神戸大学外科学講座 キャリアサポートセンター

外傷救急外科医育成プログラム

Acute Care Surgeon

外傷救急外科医(Acute Care Surgeon)育成プログラムについて

外傷外科(Trauma Surgery)は主に命にかかわる体幹部外傷手術を扱う分野であり、現在でも発展途上国や紛争地では最も重要な外科の一分野であります。本邦では、高度経済成長期に伴う交通事故死の激増に伴い全国で救命救急センターの整備が進み、主に外科系救急医によって体幹部外傷手術が施行されてきた歴史的経緯があります。近年、交通網の整備や自動車の安全性の向上などにより交通外傷は減少していますが、残念ながら事故や災害、殺傷事件やテロは世界中でなくなることはありません。ロシアウクライナ紛争やガザ紛争は現在進行形でありますし、本邦においても安倍元首相が凶弾に倒れたのは記憶に新しいところであり、そういった重症外傷は外傷外科医でなければ助けられません。外傷手術はしばしば全身状態が安定していない中で行わなければならず、外傷外科医は一般外科手術を基礎としてその上に体幹部外傷独特の専門的スキル・知識を会得する必要があります。

米国において2005年に「外傷外科(Trauma Surgery)」に加えて「内因性救急外科(Emergency Surgery)」と「外科的集中治療(Surgical Critical Care)」をも包括するAcute Care Surgeryという新たな外科の一分野が外傷外科の発展型として誕生、現在人気のある外科サブスペシャリティとして確立しています。本邦においても米国をモデルとして2013年に日本Acute Care Surgery学会が発足し、2019年よりAcute Care Surgery認定外科医制度が開始、今後外科専門医のサブスペシャリティ領域になることを目指しています。もっとも米国と異なり本邦独自の問題点として、1) 外科の一分野として外傷外科という診療科がなかったこと、2) 救急医の主流がER医もしくは集中治療医となり外傷外科分野を担ってきた外科系救急医が激減していること、が挙げられ、国民の安全のために外傷手術のプロであるAcute Care Surgeonの育成は急務であります。

本邦におけるAcute Care Surgeryの専門領域は「集中治療を要する重症外傷や急性腹症」と位置付けられます。その最も重要なエッセンスは「時間と生理学的徴候を意識した手術・集中治療」であり、Acute Care Surgeonは「出血と汚染コントロールのエキスパート外科医」と言えます。救命に必要な過大侵襲手術をためらわず合併症の克服を目指すとともに、状況が許すなら緊急手術であっても必要な低侵襲手術を行うことが要求されます。

このようなエキスパート外科医としてのAcute Care Surgeonを兵庫県内で育成するために、神戸大学外科学講座が中心となり兵庫県災害医療センター・兵庫県病院局の協力を得て、2020年に兵庫県外傷救急外科(Acute Care Surgery)グループを立ち上げました。同時に外傷救急外科医(Acute Care Surgeon)育成プログラムを策定し、「重症外傷・ショックの外科治療スキルの修練期間」と「臓器別外科手術スキルの修練期間」を組み合わせました。育成のための第一ステップが外科専門研修プログラムであり(概要のパンフレットを参照)、グループ設立以降、本育成プログラムは数多くの若手医師に興味を持っていただいています。兵庫県でAcute Care Surgeryを実践したいと考えている学生・研修医の皆さまの参加を心からお待ちしております。

外傷救急外科医育成プログラム(一例)
図:外傷救急外科医育成プログラムパンフレットより抜粋

兵庫県立はりま姫路総合医療センター
消化器外科・総合外科
総合外科診療科長 坂平英樹

先輩の声

若手の先生方の声をご紹介します。
外傷救急外科医を選択した理由や魅力、やりがいなどを語っていただきました。

働き方について考えることは多々あります。しかし、重症外傷の患者さんを自分でも助けられるようになりたいと思う気持ちは変わりません。

森田 知佳 (香川大学 2017年度卒業)

  • これまでの職歴を見る

    初期研修香川県 三豊総合病院
    後期研修神戸大学医学部付属病院 救急科
    製鉄記念広畑病院 救急科
    医師6年目はりま姫路総合医療センター 救急科
    医師7年目~はりま姫路総合医療センター 消化器外科
外傷救急外科グループを選んだ理由
 元々外傷治療に興味がありました。またどれか一つの臓器に興味があるわけではなく、全身いろいろ見られるほうが好きなので救急科に進みました。しかしその中で、救急科で得た知識やスキルだけでは重症外傷に対して治療を完遂することはできず、自分が最後まで治療をして治すにはやはり外科研修が必要であると強く感じ、外科転科を決めました。
神戸大学外科専門研修プログラムを選んだ理由
 ライフワークバランスを考える上で、子育てや家庭の事情の理解が得られることが、私の中で一番大きいです。またその中でもしっかりとスキルアップを目指せるよう、上司などのサポートもあり、こちらを選びました。
フリーテーマ(現在の研究・今の悩み・働き方・将来の展望、など。個人で選択してもらう)
 将来の展望はまだわかりません。できることをひとつひとつやっていきます。。。
学生さん・研修医の先生へのメッセージ
 外傷外科という分野は、腹部臓器のみに限らず全身の臓器をある程度理解しなければならない、手技のスキルも全身管理の知識も必要と、長い道のりです。私自身も、自分が今、その長い道のりのどこにいるのかわからず迷子になることもあります。また家庭との両立も正直難しく、働き方について考えることは多々あります。しかし、重症外傷の患者さんを自分でも助けられるようになりたいと思う気持ちは変わりません。同じ気持ちで頑張ってくださる先生が増えるとうれしいです。