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研究内容

 

 ヒトの身体は、約50兆個にものぼる数の細胞から構成され、これらが高度に分化した組織・器官を形成し、互いに綿密な連携プレーをとりながら、運動、消化、免疫、記憶などの様々な機能を営んでいます。この連係プレーを円滑にそして合目的に進行させるために、ヒトではホルモン、細胞増殖因子、神経伝達物質などの各種情報伝達分子を用いて、からだの機能を調節しています。これらの情報伝達物質による細胞刺激の結果、細胞膜の脂質が代謝されて各種の脂質メディエーターが産生され、その結果多岐にわたる生命現象が調節される実態が明らかにされつつあります。

 当教室では、これらの情報伝達に関与する酵素や活性調節因子などを生化学的、分子細胞生物学的、あるいは細胞イメージングの手法を用いて解析し、その生理的意義や病態との関係を明らかにすることを目的としています。最近では特に、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)を介する情報伝達機構(S1Pシグナリング)の解明に焦点を当てて研究を行っています。

 スフィンゴ脂質と呼ばれる一群の脂質については、その生理的な役割は不明でした。しかし最近になって、このスフィンゴ脂質のひとつであるS1Pが注目を集めています。S1Pはセラミドの代謝産物であるスフィンゴシンがスフィンゴシンキナーゼ(SphK)によってリン酸化されることで細胞内において産生され、細胞外へ放出された後、生理活性物質として細胞膜上に存在するGタンパク質共役型受容体ファミリーであるS1P受容体に作用することで、細胞運動、細胞増殖、細胞接着、神経伝達物質放出など様々な細胞応答に関与することが知られています。  

                  

 またS1Pは、細胞表面のS1P受容体に作用する生理活性物質としての役割を持つ一方で、細胞内ではセカンドメッセンジャーとしてカルシウム動員を引き起こしたり、細胞内シグナル伝達タンパク質に直接結合して活性化する作用を持つユニークな脂質メディエーターです。

 S1Pが近年注目を集めている理由の一つに、新規免疫抑制薬FTY720(フィンゴリモド)の登場があります。免疫抑制作用を持つことが知られていたFTY720は、体内でSphKによってリン酸化されてFTY720リン酸となり、これがS1Pを模倣してリンパ球上のS1P受容体に結合するという、意外な作用機序が明らかになりました。この発見により、胸腺やリンパ節からリンパ球が遊走する際にS1Pが重要な役割を担っていることが明らかになりました。

  FTY720(フィンゴリモド)    FTY720

 細胞内でS1Pを作り出す酵素はSphKで、ふたつのサブタイプが知られており(SphK1, SphK2)、体内でFTY720をリン酸化するのは主にSphK2であることも報告されています。一方SphK1, SphK2はリンパ球以外にも様々な臓器に発現しています。また、S1P受容体も広汎な臓器に発現していることから、上述のリンパ球以外でも、S1Pが重要な生理機能を担っている臓器や細胞も多くあると考えられ、これらもすべて創薬のターゲットになる可能性があります。

 当研究室では、新たな創薬ターゲットの創出を目指し、S1Pシグナリング作用の分子メカニズムおよび生理・病理的役割の解明に着目して研究を進めています。

 

エクソソーム生成におけるS1Pシグナリングの役割に関する研究内容

 

S1Pの総説「細胞内外で機能するスフィンゴシン1リン酸(S1P)の役割」

 

研究室の様子(実験機器など)

 

 

 

 

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