ごあいさつ
千原 典夫
神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 脳神経内科学分野は、神経疾患患者の診療を志す医師が集い、2008年12月に創立された若い教室です。この度、初代教授戸田達史先生、第二代教授松本理器先生の後任として、2025年7月に着任しました千原 典夫(ちはらのりお)です。
脳神経内科は診断学を重視し、認知症、脳卒中、てんかん、頭痛などのコモンディジーズからパーキンソン病、多発性硬化症など希少神経難病に至るまで幅広な疾患を診療いたします。超高齢社会である日本において、神経疾患は増加の一途を辿り、脳神経内科は内科での重要な一角を占めます。最近では、脳卒中、てんかん、頭痛に加えて、遺伝性神経疾患、神経免疫疾患、認知症にいたるまで、様々な疾患修飾薬が登場し、診断学に加えて治療学としても発展しつつあります。
多彩な社会的要求のある脳神経内科において、脳卒中、神経救急に長けた内科医、難病患者の一緒によりそう療養医、脳神経内科の知識、技術をもって地域医療に貢献する開業医、臨床を知り疾患病態解明をめざす研究医、そのどの役割も担える幅広な脳神経内科医を育てることが私の使命と考えております。学生実習、初期研修、専攻医研修、大学院を通じた人材の育成、そして生涯教育へと展開する教育プログラムを基盤として、関連病院との密な連携のもと、教室員の希望や家庭環境に応じて研修・教育を受けられる体制を整えています。
また、神戸大学医学部附属病院脳神経内科では、認知症センター、てんかんセンターおよび脳神経外科や精神科、小児科をはじめとした関連診療科と学内での連携をとり、最先端の医療を提供できる体制が整っています。診断の難しい神経難病においても、大学病院として神経疾患診療最後の砦である気概を持って診療に取り組んでいます。今後は、大学内、地域の中核病院、診療所と連携し、兵庫県内の神経疾患診療の均てん化に向けて取り組んで行きたいと考えています。
一方で、原因や病態の不明な難治性神経疾患は数多く残されており、病態解明と新規治療法開発を目指した疾患研究が求められています。私はこれまで神経と免疫の連関をテーマに神経疾患研究を行ってまいりました。神経科学の中で重要性を増す免疫学に対してヒト免疫学(human immunology)の視点から疾患研究に取り組める施設は国内にも多くありません。国内外の診療連携および共同研究体制を発展させ、神戸から世界に発信する疾患研究、臨床治験を行なってゆきたいという思いでおります。
神戸は古くは12世紀に開かれた大和田の泊で代表される、港町として国内を代表する海外貿易拠点であり、ジャズとスイーツを愛する開けた多様性を許容する土地柄が特徴です。神戸大学の脳神経内科は、教室員がそれぞれの専門性を活かし切磋琢磨する活気ある教室です。世界における日本の位置が刻々と変化するなか、それぞれの個性を活かして臨機応変に、そして人との出会い、つながりを大切にして行きたいと考えております。教室員とともに、神戸から世界に発信し、社会に貢献する脳神経内科教室としてさらに発展させて行きたいと存じます。
令和7年 7月吉日
脳神経内科学分野 教授 千原典夫