研究内容

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がんの発症・進展機構 ~がん抑制遺伝子の機構解析とその破綻による疾患解析~

 がんは死因の第1位であり、かつ依然増加の一途をたどり、人類にとって最も脅威な疾患です。
我々は分子生物学、細胞生物学や発生工学の技術を駆使して、がんの発症・進展機構の研究を行っています。
 がん遺伝子やがん抑制遺伝子などのがん関連遺伝子の異常は、がんの発症・進展のみならず、
がん以外の種々の主要な疾患の発症や、個体の発生・分化などにも深く関わっていることが分かってきました。
 我々はがん関連遺伝子の改変動物を作製・解析して、これら遺伝子の異破綻によるがんやがん以外の疾患について研究を進めています。
 またこれら研究成果を元に疾患に対する新規治療戦略を提示しようとしています。

研究内容(Research Foci)

 我々はがん抑制遺伝子のなかでも、種々のがんで最も高頻度に変異などの異常がみられるp53やPTEN経路、及び近年注目されつつあるHippo経路などを中心に研究を展開しています。


1.PTEN制御分子の研究

 我々はこれまでにがん関連遺伝子シグナルPTEN/PI3キナーゼ経路の遺伝子改変動物を作製して、
このシグ ナル異常が、種々のがんの発症に重要であることを見出しました(図1)。
またこの経路の異常が、自己免疫病や感染症、脂肪肝、心不全、発生異常など、がん以外の主要なヒト疾患の発症・進展にも関与することを見出してきました(図2)。
 PTEN遺伝子についてはこれまでに多数報告しましたので、Publication listにある原著論文や総説を参考にしてください。
 現在はPTENのさらなる機能を解析するとともに、PTEN制御分子の機能解析研究を行っています。

2.p53制御分子の研究

 核小体を起点としてp53を活性化する「核小体ストレス」の存在は判っていましたが、その分子機構は多くが不明でした(図3)。
一方、19q13にLOHをもつ腫瘍は、予後が圧倒的にいいことがわかっているものの、19q13にある責任遺伝子は未だ同定されていませんでした。

我々は、
(1) 19q13にあって、主に核小体に発現する遺伝子PICT1 (GLTSCR2)は、リボゾーム蛋白質L11 (RPL11)と結合して、RPL11を核小体につなぎとめていること、
(2) PICT1欠損によってRPL11が核小体から細胞質に局在変化し、核質に豊富に存在するMDM2と結合して、そのユビキチンリガーゼ活性を顕著に抑制し、
これによってp53が顕著に活性化すること(図4)
(3) PICT1はES細胞の維持や個体発生に必須であり、PICT1による細胞周期停止や細胞死亢進はp53依存性であること
(4) PICT1発現の低下した食道がん、胃がん、大腸がんでは予後が圧倒的に良いことなどを解明し
PICT1が核小体ストレスを介した新たなp53制御分子であり、がんの予後と強く相関する19q13の遺伝子であることを見出しました。

 今後PICT1の発現調節機能やRPL11とPICT1との結合阻害剤がp53を標的とする抗腫瘍薬になり得るものであることから、現在これらの研究を行っています。 PICT1や核小体ストレスについてはこれまでに書いたPublication listにある原著論文や総説を参考にしてください。

3.Hippo経路遺伝子の機能解析研究

ショウジョウバエで始めてみつかったHippo経路シグナルは哺乳類でも保存されており、 細胞接触などによって細胞周囲環境からの外力を感知してシグナルが作動し、 細胞レベルでは接触抑制(コンタクトインヒビション)、器官レベルでは器官サイズを制御し、腫瘍抑制に重要であることもわかってきました。
 我々はHippo経路のコアコンポーネント(MST, SAV1, MOB, LATS)のひとつであるMOB1A/1Bダブルホモ欠損マウスは着床直後に致死となること、
MOB1A/1Bの部分欠損マウスには、皮膚外毛根鞘がん・骨肉腫・線維肉腫・肝がん・乳がん・唾液線がんなどの種々の腫瘍形成をみること(図5)、
ヒト皮膚外毛根鞘でも高頻度にMOB1の発現減弱をみることなどを見出しました。
現在はHippo経路のさらなる機能解析の他に、この経路を標的とする抗腫瘍薬の開発を行っています。
Hippo経路についてはこれまでに書いたPublication listにある原著論文や総説を参考にしてください。

4.その他の癌抑制遺伝子の機能解析研究

これまでの報道

5.組織における単一細胞レベルのパターン形成と破綻病態

 耳や鼻などの感覚器では、機能の異なる細胞が市松模様やモザイク模様などの特徴的なパターンに並びますが、細胞が規則正しく並ぶメカニズムとともにパターンの生理的意味は長く不明でした。
これまでに私たちは、細胞接着分子のネクチンやカドヘリンに着目し、個々の細胞ごとの接着親和性の違いが、様々な細胞パターンを形成するために重要であることを明らかにしてきました(Togashi et al., Science, 2011; Katsunuma et al., J. Cell Biol., 2016; Togashi, Front. Cell Dev. Biol., 2016)。
  現在は、組織内の細胞パターンが破綻した際の生理機能の異常と病態の関わりや、組織形成における細胞の自律性に着目して研究を進めています。これらの研究によって、原因が不明な感覚器疾患の新たな治療戦略や、再生医療につながることが期待されます。
  

6.最近の受賞

☆ 宮地 洋佑 さん
日本分子生物学会:ポスター賞受賞 2016.12 

☆ 鈴木 聡 先生
文部科学大臣表彰科学技術賞受賞 2016.4 

☆ 大坪 孝平 先生
Hot Spring Harbor International Symposium : 最優秀発表賞 2013.11
宮崎サイエンスキャンプ: 最優秀発表賞 2014.2

☆ 藤 庸子 先生
日本産婦人科学会総会: 最優秀発表賞 2014.4

☆ 久野 舟平 さん
シグナル伝達医学研究展開センター 若手道場: ベストプレゼンテーション賞 2021.3

7.臨床研究

当研究室で行われている臨床研究については、こちらをご覧ください。

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