循環代謝グループ
■ 脂質に関する研究
- 新たなHDL機能評価法の開発:HDLの量的指標として用いられているHDLコレステロール(HDL-C)は冠動脈疾患の負の危険因子ですが、高ければよいというわけでもないことがわかってきました。我々はHDL粒子がコレステロールを取り込む能力を簡便・短時間かつ高い再現性をもって評価が可能な測定系(Cholesterol Uptake Capacity; CUC)を開発することに成功し、HDL-Cよりも心血管病リスク評価に有用であることを明らかにしました。さらに、シスメックス株式会社との共同開発により完全自動化測定装置が完成し、国内外で本指標の有用性について検証を始めています。
- 炎症収束性脂質メディエーターと循環器疾患に関する研究:炎症反応は本来、外的傷害に対する生体の防御反応ですが、慢性化すると不可逆的な組織障害を引き起こすため、生体にとって適切なタイミングでの炎症収束プロセスが必要です。従来、炎症収束プロセスは、炎症惹起性サイトカイン・脂質メディエーターの産生低下・希釈に伴って「受動的に」進行するプロセスであると捉えられてきましたが、近年、炎症収束プロセスは、特異的な脂質メディエーターによって制御される「能動的な」プロセスであることが明らかになりつつあります。質量分析総合センターとの連携のもと、疾病における特徴的な脂質メディエータープロファイルを明らかとすることで、新しい視点からの病態の理解と新たな治療戦略の発見に繋げたいと考えています。
- わが国でのトランス脂肪酸による健康への影響調査:トランス脂肪酸の摂取は心疾患リスクを高めるために欧米では規制されていますが、食生活パターンの異なる日本でも同様に健康被害をもたらしているのか明らかではありませんでした。我々は日本人でも血清トランス脂肪酸濃度の上昇が冠動脈疾患発症と関連することを報告してきました。さらに最近、わが国が誇るコホート研究である久山町研究と共同で認知症の発症にも関連することを明らかにしています。
■ 心不全に関する研究
- 心不全における代謝制御:心臓は“雑食性”と言われるように、脂肪酸・糖を中心にアミノ酸やケトン体など、様々な基質を元にATPを合成しています。虚血をはじめとした様々な要因により傷害をうけた心臓は構造的なリモデリングを来たす前段階より、エネルギー基質の選択性を大きく変化させることがわかっており、“代謝リモデリング”と呼ばれています。我々は心不全や2型糖尿病のモデル動物における心筋代謝動態を質量分析計によって解析し、病態の解明および代謝への介入による新規治療法の確立を目指した研究を進めています。
- 心不全のバイオマーカー研究:心不全の日本国内における推計罹患患者数は約120万人といわれ、今後、超高齢社会をむかえる本邦では、“心不全パンデミック”と呼ばれる、心不全患者の急増が懸念されています。心不全パンデミックの抑止には心筋に不可逆的なダメージが蓄積する前段階での早期診断・治療が望まれます。そこで我々は県立淡路医療センター循環器内科が主導されている、“兵庫県淡路島における慢性心不全患者の前向き観察研究(Kobe University heart failure registry in Awaji Medical Center ; KUNIUMI Registry)”の患者血液を用い、心不全の新たなバイオマーカーの探索を行っています
- 野生型トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTRwt-CM)のスクリーニング法開発:高齢者心不全の特徴とされるHFpEFは心不全患者の約半数を占めることが知られていますが、現状では有効な治療法が確立されていません。近年、心肥大を呈するHFpEF患者の約10%にATTRwt-CMの症例が存在することが報告され、心不全患者の中に潜在的に多くのATTRwt-CM患者が隠れていることが示唆されました。ATTRwt-CMの診断には組織生検やピロリン酸シンチグラフィーといった、比較的侵襲性が高く、身体的・経済的な負担の大きい検査が必要であり、簡易診断法は存在しません。そこで我々はATTRwt-CMの患者血液を収集し、新たなスクリーニング法の開発を目指した研究を行っています。
