肥満症
1. 肥満症について
身長と体重から計算されるBMI(Body Mass Index)が25 kg/m
2以上の場合、「肥満」と定義されます。このうち、「健康障害」や「内臓脂肪蓄積」を伴う場合は医学的に減量を必要とする「肥満症」と定義され、慢性の病気です。
特にBMI 35 kg/m
2以上の場合は、「高度肥満症」と定義され、積極的な治療が求められます。肥満症は耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)や心疾患、脳疾患、肝疾患などの健康障害と関連しており、減量によりその予防や病態改善につながるとされています。
肥満に起因ないし関連する健康障害
- 肥満症の診断に必要な健康障害
① 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)
② 脂質異常症
③ 高血圧
④ 高尿酸血症・痛風
⑤ 冠動脈疾患
⑥ 脳梗塞・一過性脳虚血発作
⑦ 非アルコール性脂肪性肝疾患
⑧ 月経異常・女性不妊
⑨ 閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
⑩ 運動器疾患(変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節、変形性脊椎症)
⑪ 肥満関連腎臓病
- 肥満症の診断には含めないが、肥満に関連する健康障害
① 悪性疾患(大腸がん、子宮体がん、膵臓がん、乳がんなど)
② 胆石症
③ 静脈血栓症・肺塞栓症
④ 気管支喘息
⑤ 皮膚疾患:黒色表皮腫や摩擦疹など
⑥ 男性不妊
⑦ 胃食道逆流症
⑧ 精神疾患
「肥満症診療ガイドライン2022」より引用
2. 高度肥満症の治療について
治療の中心は、食事療法や運動療法などの内科的治療です。ただし高度の肥満症になる要因としては遺伝性や環境要因、生活習慣なども関与しているため、すぐに減量効果が現れるとは限りません。当院では、内科医や管理栄養士、理学療法士などを中心に、適切な食事内容の指導や、運動方法の指導、必要な場合は薬を用いて治療を行っています。
しかし、減少した体重を長期的に維持することが困難である場合や、いわゆる「リバウンド」を認める場合もあります。海外では昔から肥満症に対する外科的治療が広く行われており、
1年で20〜30%程度の減量効果があるとされます。「
減量・代謝改善手術」と呼ばれ、日本でも手術を導入する施設が増加しつつあります。当院でも代表的な手術法である
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を行っており、保険適応で安全に手術を受けていただくことが可能です。
保険診療となる手術適応基準
6ヶ月以上の内科的治療で効果が得られないもので
- BMI 35 kg/m2以上の場合
糖尿病、高血圧症、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群
上記のうち1つ以上を合併
- BMI 32〜34.9 kg/m2の場合
糖尿病でHbA1c 8.0%以上、高血圧症、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群
上記のうち2つ以上を合併
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術

「日本肥満症治療学会ガイドライン2013」より引用
胃は伸縮性のある臓器で、最大2L程度の容量があり、胃の大弯側(外側)ではグレリンという食欲に関連するホルモンを産生しています。腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は、腹部の5ヶ所程度の小さな傷から腹腔鏡用鉗子を挿入し、大弯側の胃を切り落とし、
胃を細長くします。これにより胃は200ml程度の容量となり、物理的に多くの量を食べることが難しい状況を作ります。術後1ヶ月目までは液体食が中心となり、徐々に形のある食事を再開します。
3. 当院の肥満症治療チーム
当院では肥満症の治療をサポートするために、多職種によるチームを作り定期的にミーティングを行っています。内科や外科、麻酔科などの医師のみならず、管理栄養士や理学療法士、看護師、薬剤師など多くの職種が参加しています。
減量は上手くいく時もあれば、上手くいかない時もあります。また、手術を受ける前も、手術を受けた後も、減量への意識を長期的に継続する必要があります。様々な職種の助言や治療で、より効果的な減量ができるようサポートします。
4. 初診から手術までに要する期間と入院期間の目安
初診から手術までの期間:
当院へご紹介いただいた患者さんには、食道胃腸外科と糖尿病内分泌内科の外来を受診いただいた後に、栄養指導を受けていただき、現在の食生活や今までの経緯などをお聞きします。肥満症の状態や肥満関連疾患の有無などを総合的に評価し、まず食生活の改善や運動療法へ取り組んでいただき、体重の推移(筋肉量や脂肪量など)などを観察します。必要であれば、短期的な教育入院を行います。
その後、個々によって時期は異なりますが、適切な減量・代謝改善手術のタイミングを検討していきます。
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の入院期間:
1週間程度
鼠径ヘルニア
1. 鼠径ヘルニアについて
ヘルニアとは体内の臓器などが本来あるべき部位から「脱出」「突出」した病態のことで、足の付け根の部分(鼠径)にできるヘルニアのことを「鼠径ヘルニア」と呼びます。鼠径部分のお腹の壁を支えている筋膜が弱くなる、または生まれつき欠けていることが原因で発症します。立った状態では鼠径部が膨らみ、寝た状態では元に戻るのが特徴です。見た目が問題となるだけでなく、腸がはまり込み抜けなくなる場合(ヘルニア嵌頓)もあり、注意が必要です。
2. 鼠径ヘルニア手術に必要な主な検査について
診察だけで診断されることが多いですが、CTを用いて診断することもあります。
3. 初診から手術までに要する期間・入院期間の目安
- 初心から手術まで : 2〜4週間
- 入院期間 : 5日前後
4. 外科治療について
腹腔鏡を用いて腹腔内から手術する方法と体表から手術する方法(前方到達法)があります。いずれの方法でもシート状の人工物(メッシュ)で筋膜の弱い箇所を補強します。腹腔鏡での手術(TAPP法(transabdominal preperitoneal approach))を第1選択とし、病状(再発、腹腔内の高度な癒着が予想される場合など)に応じて前方到達法での手術を行っています。
5. 術後の過ごし方
手術直後からシャワー、入浴が可能です。メッシュが身体の組織と十分癒着していないため、術後1ヶ月程度は力むような動作(重たいものを持つ、激しいスポーツなど)を控えていただくことが望ましいです。