臨床

ホーム > 臨床 > 下垂体腫瘍

下垂体疾患

下垂体および下垂体腫瘍について

下垂体とは、頭蓋骨の底(鼻の奥)に存在する2cmほどの小さい組織で、いろいろなホルモンを分泌する重要なところです。
ここより生じる腫瘍は、ホルモンを過剰に出すタイプ(機能性下垂体腺腫)と、出さずに体積が大きくなるタイプ(非機能性下垂体腺腫)とに大きく分かれます。また、周囲にある組織から、頭蓋咽頭腫、ラトケ嚢胞、髄膜腫などの腫瘍が生じることもあります。
症状も、腫瘍がまわりの脳や視神経などを圧迫することによって起きるものや、ホルモンが出すぎたり逆に出なくなったりすることによるものなど、さまざまなものがあります。

【正常下垂体のMRI画像】下垂体および下垂体腫瘍 トルコ鞍と呼ばれるくぼみの中に、正常下垂体(緑矢印)を認めます。
上方に、視神経(視交叉)(黄矢印)が走行しています。

腫瘍の物理的圧迫による神経症状

腫瘍が視神経などを圧迫すると、徐々に視力が低下したり、視野(見える範囲)が狭くなったりします。これらはゆっくり起こることもあるため、注意しないと自分では気づかない場合もあります。例えば、人混みでよく他人と肩がぶつかるようになった、運転中に側面をぶつけることが多くなった、などということで気づかれることもあります。

ホルモンの異常

下垂体から分泌されるホルモンには主に下記のようなものがあります。機能性下垂体腺腫によりホルモンが出すぎたり、非機能性下垂体腺腫による圧迫によりホルモンの産生や分泌が障害されたりすることで、下表のように様々な症状が生じ得ます。

成長ホルモン(GH)
分泌される場所 下垂体、前葉
働き 文字通り、体の成長に関与します。また、肝臓や筋肉、脂肪などで行われている代謝を促します。
分泌が亢進した(出すぎる)ときの症状 身長や手足の先が過度に大きくなったり、顔つきが変化したりします(あごや眉間が突き出てくるなど)。 高血圧や糖尿病を呈することもあります。
産生や分泌が低下したときの症状 小児では、低身長など。 成人では、加齢に伴う生理的な分泌低下は問題ないですが、病的な低下が持続する際には、体脂肪の増加、筋肉・骨量の減少、易疲労などを呈する場合があります。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)
分泌される場所 下垂体、前葉
働き 甲状腺から分泌されるホルモンの調整を行なうことで、身体の新陳代謝に関与します。
分泌が亢進した(出すぎる)ときの症状 動悸がしたり、暑がり、多汗、体重減少、易疲労などが生じます。
産生や分泌が低下したときの症状 徐脈、寒がり、皮膚乾燥、体重増加、便秘、易疲労、足のむくみなどが生じます。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
分泌される場所 下垂体、前葉
働き 副腎皮質から分泌されるホルモンの調整を行なうことで、様々な代謝や免疫機能に関与し、生命維持に寄与します。
分泌が亢進した(出すぎる)ときの症状 肥満や満月様顔貌(著明な丸顔)、多毛、皮膚の色素沈着を呈したり、高血圧や糖尿病、骨粗鬆症を引き起こします。
産生や分泌が低下したときの症状 体重減少、食欲不振、貧血、低血圧、低血糖などを呈します。命に関わることもあります。
プロラクチン(PRL)
分泌される場所 下垂体、前葉
働き 乳汁分泌ホルモンとも呼ばれる通り、乳腺を刺激し、母乳の分泌を促進する働きがあります。
分泌が亢進した(出すぎる)ときの症状 妊娠・出産をしていないのに、乳汁分泌がみられたり、月経が不規則になったりします。男性では性欲低下などを起こします。
産生や分泌が低下したときの症状 授乳中の乳汁分泌低下など。
性腺刺激ホルモン(LH, FSH)
分泌される場所 下垂体、前葉
働き 卵巣や精巣の機能を調節し、月経や性機能などに関与します。
分泌が亢進した(出すぎる)ときの症状 性早熟、月経不順、不妊など。
産生や分泌が低下したときの症状 性徴未発来、無月経、不妊、性欲減退・性機能低下など。
抗利尿ホルモン(ADH)
分泌される場所 下垂体、後葉
働き 尿量を調節し、体内の水分バランスを調整します。
分泌が亢進した(出すぎる)ときの症状 尿量が低下し、体内の水分が過剰となります。その結果、低ナトリウム血症により、意識障害などを呈することがあります。
産生や分泌が低下したときの症状 尿崩症と呼ばれる、著しい多尿を認め、口渇・多飲、脱水、夜尿症、低血圧などを呈します。高ナトリウム血症などの電解質異常により、意識障害を呈することがあります。
分泌される場所ホルモン働き分泌が亢進した(出すぎる)ときの症状産生や分泌が低下したときの症状
下垂体 前葉 成長ホルモン(GH) 文字通り、体の成長に関与します。また、肝臓や筋肉、脂肪などで行われている代謝を促します。 身長や手足の先が過度に大きくなったり、顔つきが変化したりします(あごや眉間が突き出てくるなど)。 高血圧や糖尿病を呈することもあります。 小児では、低身長など。 成人では、加齢に伴う生理的な分泌低下は問題ないですが、病的な低下が持続する際には、体脂肪の増加、筋肉・骨量の減少、易疲労などを呈する場合があります。
甲状腺刺激ホルモン(TSH) 甲状腺から分泌されるホルモンの調整を行なうことで、身体の新陳代謝に関与します。 動悸がしたり、暑がり、多汗、体重減少、易疲労などが生じます。 徐脈、寒がり、皮膚乾燥、体重増加、便秘、易疲労、足のむくみなどが生じます。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) 副腎皮質から分泌されるホルモンの調整を行なうことで、様々な代謝や免疫機能に関与し、生命維持に寄与します。 肥満や満月様顔貌(著明な丸顔)、多毛、皮膚の色素沈着を呈したり、高血圧や糖尿病、骨粗鬆症を引き起こします。 体重減少、食欲不振、貧血、低血圧、低血糖などを呈します。命に関わることもあります。
プロラクチン(PRL) 乳汁分泌ホルモンとも呼ばれる通り、乳腺を刺激し、母乳の分泌を促進する働きがあります。 妊娠・出産をしていないのに、乳汁分泌がみられたり、月経が不規則になったりします。男性では性欲低下などを起こします。 授乳中の乳汁分泌低下など。
性腺刺激ホルモン(LH, FSH) 卵巣や精巣の機能を調節し、月経や性機能などに関与します。 性早熟、月経不順、不妊など。 性徴未発来、無月経、不妊、性欲減退・性機能低下など。
後葉 抗利尿ホルモン(ADH) 尿量の調節し、体内の水分バランスを調整します。 尿量が低下し、体内の水分が過剰となります。その結果、低ナトリウム血症により、意識障害などを呈することがあります。 尿崩症と呼ばれる、著しい多尿を認め、口渇・多飲、脱水、夜尿症、低血圧などを呈します。高ナトリウム血症などの電解質異常により、意識障害を呈することがあります。

