啓発する。
 妊娠12週以降の母体感染(seroconversion)率は1〜2%とされるが、妊婦に対するCMV抗体スクリーニングおよび抗体陰性者に対する感染予防教育・啓発によって、0.19%に低下することが報告されている(Vauloup-Fellousら、2009)。
 要点としては、多くの妊婦はCMVについて、特に妊娠中の感染によって胎児に影響が出る可能性について知られていないので、症状、感染経路、感染による影響を説明した上で、CMVを含んでいる可能性のある小児の唾液や尿との接触を避けるように教育啓発する。具体的には、以下となる。

以下の行為の後には、頻回に石けんと水で15〜20秒間は手洗いをしましょう。

 おむつ交換
 子どもへの食事
 子どものハナやヨダレを拭く
 子どものおもちゃを触る

子どもと食べ物、飲み物、食器を共有しない。

おしゃぶりを口にしない。

歯ブラシを共有しない。

子どもとキスをするときは、唾液接触を避ける。

玩具、カウンターや唾液・尿と触れそうな場所を清潔に保つ。


参考文献
1. Nigro G, Adler SP, La Torre R, Best AM. Congenital Cytomegalovirus Collaborating Group: Passive immunization during pregnancy for congenital cytomegalovirus infection. N Engl J Med 2005;353:1350-1362

2. Negishi H, Yamada H, Hirayama E, Okuyama K, Sagawa T, Matsumoto Y, Fujimoto S. Intraperitoneal administration of cytomegalovirus hyperimmunoglobulin to the cytomegalovirus-infected fetus. J Perinatol 1998;18:466-469

3. The Japanese Congenital Cytomegalovirus Infection Immunoglobulin Fetal Therapy Study Group. A trial of immunoglobulin fetal therapy for symptomatic congenital cytomegalovirus infection. J Reprod Immunol 2012;95:73-79

担当
神戸大学大学院医学研究科 産科婦人科分野 山田秀人
神戸大学大学院医学研究科 産科婦人科分野 平久進也
 
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