周産期領域

不育症

 不育症は、妊娠しても流産や死産を繰り返す病気です。死産を繰り返すことは稀で、不育症の多くは、2ないし3回以上流産を繰り返す反復流産や習慣流産です。一般に、初期流産の約6割は偶発的に起こる受精卵(胎児)の染色体異常が流産の原因とされます。晩婚化や少子化の影響もありますので、同意の上、2回流産既往(反復流産)の段階で不育症の精査を開始します。なお、妊娠10週以降の流産や死産、早期新生児死亡は、1 回だけであっても母体要因の影響が大きいと考えられるため、不育症の精査を推奨しています。
  不育症の専門外来では、反復流産、習慣流産、死産既往に悩む女性のみならずカップルをサポートし、原因/リスク因子の精査と治療を行っています。不育症の明らかな原因として、子宮の形態異常、抗リン脂質症候群やカップルの染色体転座があげられます。それ以外の要因は、原因と言えるほど因果関係が強くないので、最近はリスク因子と呼ばれることが多いです。
 1回の流産は12%(10~15%)の頻度で起こり、反復流産4%、習慣流産1?2%、不育症の頻度は5%と推定されます。既往流産回数の増加【表1】、および女性の加齢によって流産率は上昇することが知られています。40歳台女性の流産率は、30?50%とされます。神戸大学では、原因/リスク因子に応じた治療案を提示し、相談と同意の上で次回妊娠の治療方針を決定します【表2】。不育外来受診者の原因/リスク因子別の頻度を【図1】に、治療成績(妊娠率、生児獲得率)を【表3】に示します。


【表1】既往流産回数別の治療による次回妊娠の成功率(厚労科研 2010)
【表1】既往流産回数別の治療による次回妊娠の成功率(厚労科研 2010)


【図1】神戸大学における不育症の原因/リスク因子 (n=322)
【図1】神戸大学における不育症の原因/リスク因子 (n=322)


【表2】 不育症の原因/リスク因子と治療法(神戸大 2018)

リスク因子(原因)治療
母体因子 子宮異常 宮形態異常 子宮形成 (中隔子宮)
子宮腔癒着症 癒着剥離
子宮筋腫 筋腫核出
頸管無力症 頸管縫縮
内分泌代謝異常 黄体機能不全 ホルモン療法、排卵誘発、ドパミン作動薬
甲状腺機能異常 内科的治療
耐糖能異常 内科的治療
感染症 抗生剤
自己免疫疾患 ステロイド、低用量アスピリン (LDA)、免疫グロブリン大量
抗リン脂質抗体 ステロイド、ヘパリン、LDA、免疫グロブリン大量
血栓性凝固異常症 * 低用量アスピリン、ヘパリン
夫婦因子 染色体異常保因者・遺伝性疾患 カウンセリング、着床前診断、出生前診断
母児因子 血液型不適合 血漿交換、胎児輸血
原因不明 4回以上の難治性習慣流産 低用量アスピリン、黄体ホルモン、テンダーラビングケア
妊娠初期免疫グロブリン大量療法
* 血栓性凝固異常症 … アンチトロンビン、プロテインC、プロテインS、凝固第XII因子低下症など
稀なものとしてヘパリンコファクターII欠乏症、tissue factor pathway inhibitor欠乏症、トロンボモジュリン異常症、フィブリノゲン異常症、プラスミノゲン異常症、プラスミノゲン アクチベーター放出障害など
確立した原因と治療法ではないものは、相談と同意のもと投与を決定

【表3】 不育症の原因/リスク因子別の妊娠率と生児獲得率(神戸大?2015)
【表3】 不育症の原因/リスク因子別の妊娠率と生児獲得率(神戸大?2015)

神戸大学不育外来に1年以上通院し表2に示す原因/リスク因子に応じた治療を受けた患者の治療成績(妊娠率、生児獲得率)。 生児獲得率については治療後初回妊娠時の生児獲得率と、初回に限らず流産などのため複数回妊娠した結果生児を得た例も含む累積生児獲得率を記した。

