難聴など耳鼻科領域

先天性サイトメガロウイルス感染症における難聴の特徴

 先天性サイトメガロウイルス感染症のお子さんには、さまざまな神経学的障害(感音難聴、精神発達遅滞、運動障害、てんかん、視力障害など)を合併することが知られており、感音難聴は頻度の高い合併症のひとつです。
 先天性サイトメガロウイルス感染は、ウイルスによる胎内感染では最も頻度の高い先天性感染と考えられています。また、1000人に1人とされる新生児・幼児の聴覚障害の約20%が先天性サイトメガロウイルス感染によるとも言われています1)2)。先天性サイトメガロウイルス感染は、重篤な症状を伴う症候性と出生時に臨床症状を呈さない無症候性に大きく分けられます。ただし、本邦における近年の研究によると、臨床症状の有無にかかわらず、脳の画像検査で異常所見を示す症例も含めると、先天性感染児の約3割に何らかの異常を出生時に認めたと報告されています3)。この結果から、従来無症候性と考えられていた先天性感染のお子さんの中に、脳の画像検査で異常所見を示すお子さんが含まれている可能性があります。
 先天性サイトメガロウイルス感染のお子さんには、難聴を発症するお子さんと発症しないお子さんがいらっしゃいますが、その違いが何によるものか詳しいことは分かっていません。そのため、先天性サイトメガロウイルス感染のお子さんが将来難聴を発症するのか、難聴がいつ発症してどのように進行するのか、難聴はどの程度かなどを正確に予測できるような指標や検査法はまだ確立されていません。
 一方で、妊娠初期(約3か月間)にサイトメガロウイルスの初感染を受けた妊婦から胎児に感染した場合は、それ以降に胎児に感染した場合に比べて、難聴になるリスクが高いという報告があります。先天性感染児の尿中ウイルス量が多い、ウイルス血症があるなどの所見があると、難聴は発症しやすいという報告もあります。さらに、出生後の頭蓋超音波検査や頭蓋CT検査の所見が難聴と関連するという報告もあります。

症候性の先天性サイトメガロウイルス感染

 小頭症、神経疾患、肝脾腫などの症状を伴います。25〜30%に難聴が認められ、ほとんどが重度の難聴であることが多いです。また、出生直後から難聴であることが多いですが、時に進行性に発症する例もあります。

無症候性の先天性サイトメガロウイルス感染

 出生時に明らかな症状が何もなくても、その6〜16%に進行性の聴覚障害が認められます4)。出生直後の新生児聴覚スクリーニングでは難聴がないと診断されていても、成長と共に難聴が発症する場合もあります。進行性難聴が発症する時期は12か月未満から44か月頃とされ4)5)、時期は幅広く文献などによって様々です。現時点では遅発性に聴覚障害が生じる機序や原因などは明らかではありません。今後はこれらの解明が課題とされます。

新生児聴覚スクリーニング

 新生児1000人に1人の割合で難聴が見つかりますので、新生児聴覚スクリーニングはきわめて重要な役割を担っています。難聴児の聴能訓練を見つかってから6ヶ月以前に開始した場合とそれ以降の場合では、習得語彙数に差が認められたとの報告があり、早期発見・早期治療が大切です。現在行われているスクリーニングは、生後数日しておこないます。

1)スクリーニングの方法
 OAE(耳音響放射:DPOAE,TEOAE):外耳道に小さなプローブをいれて行います。耳に刺激音をいれて、これに反応して内耳から放射される小さな音をひろっています。これでPassであれば少なくとも40dBの聴力はあると考えられます。内耳の機能を反映するため、内耳に障害があるとRefer(要再検)となります。 しかし、外耳や中耳の影響をつよく受けるため、外耳・中耳に異常(耳垢や羊水、外耳道狭窄や中耳炎など)があってもReferと出てしまいます。
スクリーニングの方法
 AABR(自動聴性脳幹反応):脳波の誘発電位であるABR(聴性脳幹反応)を利用して、自動的に判定をおこないます。6か月までの乳児に適応があります。両側の耳介にイヤーカプラを装着し700~5000Hzの35dBのクリック音で刺激し、前額部と項部と肩に装着した電極より記録します。AABRの結果がReferである場合、ABRの検査を行います。
AABR(自動聴性脳幹反応)
2)スクリーニングの問題点
 新生児聴覚スクリーニングはOAEのみで行われていることも多いです。しかし、偽陰性(実際は難聴なのに、難聴ではないと判断されること)もあるので注意が必要です。例えば、未熟出生児などで、内耳より中枢神経系に髄鞘化不全などの異常があると、OAEでは正常であってもABRでは無反応ということがあります。
 また、遅発性の難聴では出生直後の聴覚スクリーニング時には異常が出ないことがあり、難聴の発見が遅れることがあります。先天性サイトメガロウイルス感染のお子さんも、出生直後には聴力は正常であっても遅発性に難聴を発症する場合が少なくなく、新生児聴覚スクリーニングでは発見されないことがあります。このことから、1歳半健診や3歳時健診での聴力検査は重要であり、また日常生活のなかでお子さんの聞こえや反応で気になることがあれば、耳鼻咽喉科への受診をおすすめします。

