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治療可能な認知症

-“treatable dementia”(水頭症、慢性硬膜下血腫、良性腫瘍など)-

「超高齢社会」の到来に伴い、認知症への関心がますます高まっています。認知症の原因はさまざまであり、有名なアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など、その多くは、内科的な診断・投薬治療が主体となります。また、繰り返す脳梗塞などに起因する脳血管性認知症においては、新規脳卒中の発症予防が課題となり、残念ながら現時点では、いったん生じた認知症を画期的に治す方法は確立されていません。

一方で、頭蓋内に血腫や脳脊髄液が貯留、あるいは脳腫瘍などの病変が付随することで、周囲の正常脳が圧迫されるなど、二次的・間接的な影響で認知症を呈している場合には、適切な外科的治療の介入により回復を見る場合があります。私たち脳神経外科は、こういった器質的疾患に伴う認知症について、多くの治療実績を有しています。

なお、これらに該当しない一般的な認知症のスクリーニング、診断・治療につきましては、認知症専門外来や神経内科などを受診されるようお願いいたします。

認知症の大まかな概念

水頭症

水頭症とは、脳脊髄液が頭蓋内の空間(脳室)に過剰に貯留した状態のことで、主に髄液の循環や吸収の過程の障害で生じます。頭部CTやMRIにて、脳室の拡大が認められることなどで疑われます。

水頭症には、頭蓋内圧の上昇を伴う水頭症と、頭蓋内圧の上昇を伴わない正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus; NPH)の2種類があります。

頭蓋内圧の上昇を伴う水頭症は、多くは他の頭蓋内疾患急性期の髄液の通過障害により起こる閉塞性(非交通性)水頭症で、具体的には、脳出血、くも膜下出血、脳腫瘍などに伴って生じます。頭蓋内の限られた容積・空間において、比較的急速に髄液が貯留するため、急激に頭蓋内圧が亢進し、頭痛や悪心・嘔吐、意識障害をきたすこともしばしばあります。また、くも膜下出血後1ヶ月ほどして髄液の吸収障害が進行して水頭症となる場合や、外傷後や髄膜炎後に吸収障害を合併し発症する場合もあります。原疾患の治療を行ないつつ、必要に応じ、後述の短絡術などを行ないます。

正常圧水頭症(特発性正常圧水頭症)は、成人に起こり、歩行障害、精神活動の鈍化、尿失禁を3徴とする慢性の水頭症です。上述の病態と異なり、通常ゆっくりと進行し、頭蓋内圧は正常範囲内にありながら、脳室が拡大し、頭蓋内に脳脊髄液が過剰に貯留します。詳細な原因はまだよく分かっていないため、特発性正常圧水頭症とも呼ばれますが、髄液を吸収する場所であるくも膜下粒の閉塞とくも膜下腔の線維化のためと考えられています。

水頭症

治療は、通常、頭部に貯留した脳脊髄液を腹部へと排出させるためのチューブを留置する手術(脳室-腹腔短絡術(脳室-腹腔シャント術; VPシャント術))を行ないます。病状などに応じて、腰部から腹腔へ髄液を排出させる(腰椎-腹腔短絡術(腰椎-腹腔シャント術; LPシャント手術))こともあります。最近は、脳脊髄液の流れ過ぎを防ぎ、腹腔へ流れる髄液の量を調節できる圧調節型シャントバルブや、MRI対応のシステムを用いることが多くなりました。また、髄液の通過障害により起こる閉塞性(非交通性)水頭症においては、チューブを留置せずに、内視鏡下に頭蓋内で迂回路を設ける手術(第3脳室底開窓術)なども積極的に行なっております。

慢性硬膜下血腫

前述の正常圧水頭症では、知らないうちに徐々に脳室に脳脊髄液が溜まり、脳が内側から圧迫されて認知症になります。同じような理屈ですが、脳脊髄液ではなく、血腫が徐々に大きくなり脳を圧迫するとき、認知症の症状を呈することがあります。

代表的なものとして、慢性硬膜下血腫と呼ばれ、頭蓋骨の内側の硬膜の直下にて、脳の表面に血液が貯留する病気があります。頭を怪我した後になることもありますが、怪我したことがなくても自然に血が溜まることもあり、高齢者ではとくに注意が必要です。

通常、30分間ほどの手術で、局所麻酔にて穿頭(頭蓋骨に小さな穴を開ける)し、血腫を取り除くことにより、多くの場合、症状も劇的に改善します。

「頭部外傷」慢性硬膜下血腫の項もご参照ください)

  • 慢性硬膜下血腫
  • 慢性硬膜下血腫

脳腫瘍など

脳腫瘍というと、とても深刻な病名に聞こえますが、実は脳腫瘍の半分以上は「髄膜腫」などに代表される「良性」のものです。徐々に大きくなり、脳をゆっくりと圧迫することで、頭痛を感じることなく、認知症の症状だけが生じる場合があります。適切な手術にて腫瘍を取り除くことにより、新たな神経症状出現の防止や、認知症の回復が期待できます。
悪性脳腫瘍においても、発生部位や病理診断に応じ、適切な手術や放射線療法・化学療法を行なうことで、症状の改善・緩和をみることがあります。

  • 脳腫瘍
    髄膜腫の例
  • 脳腫瘍
    転移性脳腫瘍の例

以上をまとめますと、脳を内側から(正常圧水頭症)、外側から(慢性硬膜下血腫)、あるいは脳の中から(脳腫瘍)、どのような場所からでも、「ゆっくりと」脳を圧迫する病気は、それを取り除けば、もとに戻る可能性がある、ということです。どの病気も高齢者になるほど多くなる病気なので、歳をとって認知症だからと簡単にあきらめないことです。

ゆっくりと脳を圧迫する病気、手術で治す認知症

上記は代表的疾患と一般的解説であり、その他、個々の状態・症例に応じて、適宜専門的加療・対処を行ないます。