神戸大学での不育症カップルに対する精査

● 詳細な問診
家族歴・既往歴
既往流死産歴
月経歴
● 内診・経腟超音波検査 … 子宮形態、卵巣の観察
● 血液検査
 血液型, 生化学, 血液凝固系(血球数, APTT, 凝固第XII因子, フィブリノゲン, アンチトロンビン, プロテインS, プロテインC, Dダイマー)
● 免疫学的検査
 抗リン脂質抗体(LA, aCL-IgG/M, aCLβ2GPI IgG, aPS/PT IgG, aPE-IgG/M、ネオセルフ抗体)
 抗核抗体 (ANA), 抗DAN抗体 (aDNA), 免疫グロブリン, 補体価, NK細胞活性, 不規則抗体
● 内分泌検査
 黄体機能検査(基礎体温, エストロゲン, プロゲステロン, 子宮内膜日付診)
 甲状腺機能検査
 75gブドウ糖負荷試験
 LH, FSH, プロラクチン, テストステロン
● 夫婦染色体検査
● 細菌学的検査,クラミジア
● 子宮卵管造影検査, MRI, 子宮鏡
● 生活環境調査(カフェイン, 喫煙, 飲酒)
● 絨毛染色体検査 …万一、治療にもかかわらず胎児染色体正常の流産に至った場合、その治療は有効ではなかったと判断し、次回の治療法を見直すことができます。したがって、不育症では自然流産の絨毛染色体検査は重要です。

不育症診療の実際

●染色体異常に対する対応
 不育症の原因としては転座(特に均衡型)保因者が問題になります。転座が判明した場合、遺伝カウンセリングが重要です。均衡型相互転座と診断された患者カップルの次回自然妊娠の成功率は31.9%で、正常染色体を持つカップルの成功率71.7%と比較して有意に低いとされます。しかし、均衡型相互転座のカップルの累積の妊娠成功率は60?80%にのぼり、決して低くありません。なお、均衡型相互転座カップルの自然妊娠では、先天異常を伴う不均衡型の児が0.4?2.9%の頻度で生まれる可能性があります。ごく稀に同腕染色体異常で健児が望めない(必ずトリソミーまたはモノソミーになる)ケースもあります。 
 一方、本邦では2010年より始まった着床前診断では、不均衡型の胚を移植しないことにより、次回の流産を回避します。均衡型転座保因の不育症カップルにおいて、臨床研究として着床前スクリーニングが実施されています。

●子宮形態異常の治療
 子宮の形によっては、着床障害や胎児や胎盤を圧迫して、流・早産になることがあります。子宮底部筋層内の脈管の減少が流産の原因であると推測されています。双角子宮には子宮形成術、中隔子宮には経腟的中隔切除術が有効であると報告されていますが、非手術例と比較した前方視的検討の報告がなく、手術の有効性はいまだ明らかではありません。厚生労働科学研究班(齋藤班)では、中隔子宮では手術を行った方が経過観察より妊娠成功率が高く(81.3% vs 53.8%)、双角子宮では手術を行っても経過観察でも妊娠成功率は同じでしたが、症例数が少なく結論が出ていません。 一方、中隔子宮や双角子宮において、手術を行わない経過観察の方針でも診断後最初の妊娠の59%が、累積では78%が出産に至るという報告もあります。このように、診断後すぐに手術を施行しなくても出産に成功する症例も多いと考えられます。
 神戸大学では、中隔子宮の不育症女性では、相談の上、先に手術を選択された場合は子宮鏡による経腟的中隔切除術を実施しています。

●内分泌代謝異常の治療
 甲状腺機能亢進・低下症、糖尿病などでは流産のリスクが高くなります。甲状腺自己抗体の影響や、高血糖による胎児染色体異常の増加が関係しているとされます。これらの内分泌代謝疾患では、早産等の産科異常のリスクが高くなります。妊娠初期から妊娠末期にかけて良好なコントロールを維持するためは、妊娠前からの十分な内科的治療が必要です。
 甲状腺機能異常や糖尿病などの基礎疾患がある場合は、十分にコントロールしてから妊娠に臨むのが基本です。神戸大学では、内分泌代謝専門医と連携しながら適切に治療を行なっています。

●黄体ホルモン補充療法
 治療効果のエビデンスは乏しいとされていますが、相談と同意の上で治療を行います。① 黄体期 (高温相0.3℃以上の上昇) が12日未満、② 黄体期 (高温相) のプロゲステロン値が12 ng/ml未満、③ 内膜日付組織診にて2日以上のずれ、のうち複数を満たした時に黄体機能低下と判断し治療を行います。妊娠初期のプロゲステロン値が低い時も治療を行います。
 実際には、基礎体温を記載していただき高温期にデュファストン内服とプロゲステロン剤とhCGの筋肉注射を行います。投与は、妊娠8?10週までを目安としています。

●高プロラクチン血症に対する治療
 高プロラクチン血症は黄体機能を低下させる可能性があるため、妊娠9週までブロモクリプチンを投与することによって、妊娠成功率が改善したとの報告があります。しかし、追試で同様の結果報告は多くありません。神戸大学では基本的にカベルゴリン(カバサール)、テルグリド(テルロン)やブロモクリプチン(パーロデル)は、妊娠が確認されたら投与を終了します。プロゲステロン値低下で黄体ホルモン補充を考慮します。

