図3:隆鼻術の問題点(※クリックで拡大)
これまでにお話ししてきた『隆鼻術』と『鼻尖形成術』でできなかったこと、それは鼻尖の位置を移動させることです。
おさらいですが、シリコンプロテーゼを用いた隆鼻術で鼻尖を高くしようとすると…I型プロテーゼでは鼻尖は高くならないので、L型プロテーゼを選ぶ必要がありました。
しかしL型プロテーゼは、プロテーゼが皮膚を突き上げるために、将来的には皮膚が薄くなり、最悪の場合には皮膚を突き破って顔を出すこともあるので当院では使用していません(図3)。
図4:鼻尖形成術
図5 鼻尖形成術の応用(※クリックで拡大)
鼻尖形成術は、あくまで大鼻翼軟骨の形を整えて鼻尖の形をすっきりさせる手術ですので、高さを出そうとすると、軟骨移植を併用しなければなりません。
そして軟骨移植には限界があり、鼻尖をしっかりと下げるようなことはできませんし、無理して高さを出そうとすると曲がってしまう原因になります(図4、5)。
図6:鼻中隔の構造(※クリックで拡大)
そのような欠点を補うのが鼻中隔延長術です。
手術の話の前に、もう一度鼻の構造を、傘に例えて考えましょう(図6)。
鼻中隔は傘で言えば、傘の柄にあたり、大鼻翼軟骨は傘の骨にあたります。
図7:鼻中隔延長の理屈(※クリックで拡大)
傘の骨を曲げることで傘の形を変化させるのが、鼻尖形成術です。
まず傘の柄を伸ばして、それに合わせて傘の骨を曲げて傘の形を変化させるのが、鼻中隔延長術です(図7)。
よりしっかりした変化を出すためには、鼻中隔延長術が必要なことがわかっていただけると思います。
図8:鼻中隔延長術(※クリックで拡大)
実際の鼻中隔延長術では、大鼻翼軟骨の間で鼻中隔軟骨を露出させることから始めます。
鼻中隔軟骨を部分的に取り出し、延長の材料に用います。もし十分な鼻中隔軟骨が得られない場合には、耳介軟骨や肋軟骨を用いることもあります。
材料となる軟骨を、延長したい方向に鼻中隔軟骨に縫い付け、延長した鼻中隔が曲がらないように、軟骨を用いて、延長した軟骨を支えます。
延長した鼻中隔に合わせて大鼻翼軟骨を縫い付け、形を整えて手術は完了です(図8)。
鼻中隔延長術に軟骨移植や、シリコンのプロテーゼを併用して、形を整えることがあるのは、鼻尖形成術と同じです。
鼻中隔延長術は、鼻の構造を根元から組み替える手術になるため、他の手術に比べると身体の負担も大きくなります。 当院では基本的には全身麻酔をお勧めしています。
鼻中隔延長術は、他の手術では出すことができないような大きな変化を出せる優れた手術ですが、すべての手術に良い点と悪い点があります。
忘れてはいけない注意するべき点について、順番に説明していきます。
図8(補足):鼻中隔延長術の問題点(※クリックで拡大)
一般的に用いられる材料は、ご自身の鼻中隔軟骨です。
ここでいくつかの問題があります。
まずは鼻中隔軟骨自体が鼻の構造を維持するために重要な役割を果たしているのです。
ですから、その役割を果たせるだけの鼻中隔軟骨は残さないといけません。具体的には外枠となるL型の部分を最低でも10mmは残すべきとされています(図8(補足)-①)。
そうすると、使用できる鼻中隔軟骨の大きさは限られたものになってしまい、鼻中隔軟骨では足りない人も少なく無いのです。
そのような場合、クリニックによっては人工物や保存軟骨を使用する場合もあります。これまでに吸収性プレート、屍体からの保存軟骨、豚の軟骨などが報告されています。しかしながら長期にわたっての安全性が確認できていないと判断しており、当院ではそのような人工物や豚軟骨などは使用していません。(これはあくまで現時点での当院の判断であり、他のクリニックで使用することを否定するものではありません。)
ではどうするのでしょうか?
鼻中隔軟骨が使えない場合には、当院では主に耳介軟骨を用います。
耳介軟骨は鼻中隔軟骨に比べると、柔らかくて曲がりやすく、そして分厚いので、率直に言えば、耳介軟骨は鼻中隔延長術に適しません。無理して延長しても曲がってくるなど、トラブルが多くなるので、延長量は小さくする方が安全です。
しかしながら局所麻酔でも容易に採取できる、術中に鼻中隔軟骨が使えないと判明してからでも採取できる、といった長所があります。
もう一つの方法として肋軟骨を用いる方法があります。肋軟骨も聞き覚えのない名前だと思いますが、胸にある肋骨のみぞおち付近にある軟骨のことです。女性であれば乳房の下の線に合わせた部分に4〜5cmの傷をつけて取り出して、これを薄く加工して用います。肋軟骨は優れた材料ですが、強度を保つためには分厚く加工する必要があり、また鼻中隔軟骨に比べると曲がりやすいです。そして何よりも胸に傷をつけるという欠点は無視できません。
図8(補足):鼻中隔延長術の問題点(※クリックで拡大)
私たちは、曲がる原因として、移植した軟骨を押さえつける皮膚からの圧力が問題と考えています(図8(補足)-②)。
鼻中隔延長術は、元々持っている鼻中隔軟骨を土台として、移植する軟骨を継ぎ足して延長するという手術です。
ですから慎重にまっすぐに延長させても、土台となる鼻中隔軟骨が負担に耐えきれずに曲がってしまうと、当然継ぎ足した軟骨も曲がってしまいます。
曲がる可能性を減らすためには、延長する量を減らして、鼻中隔にかかる負担を減らすしかないと考えています。
これまでに説明して来たように、鼻中隔延長術では、いかに軟骨が曲がらないように固定するのか?が非常に重要です。
そのために土台となる鼻中隔に、移植する軟骨を縫い付ける際に、左右から軟骨で補強を行います。
薄い軟骨ですが、2枚、3枚と重ねることでそれなりの厚みを持ちます。これにより完成した鼻中隔は太くなり、鼻の穴が狭くなります。そして空気の通りを邪魔します。
呼吸ができなくなるようなひどい状態にはなりませんが、空気の通り道の変化は「鼻閉感(鼻づまり)」として不快に感じられる可能性があります。
図6:鼻中隔の構造(※クリックで拡大)
図6で示したように、鼻中隔は「傘の柄」にあたる構造です。
鼻中隔を延長された鼻では、その固い「傘の柄」が鼻尖にまで達します。
触ると固い軟骨を触れるようになります。
例えば鼻尖を指で押し上げて、ブタ鼻を作るようなことはできなくなります。