難聴の検査方法

1)聴性脳幹反応(ABR)
 スクリーニングでRefer(再検)となった場合は、精密検査としてABR(聴性脳幹反応)をおこないます。鎮静下に、レシーバーより音を聞かせ、頭や耳の周りに電極をおき、脳波を測定します。その反応より内耳(蝸牛)より聴神経が脳幹を通って脳にたどり着く間の波形をみて聞こえているかどうかを見ます。安定性、再現性が高く、他覚的聴力評価として有用です。

2)乳幼児聴力検査
a)聴性行動反応聴力検査 (Behavioral observation audiometry: BOA)
・乳幼児に音や音声をきかせてビックリするなどの反応をみます。
・生後3か月までは原始反射、それ以降は新しい反応形態が観察されます。
b)条件詮索反応聴力検査(Conditioned orientation response audiometry: COR)
・対象:6か月~2歳頃
・方法:左右に設置したスピーカーと人形の光源を組み込んだ装置を使います。音が聞こえる方を見ると人形が光に照らされるなどの方法で、どのくらいの音で反応するかを観察します。
c)遊戯聴力検査 (Play audiometry) 
・対象 3歳以上
・音を合図に遊び用具を一つずつ動かしたり、音が出ている時だけボタンを押すと玩具が見える装置を使って条件付けを行い聴力閾値を検査します。
 大人のような聴力検査がむずかしい小児にたいして、聴力評価を行います。これらは鎮静の必要がなく、非侵襲的に繰り返しおこなえる検査であるため、ある程度児が検査に慣れてくれば、経時的な聴力評価として有用となります。

3)先天性サイトメガロウイルス感染の検索
 難聴を発症したお子さんに対して、難聴と先天性サイトメガロウイルス感染との関連を調べるために、ガスリー濾紙血や乾燥臍帯(へその緒)の一部を用いて検査を行っている医療機関もあります。なお、ガスリー濾紙血よりも乾燥臍帯を用いた方が、より微量のウイルスを検出することができます。

治療方針の選択と治療法

 先天性サイトメガロウイルス感染のお子さんに対して、検査と治療方針は以下になります。
1)治療方針の選択
 聴力検査で難聴が認められなかった場合は、定期的に耳鼻科を受診し、聴力の評価を受けていただきます。
 聴力検査で難聴が認められた場合や出生直後や急に聴力が低下した場合は抗ウイルス薬の投与を考慮します。
 難聴については、一側のみの難聴であれば定期的な聴力の評価を行いながら、経過観察となります。もう片方が良く聞こえていれば、言語発達などにはほとんど支障がないからです。両側難聴が認められた場合は、まず補聴器装用を開始します。どんなに補聴器のボリュームを上げても会話を聞き取ることができない場合は、人工内耳手術を考慮します。

2)治療法
a)抗ウイルス薬
 抗ウイルス薬のガンシクロビルやそのプロドラッグであるバルガンシクロビルがあります。治療施設間でも異なりますが約6週間投与します。短期的な副作用として骨髄抑制があります。長期的な副作用としての報告はまだ少なく不明のため、治療適応は慎重に決定されます。難聴に対しての効果の報告としては、症状の進行を抑えたり改善させるとの報告も多くなってきています6)
b)補聴器
 難聴を認める場合には補聴器の適応になります。補聴器の種類は多数あり、難聴の程度や聴力像を考慮して、最も適した補聴器をつけていただきます。補聴器を装用して「音を聞く」訓練をしていただくのです。
c)人工内耳手術
 また、両側の聴力がいわゆる聾であった場合や、補聴器を装用し充分に効果がない場合には、人工内耳手術基準(表1)を満たせば、人工内耳埋め込み術を行います。人工内耳埋め込み術とは、内耳の蝸牛に電極を挿入し障害された内耳に代わって音を伝える方法です。