■血栓素因に対する治療(低用量アスピリン、未分画ヘパリン) 血栓素因に対する治療(低用量アスピリン、未分画ヘパリン)

 上記の表は、血栓素因があると流死産リスクは高ことを示します。抗リン脂質抗体をもつ女性は、産科異常を発症するリスクが高くなります。プロテインS低下症は、死産リスクが高くなります(OR 20.1)。一般的に、血栓症患者の半数にこれら血栓素因が見つかります。
 血栓素因では、凝固と炎症反応が複雑に絡み合って不育症に関与していると考えられます。
 未分画ヘパリンの作用機構としては、抗凝固作用により胎盤での血栓形成を抑制する他に抗炎症作用が知られています。低用量アスピリンの作用機構については、抗血小板作用により胎盤での血栓形成を抑制する他、血小板を介した絨毛障害の抑制効果もあると考えられています。

●低用量アスピリン療法
 対象疾患は、自己免疫疾患、凝固異常症、プロテインS低下症、抗リン脂質抗体陽性(< 99%ile)などです。
 内服を行なっていないケースでは、遅くとも排卵後、高温期に入った時点で低用量アスピリンの連日服用 (バファリン81 mg/日 または バイアスピリン100 mg/日) を開始し、妊娠27週末まで継続します。身長体重、既往歴や疾病活動性によって、81 mgか100 mgを選びます。日本では、妊娠28週以降は使用禁忌となっているため、投与期間は通常、妊娠27週6日までとしています。アスピリン100 mg/日内服による妊娠39週の胎児動脈管早期閉鎖の報告(日本周産期・新生児医学会雑誌 46、732、2010)があります。ただし、抗リン脂質抗体症候群症例で血栓症既往がある場合などは、妊娠36週まで同意を得て投与を行うことがあります。
 抗リン脂質抗体症候群や血栓症以外の不育症では低用量アスピリンの有効性は確立していないため、相談の上で投与を決めます。

●未分画ヘパリン療法
 対象疾患は、抗リン脂質抗体症候群、プロテイン C低下症、プロテイン S 低下症(遺伝子変異)、アンチトロンビン低下症(遺伝子変異)など過凝固病態を呈する不育症です。
 超音波診断にて子宮内妊娠が確認された時点から、低用量アスピリンに加えてヘパリンカルシウムの併用(ヘパリンカルシウム5000単位1日2回皮下注射)を開始します。投与期間は、これまでの流死産歴を参考に決定しますが、必要に応じて分娩直前まで投与することもあります。半減期90分であり、点滴投与の場合は通常、分娩開始 (陣痛発来) 時に終了すれば問題はないとされます。必要ならプロタミンで中和することも可能です。
 抗リン脂質抗体症候群や血栓症以外の不育症では低用量アスピリンの有効性は確立していないため、相談の上で投与を決めます。

抗リン脂質抗体症候群 / 抗リン脂質抗体陽性妊婦
 抗リン脂質抗体症候群では、特に血液の流れの遅い胎盤のまわりに血栓が生じやすく、胎盤梗塞により流産や死産が起きます。流・死産とならなくても、胎児発育や胎盤の異常を来します。また、抗リン脂質抗体は胎盤のまわりに炎症も引き起こし、その結果、流産を引き起こします。未分画ヘパリンには胎盤周辺に血栓ができにくくする作用と炎症を抑える作用があることがわかってってきています。

■神戸大学では、抗リン脂質抗体症候群や抗リン脂質抗体陽性の妊婦には低用量アスピリン+未分画ヘパリン療法を実施しています。【図2】
(低用量アスピリン、未分画ヘパリン)
プロテインS 低下で、妊娠10 週までの初期流産を繰り返した既往がある場合、低用量アスピリン療法を行なった場合の生児獲得率 (71.4%) が無治療の場合 (10.5%) より統計学的な有意差をもって高いというデータがあります(厚労省研究班2010)。当科のデータでも抗リン脂質抗体陽性を伴わなければ、プロテインS低下例でも低用量アスピリンと低用量アスピリン+ヘパリンで妊娠予後に大差がなかったため、PS低下かつ抗リン脂質抗体陰性例では低用量アスピリンを基本方針としています。PS低下にaPL陽性を伴う場合や、PS遺伝子異常を伴う場合は低用量アスピリン+ヘパリンを考慮します。
妊娠10週以降の流・死産の既往がある場合、次回妊娠時に行う低用量アスピリン+ヘパリン療法 (78.6%) は低用量アスピリン療法単独 (7.1%) よりも有効とする報告があるので、低用量アスピリン+ヘパリンを考慮します。治療方針は、相談と同意の上で決定します。

