肺高血圧症グループ
肺高血圧症とは?
肺高血圧症とは、様々な原因により「肺の中を血液が流れにくくなる病気」です。医学的には肺血管抵抗が上昇する状態といいます。血液は心臓から全身に駆出され、そして全身を巡った血液は静脈から心臓に戻ってきます。その後、肺動脈を通り肺に送られ、酸素をもらい二酸化炭素を出し、きれいになった血液は再び心臓に戻り、全身に駆出されていきます。すべての血液は必ず肺を通りますので、肺の中を血液が流れにくくなると、全身の血液の巡りが悪くなります。

こうなると、心臓が何とかしようと、頑張って強い力で血液を肺に送ろうとしますので、心臓と肺を結ぶ肺動脈の圧が上がります。

正常な場合は、肺動脈圧は動脈圧(通常の血圧)の1/5程度、平均肺動脈圧(肺動脈圧は上の圧、下の圧ではなく平均で表します)は14mmHg前後です。これが25mmHg以上となると肺高血圧となります。なお、世界の肺高血圧基準は>20mmHgになってきており、日本の基準も今後>20mmHgとなるでしょう。
【症状】 安静時にはそれほど症状は目立ちませんが、特に動いたときに息切れが強くなるのがこの病気の特徴です。他に、むくみや倦怠感があります。前まではできていた階段の昇りがきつくなった、坂道で息が切れるようになった、などの症状がある場合は、肺高血圧の可能性があります。
【診断】 肺高血圧の診断は大変難しいです。レントゲンや心電図では分かりにくく、肺高血圧を疑ってかからないと診断できません。また稀な病気のため、医者もつい見落としがちです。しかし、最近は病気の認知度も上がり、早期に診断される例も増えてきております。
具体的には、血液検査、レントゲン、身体診察より肺高血圧を疑った際には、心臓の超音波検査(心エコー図検査)を行います。この検査で肺高血圧の可能性が高いとなれば、循環器内科の専門病院で心臓カテーテル検査(心臓・肺動脈の圧を直接計測する検査)を行い、肺高血圧症と診断します。
【肺高血圧症の分類】肺高血圧症は、原因により次の5つのグループに分類されます。
- 1群:肺動脈性肺高血圧症
- 肺動脈自体に問題があり、肺細動脈の内腔が狭小化していきます。原因不明の特発性、遺伝性、膠原病性があります。肺血管拡張薬の治療が中心となります。
- 2群:左心不全に伴う肺高血圧症
- 心不全に伴う肺高血圧の状態であり、心不全治療が中心となります。
- 3群:肺疾患、低酸素に伴う肺高血圧症
- 肺疾患(COPDや肺線維症)などで肺高血圧症を合併することがあります。
- 4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症
- 肺動脈の中に器質化した血栓が詰まり、肺の血流が悪くなるため肺高血圧となります。器質化した血栓を血管内膜ごと剥離する手術(血栓内膜摘除術)、カテーテル治療(BPA: Balloon Pulmonary Angioplasty)、薬物治療があります。
- 5群:その他
肺高血圧に関する臨床診療と研究
神戸大学は2005年より全国に先駆けて肺高血圧専門外来を開始し、兵庫県下を中心に約500名の肺高血圧患者様の診療にあたって参りました。肺動脈形成術(BPA)やエポプロステノール持続静脈注射・トレプロスト皮下注射・ベンティビス吸入療法、アデムパス®, ウプトラビ®, オプスミット®など常に最新の肺高血圧治療法を導入し、15年以上の診療実績から肺高血圧治療専門施設として近隣の中核病院から難治症例を中心に多くの新患患者様の紹介を受け付けています。

当科の特徴として特発性肺動脈性肺高血圧症のみでなく様々な原因の肺高血圧症に対応すべく多診療科にわたる多面的アプローチ体制を導入し、特に膠原病性肺高血圧、呼吸器疾患に伴う肺高血圧、慢性血栓塞栓性肺高血圧症への治療経験が豊富で、膠原病内科・呼吸器内科・心臓血管外科などと緊密な連携をとり診療にあたっています。肺血管拡張薬を用いた肺高血圧自体への治療と同時に原疾患への治療も併せて行い患者様の自覚症状軽減と予後改善に努めております。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する取り組み
当院では、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH: Chronic thromboembolic pulmonary hypertension)に対し、最先端の治療を行っております。手術適応症例に対しては、当院心臓外科にて血栓内膜摘除術を2001年より施行しております。また、手術適応外の症例に対しては、2011年より肺動脈バルーン拡張術(BPA: Balloon Pulmonary Angioplasty)を行っております。当院は、日本循環器学会よりBPA指導施設に認定されており、日本循環器学会認定BPA実施医・指導医がBPAを行っております。これまでに多数の治療経験を有し、その良好な治療成績は、日本国内はもとより海外でも高く評価されております。
外科手術とBPAの両方を施行できる病院は日本国内でも数少ないのですが、当院では循環器内科と心臓血管外科が連携し、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の患者様に最適な治療法を提供しております。

上記のような豊富な症例経験を背景に、肺高血圧症患者の予後規定因子の探索や肺高血圧治療法の開発に関する臨床研究を行うと共に、新規病態解明を目指し基礎的な研究活動にも力を入れて難病である肺高血圧患者様の予後改善へ向けた取り組みを行っております。
→詳細はこちらをご参照ください。
医療機関の方々への案内:肺高血圧患者さんのご紹介のお願い
当院は、肺高血圧症の専門医療機関として日本有数の規模を誇ります。質の高い肺高血圧診療を提供してまいります。また、日本全国の肺高血圧専門機関と連携しながら今後の肺高血圧治療の研究にも力を入れております。
肺高血圧症は診断が非常に難しい病気でもありますが、早期診断により患者さんの予後は大きく改善いたします。
下記に該当する患者さんがいらっしゃいましたら、当院にご紹介ください。

肺高血圧に関する基礎研究
遺伝子改変マウスや肺動脈平滑筋細胞・内皮細胞を用いた細胞実験など肺高血圧の新たな治療アプローチの開発を神戸薬科大学臨床薬学教室と共同で行っております。
→→詳細はこちらをご参照ください。

スタッフ
- 江本 憲昭
- 戦略的客員教授(兼神戸薬科大学教授)
- 谷口 悠
- 助教(日本循環器学会認定BPA実施医・指導医)
- 中山 和彦
- 神鋼記念病院 循環器内科
- 谷仲 謙一
- 済生会兵庫県病院 循環器内科(日本循環器学会認定BPA実施医)
- 藤井 寛之
- 医員
- 米田 幸世
- 大学院生
- 坂元 美季
- 大学院生
- 鈴木 陽子
- 神戸薬科大学 助手
- Ahmad Musthafa
- 大学院生
- Aditya Adinata
- 大学院生
- Arinal Chairul Achyar
- 大学院生
- Novia Nurul Faizah
- 大学院生
- Satrio Adi Wicaksono
- 大学院生