十二指腸がん・GIST (消化管間葉系腫瘍)

十二指腸がん

1. 十二指腸癌について

十二指腸は胃と小腸をつなぐ消化管で、胃から送られてきた食物を消化して小腸へ送ります。胃の出口(幽門)を超え、上部、下行部、水平部、上行部の4部位に分かれており、下行部にある乳頭部には胆管や膵管が合流し、胆汁が流出します。
十二指腸癌について
十二指腸癌(乳頭部にできるものを除く)の頻度は、胃癌の頻度の1%以下ときわめて稀で、希少癌(年間発症率:6人未満/10万人)に該当します。しかし、近年の検診の普及と内視鏡診断技術の進歩もあって早期発見されるケースが増加しています。十二指腸にできる腫瘍には腺癌、神経内分泌腫瘍、悪性リンパ腫、肉腫(GISTや平滑筋肉腫)などがありますが、このページでは主に腺癌の治療について説明します。
早期に発見された粘膜内にとどまる十二指腸粘膜内癌は、自覚症状がありません。さらに、リンパ節に転移することもほとんどなく、腫瘍のみを切除すれば根治できることが知られています。一方で、粘膜下層にまで広がった十二指腸はリンパ節転移をきたすこともあり、リンパ節郭清(周囲のリンパ節を十分に取る)を伴った膵頭十二指腸切除(膵臓と十二指腸を切除し、総胆管と膵管を小腸とつなぎ直す手術)が推奨されます。当科で行う手術は、主にリンパ節郭清が必要のない初期の十二指腸癌を対象とし、リンパ節郭清が必要と判断された患者さんには当院の肝胆膵外科での膵頭十二指腸切除をお勧めしています。

 

2. 十二指腸手術に必要な主な検査について

治療方針の決定には、全身・内臓機能の評価と進行度(ステージ)の評価が必要になります。
検査は、入院で短期間に集中して受けていただくことも可能です。
   
 

3. 初診から手術までに要する期間・入院期間の目安

初診から手術までの期間 : 2~4週間
入院期間の目安 : 10~14日間

 

4. 外科治療について

十二指腸粘膜内癌や癌の疑いのある十二指腸腺腫の多くは、EMR(内視鏡的粘膜切除術)やESD(内視鏡的粘膜下層切開剥離術)などの消化器内科で行う内視鏡治療で根治が期待できます。一方で、内視鏡治療は十二指腸の壁の薄さから、穿孔(壁に穴があく)する率が高いことが知られています。国内先進施設でのアンケート調査では、十二指腸に対するESDでは約30%の患者さんに術中・術後の穿孔をきたしたと報告されています。胃の内視鏡治療における穿孔率が1%以下であることを考えると、十二指腸に対するESDはエキスパートの消化器内科医が行っても穿孔する頻度が高いといえます。十二指腸穿孔は、十二指腸内の膵液や胆汁、胃液などの消化液が腹腔内に漏れることで腹膜炎を起こし、外科手術が必要になることもあり、命にかかわるような重篤な状態に陥る可能性があります。このような穿孔率の高さやそれに伴う危険性により、十二指腸腫瘍に対する内視鏡治療はいまだ標準的な治療としては確立していません。
一方で、消化器外科医のみで手術をする場合は、十二指腸の壁を外側から観察することになり、内視鏡的治療のように内側から腫瘍の範囲を詳細に観察し切除することができないため、過不足ない腫瘍切除を行うことは難しいという問題があります。
そこで、当院では十二指腸の粘膜にとどまるような腫瘍に対して、全身麻酔下で内視鏡治療を行った後に、腹腔鏡手術で十二指腸の壁が穿孔しないように縫合して補強したり、穿孔してしまった場合にも縫合することで壁を修復したり、術後の十二指腸穿孔を回避することを目的とした内視鏡腹腔鏡合同手術をおこなっています。
2020年4月から本術式は保険収載されましたが、十二指腸癌の稀少性や手術の難易度を考えると、一般病院ではまだまだ普及していません。当院は保険収載前から臨床試験を開始しており、国内有数の手術実績を有しております。詳細に関しましては当院外来でお気軽にご相談ください。
外科治療について


GIST(消化管間葉系腫瘍)

1. GISTについて

消化管壁の粘膜下層(壁の中心付近)に発生する腫瘍のことを、粘膜下腫瘍(SMT:Submucosal tumor)と呼びます。そのうち、粘膜下層内のカハール介在細胞から発生した腫瘍のことを消化管間葉系腫瘍(GIST:Gastrointestinal stromal tumor)と呼びます。GISTは癌とは異なりますが、癌と同様に他の臓器へ転移することがあり、悪性の経過をたどる腫瘍です。
毎年人口10 万人あたり1~2人がかかる稀な病気です。発症部位は胃が最も多く、次いで小腸、大腸に発生します。ちなみに、胃癌は人口10万人あたり100人くらいがかかるといわれていますので、いかに少ない病気であるかがわかると思います。

 

2. 手術に必要な主な検査について

手術を含め、治療方針の決定には、全身・内臓機能の評価と進行度(ステージ)の評価が必要になります。検査は、入院で短期間に集中して受けていただくことも可能です。
   
 

3. 初診から手術までに要する期間・入院期間の目安

初診から手術までの期間 : 2~3週間
入院期間 : 1~2週間

 

4. 治療方針について

GISTは、腫瘍の大きさ、肝臓や肺などの他臓器への転移の有無により治療方針が異なります。他の臓器へ転移を認めない場合、サイズの小さいGISTは外科的治療だけで治癒が期待できます。しかし、サイズの大きいGISTは、手術後に肝臓や肺に転移することもあり、術後に分子標的治療薬を長年にわたって内服することもあります。一方、他の臓器へ転移を認めた場合、外科的治療のみでの治癒は難しく、まず分子標的治療薬の内服を行います。このように、GISTといっても診断時の状況により、治療方針は異なります。
また、検査においてGISTの確定診断が得られないSMTも存在します。大きさや、増大傾向の有無を評価し、外科的治療を行う場合もあります。

 

5. 外科的治療について

GISTに対する外科的治療は、できるだけ臓器を残すことを考慮した「局所切除術」が原則です。ただし、部位や大きさによっては、より広範囲の切除(胃GISTの場合、噴門側胃切除術や胃全摘術など)が必要になることや、切離や切除後の縫合に工夫が必要になることもあります。
当科では、腹腔鏡による局所切除術を第一選択としており、さらに消化器内科医による内視鏡と協力して行う腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopic laparoscopy and endoscopy cooperative surgery:LECS)を積極的に行っています。ただし、腫瘍のサイズが大きい場合や、切除や縫合が困難になる場合には、開腹手術を選択しています。
外科的治療について
 

6.術後補助化学療法について

術後の病理組織学的検査において、GISTと診断された場合には、下記の分類表を用いて、リスク分類が行われます。
 
<modified- Fletcher 分類>
  腫瘍径(cm) 核分裂数(/50HPF) 臓器
超低リスク ≦2 ≦5 Any
低リスク 2.1-5.0 ≦5 Any
中リスク ≦5 6-10
5.1-10.0 ≦5
高リスク Any Any 腫瘍破裂
>10.0 Any Any
Any >10 Any
>5.0 >5 Any
≦5 >5 胃以外
5.1-10.0 ≦5 胃以外

超低~中リスクの場合は、術後6カ月から1年おきの定期的な画像評価を行い、再発の有無を確認します。一方で、高リスクと評価された場合、術後3年間程度の分子標的治療薬の内服が推奨されています。この治療方法を、術後補助化学療法と呼び、術後の再発抑制を期待します。