凝固第?因子欠乏症については、明確な治療方針は決まっていませんが、低用量アスピリン療法で良好な治療成績(80%) が得られたとする報告があります。相談と同意の上で低用量アスピリン療法などを行うことがあります。

不育症歴のある妊婦さんの妊娠経過観察について

 不育症の妊婦さんの場合、かなりのハイリスク妊娠と認識し管理を行っています。神戸大学では、特に妊娠初期は通常の妊婦健診の2倍ないしそれ以上の頻度で外来診察を行って慎重に管理をしています。 妊婦健診の超音波検査では胎児発育不全、羊水量減少、胎盤老化、血流悪化などの徴候に注意を払って観察します。妊婦さんと相談の上、陣痛開始前の正期ないし早産期から管理入院とし、胎児モニタリングを頻回に行います。遠方から通院している妊婦さんでは、計画分娩を行うこともよくあります。気軽にご相談ください。

文責 出口雅士

母子感染のスクリーニング、診断と治療

 サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、パルボウイルスB19などの母子感染を引き起こす感染症の産科診療を積極的に行っています。小児新生児科とも連携して胎児期から引き続いて新生児、幼児期まで切れ目のなくフォローアップを行う診療体制を整えています。
 例えばサイトメガロウイルス母子感染は、TORCH(トーチ)症候群の代表として有名な感染症の一つです。特に、妊婦のサイトメガロウイルス抗体スクリーニングおよび新生児尿のウイルススクリーニングを全妊婦で行っている病院は、全国で神戸大学だけであり、報道メディアからも注目をされました。
 超音波検査によって胎児感染が疑われたケースや、他の病院で行われた抗体スクリーニング検査の結果、感染リスクが高いことが判明し悩まれたケースなどの紹介を近畿はもとより全国から受けて、カウンセリング、精密検査および治療を行っています。また、倫理委員会の承認を受けて、胎児感染を引き起こすリスク因子の同定や抗体高力価の免疫グロブリンを用いた胎児治療についての臨床研究は、日本で最初に開始し現在も行っています。日本では今後、サイトメガロウイルスに初感染する妊婦が増加するという危惧もあります。私たちの先駆的な研究によって蓄積された最大規模の臨床データは、将来、母子感染の予防と治療に役立つものと信じています。
 トキソプラズマはTORCH症候群で2番目に頻度の多い母子感染とされます。日本では妊婦の抗体保有は5から10%程度なので、多くは妊娠中に初めて感染するリスクを有します。なま肉や加熱不十分な肉類の摂食によってトキソプラズマのシストが母体に入り、胎児感染を起こすことがあります。我々は、IgG, IgM抗体とIgG avidityの測定および羊水や血液のDNA検査を組み合わせた妊婦トキソプラズマスクリーニングを日本で最初に初めて成果をあげています。母子感染リスクなどについてのカウンセリングを行い、適切な治療方法が選択できるように努めています。
 ヒトパルボウイルスB19は、小児でよく見られる両頬の紅斑を特徴とした伝染性紅斑(リンゴ病)の原因ウイルスです。妊娠中の初感染によって胎児水腫や胎児死亡を引き起こすことがあります。日本では4?5年周期で流行が見られ、近年では2007年と2011年の流行の後、2015年に全国的な流行がありました。妊婦さんの感染予防に努めるとともに、万一ウイルスの初感染が疑われた場合には、胎児に異常がないか外来で定期的に超音波検査を行って調べます。

■母子感染に関する詳細な情報は以下のリンクをご覧ください

● 先天性サイトメガロウイルス感染症対策のための妊婦教育の効果の検討、妊婦・新生児スクリーニング体制の構成及び感染新生児の発症リスク同定に関する研究
  http://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/
● サイトメガロウイルス妊娠管理マニュアル
  サイトメガロウイルス初感染が疑われる妊婦へのカウンセリングと対応指針
● トキソプラズマ妊娠管理マニュアル
  トキソプラズマ初感染が疑われる妊婦へのカウンセリングと対応指針 第3版
● 妊婦感染予防パンフレット
  妊娠中のサイトメガロウイルス母子感染に注意しましょう(パンフレット)
  妊娠中のサイトメガロウイルス母子感染に注意しましょう(ポスター)
  パルボウイルスB19によるリンゴ病の感染予防について
  妊娠中のサイトメガロウイルス感染予防について
  サイトメガロウイルス・トキソプラズマ感染予防について
● 母子感染の資料
● サイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の実態把握及び検査・治療に関する研究
  http://cmvtoxo.umin.jp/index.html

