平成29年留学便り

神戸大学臨床ウイルス学分野での研究を終えて 長又 哲史

 2015 年10 月から2017 年7 月まで、山田秀人教授や教室の先生のご配慮により、神戸大学大学院医学研究科臨床ウイルス学分野にて研究を行って参りました。1 年を過ぎた頃からようやく研究生活に慣れてきた感じがしていましたが、振り返ってみるとあっという間の2 年間でした。
 私が行ってきた研究内容ですが、「造血幹細胞移植後のHHV-6B 受容体(CD134)発現レベルとHHV-6B 再活性化との関連」と「BALB/C マウスにおけるHHV-6B glycoproteinQ1(gQ1) タンパクのCD8 epitope 探索研究」という2 つのテーマをメインに研究をしておりました。移植後のHHV-6B 受容体発現レベルに関する研究では、採血検体をフローサイトメトリーで解析を行いました。結果として、臍帯血移植においては受容体であるCD134 の発現上昇に合わせてHHV-6B のコピー数が多く検出されるデータを得る事が出来ました。臍帯血移植でHHV-6B 再活性化が多いことは以前から報告されておりましたが、今回その理由の一旦となるようなデータを得ることができました。この結果は第31 回ヘルペスウイルス研究会、およびベルリンで開催されたThe 10th International Conference on HHV-6 & 7 にて発表して参りました。
 もう一つのテーマであるEpitope 探索研究はマウスを用いた実験であり、最終的に無事CD8 epitope を見つけるところまで辿り着くことが出来ました。時間的な制約もありヒトに応用するところまでいけなかったのが残念ですが、2 つのテーマにおいて臨床的実験と基礎的実験の両側面を経験出来たことは、私にとって非常に貴重な経験となりました。当初はHHV-6 という産婦人科と馴染みの薄いウイルスを扱うことに戸惑っておりましたが、研究室で様々な実験手法に慣れるに従い、産婦人科分野における実験や論文に関しても理解を深めることが出来たと感じております。2 つのテーマとも現時点でまだ論文投稿中であり、ジャーナルに掲載される日を心待ちにしております。
 HHV-6 は産婦人科関連で論文はあまり出ていませんが、最近原因不明の不妊症と関連しているのではないかという論文が発表されました。ヘルペスウイルスは体内に潜伏するため、再活性化することで不妊や流産などと関係している可能性も考えられ、今後発展の余地があるかもしれません。

微生物病研究所での研究 笹川 勇樹

 微生物研究所免疫化学分野(主宰:荒瀬 尚教授)で研究させていただいて2 年が過ぎました。2 年前は実験することが初めてで右往左往していましたが、今ではある程度の実験は自分で計画しできるようになってきました。免疫化学教室には今年度から大学院生3名が加わり昨年度よりもさらに活気のある研究室になりました。
 研究室での生活ですが、毎週月曜日は、午前8 時半から全員のプログレスレポートと業務連絡のための全体ミーティングを行い、毎週金曜日の午前8 時半から抄読会や研究報告を行っています。 毎週あるプログレスレポートでは、1 週間の研究成果についてプレゼンテーションし、荒瀬教授をはじめ、他の教官の先生などから様々なアドバイスをいただき、今後の実験に役立てています。
 私の研究についてですが、昨年に引き続き抗リン脂質抗体症候群(APS)とMHC クラスⅡとの関係について研究しております。抗リン脂質抗体の中でも抗β2GPI 抗体が病態に深く関わっている可能性が高いので、抗β2GPI 抗体についての研究を行いました。β2GPI には5 つドメインがあり、そのうちドメインVがリン脂質に結合することで、抗体認識部位(エピトープ)露出することが分かっていますが、MHC クラスⅡとβ2GPI のどのドメインが結合するかは分かっていませんでした。今回私の研究で、リン脂質と同様にドメインV がMHC クラスⅡと結合することが判明し、またドメインI が抗リン脂質抗体の認識部位であることを解明しました。この研究内容について現在荒瀬教授の指導のもと論文作成中です。  