今後の課題

 先天性感染児を出生後早期に同定し、適切なタイミングで聴力検査や治療を行うことで、難聴の程度を軽減できる可能性があります。今後は、実現可能で費用対効果の高い手法による、全出生児に対する先天性サイトメガロウイル感染スクリーニング法の確立など、難聴を発症する先天性感染児の早期発見や療育に向けた体制づくりが課題です。また、サイトメガロウイルスによって聴力障害がおこる仕組みを解明することも重要課題の一つです。

参考資料

耳の構造
耳の構造
外耳:耳介から鼓膜までを指します。
耳介で音を集め、外耳道から音を伝えて鼓膜を振動させます。外耳道は軟骨部と骨部からなっており、共鳴による音圧増強作用をもっています。

中耳:鼓膜を含む耳管、鼓室、乳突洞、乳突蜂巣からなっています。
鼓膜が振動し、耳小骨(つち骨・きぬた骨・あぶみ骨)はてこの原理で音の大きさを増幅し、内耳に音を伝えます。

内耳:蝸牛、前庭、三半規管からなっています。
きこえと平衡感覚に関係しています。耳小骨から伝わった振動により蝸牛のリンパ液に波動がおこり、蝸牛にある有毛細胞を刺激することで一定の周波数における音をよりくっきりと蝸牛神経に伝えることができます。

難聴の種類
 難聴は大きく伝音難聴と感音難聴に分けられます。外耳より中耳までの障害による伝音難聴と、内耳から聴神経にかけての障害による感音難聴、また両方の障害による混合難聴とに分けられます。
1.伝音難聴:外耳より中耳までの間に音を伝えることのできない障害があることで生じる難聴です。例えば、先天性外耳道狭窄や閉塞、中耳炎、真珠種、耳小骨奇形などが挙げられます。耳垢がつまっていても伝音難聴になります。このため、治療によって症状が改善する可能性がありますが、耳に入る音を大きくするだけでも良く聞こえるようになります。
2.感音難聴:内耳から聴神経にかけての障害による難聴で、主に蝸牛内の有毛細胞が障害されていたり、聴神経が通常より低形成であったりすることで生じます。例えば、内耳奇形、前庭水管拡大症、蝸牛神経低形成、遺伝性難聴、胎生期の感染(先天性サイトメガロウイルス感染など)、ムンプス、麻疹、髄膜炎、脳炎、薬剤性などが挙げられます。音をシャープにすることができないので、音が聞こえたとしても明瞭度が悪く、言葉の弁別が難しい状態です。音を大きくするだけでよく聞こえるようになるわけではありません。

難聴の程度
 現在、障害者手帳の申請に使われている聴力レベルが4分法平均聴力レベルというものであり、(500Hz+2×1000Hz+2000Hz)÷4の結果で難聴の程度を示します。
・正常:〜25B
・軽度難聴:26〜40dB  普通の会話にはほぼ支障がないが、ささやき声が耳元でないと聞こえないレベル
・中等度難聴:41〜70dB 少し離れたところや騒々しいところでの会話は聞き落としがあるレベル
・高度難聴:71〜90dB  耳元に口をつけて話しかけないと聞こえないレベル
・ろう:91dB以上     耳元に口をつけないと大きな声を理解し得ないレベル

参考文献
1. 福田諭.8.ウイルス性難聴.よくわかる聴覚障害―難聴と耳鳴のすべて.小川郁編.永井書店;大阪, 2010

2. Morton CC and Nance WE. Newborn hearing screening―a silent revolution. N Engl J Med 354, 2151-2164, 2006

3. Koyano S, Inoue N, Oka A, et al. Screening for congenital cytomegalovirus infection using newborn urine samples collected on filter paper: feasibility and outcomes from a multicentre study. BMJ Open 1, e000118, 2011

4. 守本倫子.小児期に注意すべき聴覚障害.外来小児科 14,138-142, 2011

5. 荒尾はるみ、別府玲子、村橋けい子.先天性サイトメガロウイルス感染症と感音難聴.耳鼻咽喉科臨床 90, 391-398, 1997

6. 伊藤裕司(研究分担者).高度医療センターにおけるCMVスクリーニング体制構築と先天性CMV感染児の臨床像解析. 全新生児を対象とした先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染スクリーニング体制の構築に向けたパイロット調査と感染児臨床像の解析エビデンスに基づく治療指針の基盤策定.厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)平成20~22年度総合研究報告書, pp68-82, 2011

担当
独立行政法人 国立成育医療研究センター研究所 母児感染研究部 中村浩幸
独立行政法人 国立成育医療研究センター 耳鼻咽喉科 守本倫子(協力:三塚沙希)
 
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