重症合併症妊娠への対応

 自己免疫疾患、甲状腺疾患、糖尿病、腎臓疾患など内科合併症を有する妊娠の管理のほか、子宮筋腫、卵巣腫瘍、婦人科癌などの婦人科疾患の合併症を有する妊娠とその分娩管理に特に実績があります。自己免疫疾患では、自己抗体が胎盤を通過して、胎児新生児に特的な異常をきたします。流産や死産、胎児発育不全、胎児異常、胎児不整脈、巨大児のほか、早産となるリスクが高いため、新生児集中治療室(NICU)と密に連携し診療を行っています。
 兵庫県では母体の重症合併症ならびに妊娠26週未満早産の新生児治療に適切に対応できる周産期母子医療センターは少ないために、神戸大学病院は母体体と胎児の集中治療室(MFICU)6床を具備し、総合周産期母子医療センターの認定を受けて、多くの外来紹介と母体搬送を受け入れています。
 当科で行っている重症合併症妊娠への対応の一つとして抗SS-A、抗SS-B抗体陽性妊婦に対する胎児の房室ブロックのスクリーニングと治療があります。抗SS-A、抗SS-B抗体はシェーグレン症候群(目や口の乾燥、関節痛などの症状が起こる病気)や全身性ループスエリテマトーデス(皮疹、関節痛などの他に、腎臓、肺、中枢神経などの全身の臓器が徐々に侵されていく病気)などの自己免疫疾患の患者さんによく見られる自己抗体です。もし、妊婦さんがこの自己抗体を持っていた場合、抗体が胎盤を通過して、胎児の心臓の拍動を調節している刺激伝導系に炎症を起こしてその働き損なってしまう場合があります。この状態を胎児先天性房室ブロックといい、その中でも最も重症な状態が完全房室ブロックです。胎児の完全房室ブロックは、抗SS-A、抗SS-B抗体を持った妊婦さんの約1~2%に起こるとされ、これが起こってしまうと胎児の心機能が低下し、血液を全身に送れなくなってしまい、児の死亡率は15~30%にも上ります。生き残ったとしても2/3の児は、ペースメーカーを埋め込んで一生を送らなければなりません。そこで、我々は、この恐ろしい先天性完全房室ブロックが起こる前にその徴候をとらえるため、抗SS-A、抗SS-B抗体を持った妊婦さんを対象に定期的に超音波検査で胎児の心臓につながる大動脈と上大静脈という大きな2本の血管の血流を調べて房室ブロックの有無とその程度を把握しています。こうすることで、胎児の房室ブロックを程度が軽いうちに見つけ出し、胎児の心臓の刺激伝導系の炎症を抑える働きを持つステロイドというお薬をお母さんに筋肉注射するという胎児治療を臨床研究として行っています。私たちの胎児治療は、お母さんのステロイドの副作用をより少なくするためにステロイドの種類、投与量や投与方法を工夫しており、良い成績を示しています。

整備された産科救急体制

 妊娠と分娩の経過において母体や胎児に予期せぬ緊急事態が発生する事があります。たとえば胎児の状態が急に悪くなった場合、できるだけ速やかに帝王切開による分娩が必要となります。分娩時の大量出血で母体に生命の危険がおよぶと判断された場合には、輸血、子宮動脈の塞栓術などの止血処置や子宮の摘出が必要となることがしばしばあります。癒着胎盤など分娩時出血が問題となる疾患に対しては、放射線科と連携しハイブリッド手術室で帝王切開術および子宮動脈塞栓術を実施しています。同様に、宮動脈塞栓術はほぼ常時、施行可能な体制を整えています。
 急な事態に備えて、妊婦健診の際に手術、麻酔、輸血の必要性や危険性、その合併症についての説明をします。胎児を可能な限り早急に分娩させることを最優先とする超緊急帝王切開の場合は、母体の手術前の検査を行う事ができず、ご家族への連絡も不充分となる可能性がありますが、母子の安全を守るために最善の努力をして適切に対応を行います。
 総合周産期母子医療センターでは、緊急時にできるだけ速やかに適切な対応ができるようになるために、毎月1回の頻度でチームトレーニングを行っています。産科、新生児科、麻酔科、手術部・および救急部の医師とコメディカル等が一緒になって、産科救急をさまざまに想定し、シミュレーショントレーニングを行っています。

産科救急体制

  
 

〒650-0017 神戸市中央区楠町7丁目5-1  Tel. 078-382-5111(大代表) 
お問合せ E-mail:obgyobgy@med.kobe-u.ac.jp(見学は随時受け付けています)