神戸大学システム生理学分野での研究 尾﨑 可奈

 2016年9月より神戸大学システム生理学分野で研究を行っております。 システム生理学分野は、2016年4月に新しく立ち上がった研究室であり、この一年間で徐々に様変わりし、新しい修士、大学院生、共同研究者が増えてきました。また、基礎配属実習で医学部生の出入りもあり活気づいています。
 普段の生活は、毎週火曜日に進捗状況を発表するミーティングと抄読会、毎週木曜日に輪読会、その他は各自が自由に研究しています。
 現在私が行っている研究は、「母体炎症モデルマウスにおける、胎児のミクログリアの動態と生後の神経活動」をテーマとしています。ミクログリアは中枢神経系の免疫担当細胞とされるグリア細胞の一つですが、発達期においてシナプスの剪定を行うことでシナプス形成に関わることも報告されています。母体感染や妊娠中の免疫学異常が神経発達障害のリスク因子になる可能性、また、動物実験において母体炎症が生じた出生児の行動学的神経学的な障害が引き起こされることが報告されていることから、中枢神経の免疫細胞であるミクログリアの焦点をあてて研究を行っています。
 振り返ると、この一年テーマをいただいてから、母体炎症モデルマウスの作成方法、母体全身炎症の評価、ミクログリアの動態をみるためのマウスの固定方法など、実験方法を試行錯誤する一年でした。計画的に何かを行うことが苦手な性分のため、実験を順序よく計画的に粘って行うことに慣れず、戸惑うことが多々あります。残念ながらまだ発表できるような結果に到達できておらず、ますます焦る日々ですが、諦めず頑張って参りたいと思います。

神戸大学分子細胞生物学分野での研究 川口 徹也

  2017 年7 月から神戸大学大学院医学研究科 生化学・分子生物学講座 分子細胞生物学分野にて研究を行っています。初期研修以降、ずっと臨床現場での業務だったため、実験をするのは医学生の時以来になります。そのため、一から覚えることばかりで大変ですが、臨床現場とは異なる環境の中、日々新鮮な気持ちで研究に取り組んでいます。
 分子細胞生物学分野では、発がんの分子メカニズムの研究を行っています。具体的にはP53、PTEN 経路、またはHippo 経路と呼ばれる発がんに関与するテーマを中心に研究を展開しています。非常に和気藹々とした雰囲気の研究室です。その一方で、スタッフの方皆が意欲的、かつ真剣に研究に取り組んでおられ、知らないうちに日付が変わっているということも珍しくありません。
 研究テーマは3 つあります。
1.MOB1 欠損マウスにみられる不妊症の解析 2.MOB1 欠損マウスを用いた子宮頸癌の治療薬の発見 3.婦人科がんの予後と関連のある分子の同定・解析です。
いずれのテーマも、その発端にはHippo 経路が関与しています。Hippo 経路とは、器官サイズの制御やがん化の抑制に作用すると報告されており、この経路の破綻により発がんが促進されるといわれています。MOB1 は、Hippo 経路を構成するタンパク質の一つであり、その経路におけるコア複合体を形成します。MOB1 欠損マウスでは、子宮頸癌が高頻度に発症することから、その治療薬の発見をテーマの一つとして研究しています。また、MOB1 欠損マウスでは受精がうまく行われず、受精が阻害されている可能性が示唆されており、不妊症との関連についても研究しています。また、Hippo 経路において最終的に活性化される転写共役因子:YAP1、TAZ が発がんに関与していることが報告され、YAP1、TAZ が核内で作用すると細胞増殖に作用してがん化を促進することがわかってきています。このことから、ヒト全ゲノムライブラリーの約18,000種類の遺伝子の中から、YAP1、TAZ の活性化に関与する遺伝子をピックアップし、それらを用いて婦人科がんに関連のある分子を同定・解析することを目的として研究を行っています。
 いずれの研究テーマも非常に興味深い内容であり、研究室のスタッフの方々にご指導いただきながら、試行錯誤しながら研究しています。まだ判明していない、未知の領域への挑戦であり、戸惑うことばかりですが、今しかできない貴重な経験であり、結果を残せるよう日々精進して参りたいと思います。  

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