■ 循環器領域におけるAI研究
近年医療分野におけるAIの応用研究は日々発展しており、本グループでは循環器領域の様々なAI研究を行っています。
- 不整脈起源を同定するAIモデルの研究:日常診療でよく診る不整脈の中で、WPW症候群やVPCの発生起源を同定するアルゴリズムはいくつか既報がありますが、精度が低いことや煩雑であることが欠点でした。そこで過去の心電図データと電気生理学的検査の結果を学習データとして用いてAIモデルを作成し、これらの発生起源を従来のアルゴリズムに比べ精度良く診断でき、また診断根拠を示すようなことも可能となりました。
- 動脈プラークと予後に関するAIモデルの研究:大動脈プラークは冠動脈プラークと比べ発症メカニズムや臨床的意義は未だに解明されていない部分が多いとされています。我々は、血清学的な脂質プロファイルと大動脈プラークと予後の調査を行い、病態解明のための臨床研究を行っています。大動脈プラークを計測するにはこれまでは手動トレースしかありませんでしたが、プラーク領域検出AIモデルを作成することで煩雑な計測を自動で行うことができるようになり、さらなる臨床研究データの拡大を行っていきたいと考えています。
- 肺静脈の3次元データからCryoAblation困難例を予測するAIモデルの研究:これまで心房細動に対する肺静脈隔離術を行う場合はラジオ波焼灼術が一般的でしたが、CryoBaloonを用いた肺静脈隔離術が広まってきており、近年適応拡大もあり注目されています。しかし、中には肺静脈の分岐形状の問題で治療困難例もあり、これを精度よく予測するモデルはありませんでした。そこで、3次元の血管構造をmeshというデータ構造として学習データに用いてAIモデルを学習させることにより、精度の良く治療困難例を推測することができました。
スタッフ
- 石田 達郎
- 教授(保健学研究科)
- 小林 成美
- 特命准教授(医学教育学)
- 杜 隆嗣
- 特命准教授(立証検査医学分野)
- 篠原 正和
- 教授(分子疫学分野)
- 長尾 学
- 特命助教(立証検査医学分野)
- 西森 誠
- 助教(分子疫学分野)
- 飯野 琢也
- 医学研究員
- 朝倉 絢子
- 助手(神戸薬科大学)
- 藤岡 知夫
- 大学院4年生
- 桑原 直也
- 大学院3年生
- 吉田 江身子
- 実験助手
Alumni
- 井上 通彦
- 龍野中央病院
- 岡田 武哲
- おかだクリニック
- 岡野 光真
- 助教(神戸大学総合内科、地域医療ネットワーク学分野)
- 尾下 寿彦
- 西神戸医療センター
- 乙井 一典
- 准教授(神戸大学総合内科)
- 呉羽 布美恵
- 済生会兵庫県病院
- 近藤 健介
- 三田市民病院
- 佐々木 真希
- 西記念ポートアイランドリハビリテーション病院
- 孫 麗
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- 瀬戸 悠太郎
- 瀬戸内科医院
- 平 和樹
- 芦屋たいらクリニック
- 田中 伸明
- 済生会兵庫県病院
- 田中 華代
- 社会福祉法人オービーホーム
- 津田 成康
- 北播磨総合医療センター
- 中島 英人
- 中島内科
- 破磯川 実
- 市立加西病院
- 原 哲也
- 神戸薬科大学
- 劔物(原口) 英子
- 西記念ポートアイランドリハビリテーション病院
- 福田 亨
- 兵庫県立加古川医療センター
- 本庄 友行
- 本庄医院
- 岩崎(門口)倫子
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- 森 健太
- 豊岡病院
- 森 健茂
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- 安田 知行
- 安田内科・循環器内科クリニック
- 吉川 祥子
- 神戸薬科大学
- 渡部 晃一
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