神戸の景色

病理学講座の歴史と変遷

神戸大学医学部の原型は、古くは明治2年4月20日に神戸市生田区下山手通八丁目に建設された県立神戸病院と附設の医学校に求めることができる。米国人医師ウェーデルが支配頭として診療、講義、種痘などにあたり、明治5年9月には囚人の死屍の解剖を県庁に願い出て、県庁は外務省に問い合わせた後、許可を出している。 県立神戸病院の敷地は2,406坪あり、明治6年1月に解剖所を設置し、無籍刑務所の屍体の剖検をペリーが行い、医学伝習生の研究に供した。当時の病院経常予算は僅少で、1か月平均の入院患者は20人、外来患者は150人にすぎなかったが、福原の梅毒院を附属機関とし、さらに西院(分院)をもっていた。 不幸なことに、明治18年から押し寄せた不況の波により、経費支出が困難となり、県立医学校は明治20年に廃校となった。この間の医学校卒業生は131人、年間の臨床講義用患者は2,086人、外来患者は6,211人、屍体解剖は活発に行われ、解剖実習は11回を数えた。医学校廃校後も県立神戸病院は存続し、明治24年には年間延入院患者12,722人、外来患者55,039人と増加の一途をたどり、明治33年4月に現在の楠町7丁目の附属病院の土地に転院している。

それから40年を経て、昭和19年4月、県立神戸病院に県立医学専門学校が設置され、病理学講師として福谷温が任命された。医学専門学校の第1回より第3回までの卒業生は169名を数えた。昭和21年4月、県立神戸医科大学の設置と共に県立神戸病院は附属病院となった。当時は当研究室の前身である第一病理学講座のみで、岡本耕造教授、藤原忠良講師が講義を担当した。昭和28年、岡本教授の東北大学転任と共に家森武夫が第一病理教授として就任し、昭和29年には新設の第二病理教授として波多野輔久が大阪医科大学から着任した。なお第二病理学講座は第二代:杉山武敏(すぎやま たけとし)教授(昭和46年~平成元年)、第三代:前田盛(まえだ さかん)教授(平成元年~平成17年)へと引き継がれた。

病理学第一講座

初代:岡本耕造(おかもと こうぞう)教授(昭和21年~28年)

昭和19(1944)年4月、兵庫県立医学専門学校開校時には、福谷温講師により病理学教育が開始されたと記録されている。その後、昭和21(1946)年に兵庫県立医科大学病理学初代教授として岡本耕造が京都大学より着任し、講座としての歴史を歩み始めた。岡本教授は有機分析試薬を組織化学に応用して金属の体内分布と代謝を解析し、ランゲルハンス島細胞に大量の亜鉛が存在することを発見。後の「糖尿病亜鉛説」樹立へと発展した。

第二代:家森武夫(やもり たけお)教授(昭和28年~昭和45年)

昭和28(1953)年、岡本教授が東北大学に転任後、京都大学から家森武夫教授が着任。監察剖検屍や実験動物を用いた総合的結核研究とともに、貪食を中心とした細胞レベルの炎症研究を推進し、第52回日本病理学会総会(昭和38年4月)において「炎症における食細胞の関与とその形態」と題して宿題報告を行った。在任中の昭和45(1970)年3月28日に逝去された。この間、病理学第二講座の開講(昭和29年4月)に伴い、病理学第一講座へ改称された。

第三代:京極方久(きょうごく まさひさ)教授(昭和46年~昭和54年)

約1年半の教授不在を経て、昭和46(1971)年10月に京都大学から京極方久教授が着任。形態学を基盤に多様な方法論を用いて疾患の病因に迫る研究を展開し、リウマチを中心とした膠原病の発症機序を多様な動物モデルを用いて精力的に解明。その診断基準の確立にも大きく貢献した。

第四代:浦野順文(うらの じゅんぶん)教授(昭和55年~昭和58年)

京極教授が昭和54(1979)年4月に東北大学へ転任後、昭和55(1980)年3月に東京大学より浦野順文教授が着任。血液病理学および小児病理学を専門とし、短い在任期間ながら神戸大学に臨床医学としての本格的な病理診断学を導入した。

第五代:伊東宏(いとう ひろし)教授(昭和59年~平成14年)

昭和59(1984)年9月、兵庫県立こども病院より伊東宏教授が着任。小児病理学を中心に一例一例を大切に記載・診断する外科病理学を推進し、多くの優秀な病理専門医を輩出。在任中の平成13(2001)年には大学院部局化に伴う改組により、「大学院医学系研究科生体情報医学講座外科病理学分野」と名称が変更された。

第六代:横崎宏(よこざき ひろし)教授(平成14年~令和6年)

平成14(2002)年、伊東教授の定年退官に伴い、広島大学より横崎宏教授が着任。消化管病理学を専門とし、病理部・病理診断学分野と密接に連携しながら、病理医・病理学者の養成と学部病理学教育に尽力された。部局運営では、平成28(2016)年より3年間医学科長を務め、日本医学教育評価機構による医学教育分野別評価受審(平成30年9月)において中心的役割を果たした。

参考文献

神戸大学医学部五十年史
神戸大学医学部医学科創立七十五周年・神戸病院創立百五十周年記念誌

研究室概要

所在地

650-0017
兵庫県神戸市中央区楠町7-5-1
神戸大学大学院医学研究科
病理学講座分子病理学分野
(研究棟C 3階西側)
TEL: 078-382-5465
FAX: 078-382-5479