IgG アビディティー

母体は初感染か既感染なのかが大事です
 サイトメガロウイルス(CMV)感染症において、感染者が初感染で免疫がない場合には重症化しやすいとされます。先天性CMV感染では、母体が妊娠中にCMVに初感染した場合は胎児に約40%の確率でCMVが伝播し、感染児の20%に症候性(症状が有る)の先天性CMV感染症が起こると推定されています。一方、母体が妊娠前に既感染であった場合は、胎児へCMVが感染する確率は0.2~2%とされており、出生時に重篤な先天性CMV感染症を認める頻度は多くありません。したがって、先天性CMV感染児の予後を推定する上で、母体が初感染なのか、それとも既感染なのかを知ることは極めて重要です。
 初感染を判断するには、通常であれば血清学的にIgM抗体を検出するか、IgG抗体の陽転(陰性が陽性となる)を証明します。しかし、CMVは持続感染するウイルスであり、潜伏感染や回帰感染を繰り返すため、感染様式が複雑で血清学的診断の判定も簡単ではありません。CMV感染では初感染時に限らず、既感染であってもウイルスの再活性化によってIgM抗体が検出されることがあります。また、妊娠前後のペア血清が残っていることは少なく、抗体陽転を証明できない場合もあります。そのため、従来の血清学的診断で母体が初感染か否かを判断するのは少なからず困難でした。

IgG抗体のアビディティー(Avidity)とは
 従来の血清学的な方法では、CMV感染における母体の初感染の証明には課題が多く、先天性CMV感染児の予後の判断には不向きでした。そこで、IgGのアビディティーを測定する試みが行なわれています。
 アビディティーとは、簡単に言えば抗原と抗体の結合力の総和のことです。抗原抗体反応では、抗原上のエピトープと抗体上のパラトープとの間で、可逆的な結合が起こっています。一価のエピトープと一価のパラトープとの結合力はアフィニティー(Affinity)と呼びます。抗体は2価以上のパラトープを持っており、抗体全体として、アフィニティーよりもはるかに大きい力で、多価のエピトープを持つ抗原と結合しています。このような抗原と抗体との結合力の総和をアビディティーと言います。

アビディティー測定でわかることは
 感染の初期において抗原と低親和性の抗体がまず産生され、感染の経過に従って、しだいに高親和性の抗体が産生されます。つまり、感染してから時間が経つにしたがって、アビディティーは強くなっていきます。アビディティーが弱ければ、感染してから時間が間もない時期、すなわち母体は初感染である可能性が高いと言えます。アビディティーを測定することで、IgM 抗体やIgG抗体陽転の証明なしに,母体のCMV感染時期を推定することができます。

アビディティー測定法の原理(図1)
 一般的にはEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay の系を利用してアビディティーを測定します。
 抗原と抗体の結合においては、疎水結合、ファンデルワールス力、静電気力、水素結合などの分子間引力が働いています。ELISA系において被験者抗体の洗浄過程で、尿素などのタンパク変性剤を添加した洗浄液を用いることにより、抗原抗体間の化学結合を切断することができます。尿素やグアニジン塩では水素結合を、ドデシル硫酸Naは疎水結合を切断します。つまり、タンパク変性剤による洗浄処理で非共有結合のいずれかが切断され、抗原結合力が弱い(低アビディティー)抗体が反応系から取り除かれます。そうして、反応系に残った抗原結合力が強い(高アビディティー)抗体の吸光度を測定できます。タンパク変性剤としては、尿素が最も頻用されています。
 インデックスとしての算出方法としては、タンパク変性剤添加洗浄液を用いて測定した吸光度を、タンパク変性剤非添加の通常の洗浄液を用いて測定した吸光度で除算し、 アビディティー・インデックス[Avidity Index (AI) %]として表しています。
 検査系において、CMV抗原プレート、タンパク変性剤での洗浄方法により、AIの判定基準が異なります。現状では検査施設ごとにAIの判定基準が異なっています。将来的にアビディティー測定法の標準化が必要です。

図1 アビディティー測定法の原理

アビディティー・インデックス(AI)が低値だったら
 母体のCMV IgGの AI が低値の場合には母体のCMV初感染を疑い、胎児への感染の可能性を考慮しつつ、胎児超音波エコー、胎児心拍数モニタリングなどにより、詳細に胎児の観察を行ないます。必要に応じて胎児由来検体を用いて、CMVのウイルス学的検出(PCR、分離培養)を行ないます。
 胎児や新生児でCMV感染が証明されれば、胎内治療や出生後治療についての検討を行います。

アビディティーの測定価格
 上述のアビディティー測定法では、2系列のELISA測定を行なうことになります(タンパク変性剤あり・なし)。したがって、通常のELISA抗体測定の2倍強の価格で測定できます。なお、アビディティー測定では ELISA抗体価も測定されます。よって、ELISA抗体測定の2倍強の試薬価格で、抗体価およびアビディティー・インデックスの2つの情報が得られることになります。

IgGアビディティー測定オーダーの連絡先
〒887-0034 宮崎県日南市大字風田3649番2 愛泉会日南病院 疾病制御研究所
所長 峰松俊夫先生 
TEL 0987-23-3131 FAX 0987-23-8130
初感染の判定基準の目安は、妊娠25週以下での採血で35〜45%以下。料金未定。
 アビディティー測定オーダーを希望する場合には、必ず事前にご連絡をください。

担当
愛泉会日南病院 疾病制御研究所 峰松俊夫
 
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