ホルモン機能異常の原因は、下垂体のみならず多種多様にて、以上のような症状を認めた場合、適切なホルモン検査(採血)や、必要に応じ頭のMRI検査を受けることをお勧めします。

下垂体卒中

特殊な病態ですが、稀に腫瘍組織から出血(あるいは梗塞)をきたすことがあり、突然の激しい頭痛や、上記の視機能異常や複視、ホルモン機能異常(主に低下)、意識障害などを呈することがあります。

下垂体腫瘍の治療

私たち神戸大学脳神経外科では下垂体腫瘍と診断された患者さんに対し、薬や手術、場合によっては放射線照射などの治療を検討します。
残念ながら一部の腫瘍を除いて薬で完全に治療することは難しく、手術が必要になることが多いのですが、この場合も主に鼻孔(鼻の穴)から内視鏡を使ってできるだけ体の負担が少なく、かつ効果の高い方法(内視鏡下経鼻経蝶形骨洞的手術)を行っています。
以下は過去に治療を受けられた患者さんのMRIのご紹介です。

非機能性下垂体腺腫(ホルモンを出さないタイプの腫瘍)

  • 非機能性下垂体腺腫

    【手術前】
    下垂体に大型の腫瘍を認め、視神経(矢印)を圧迫しているのが確認されました。

  • 非機能性下垂体腺腫

    【手術後】
    腫瘍は完全に取り除かれ、圧迫されていた視神経(矢印)がもとに戻っています。

機能性下垂体腺腫(ホルモンを出すタイプの腫瘍)

  • 機能性下垂体腺腫

    【手術前】
    下垂体の左側(写真では向かって右側の矢印)に小さい腫瘍を認めます。副腎皮質刺激ホルモンが分泌されており、患者さんは重い糖尿病を患っていました。

  • 機能性下垂体腺腫

    【手術後】
    手術で腫瘍はすべて取り除かれています(矢印)。ホルモンの値は正常になり、糖尿病も改善しました。

また、通常の下垂体腺腫のみならず、頭蓋底の頭蓋咽頭腫、髄膜腫、脊索腫などの手術が困難な疾患に対しても、神経内視鏡を用いた手術に積極的に取り組んでいます。

いずれの腫瘍においても、サイズが大きい場合や、頭蓋内への進展が著しい際など、必要時には、開頭手術(「頭蓋底外科」手術)を併用することもあります。

病気の治療法に絶対というものはありません。個々の患者さんの体の状態やお仕事・生活の状況なども加味して決めていく必要があると考えます。このためまずは外来にお越しいただき、じっくり相談されることをお勧めいたします。

上記は代表的疾患と一般的解説であり、その他、個々の状態・症例に応じて、適宜専門的加療・対処を行ないます。