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エクソソームへの積荷ソーティング機構

 

 エクソームは各種細胞から放出される30〜100nmの微小膜小胞であり、様々な機能性タンパク質やRNAなどを積荷として含んでいます。細胞から放出されたエクソソームは、液性因子として生体内を循環・拡散し、エクソソームに含まれる積荷がターゲット細胞に作用することにより、生理的・病理的に様々な応答を引き起こすことが知られています。エクソソームに関する報告は近年爆発的に増加しており、エクソソームの積荷の解析、エクソソームの標的細胞に対する生理および病理作用、エクソソームの形成メカニズム、などについて多くの知見が得られつつあり、現在も世界レベルで盛んに研究が進められています。ただこれまで、実際にエクソソームの積荷がどのようにして選択的にエクソソームの中へ積み込まれるのか、その仕組みについてはよく分かっていませんでした。
 最近私達は、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)シグナリングが、積荷となるタンパク質をエクソソームへ選択的に積み込む(積荷ソーティング)過程で、重要な役割を担うことを明らかにしました。
 具体的には、まずスフィンゴシンキナーゼ2(SphK2)によるS1Pの産生および生理活性脂質S1PによるS1P受容体の活性化のメカニズム(図1)が、細胞膜上のみならず、細胞内膜系のエクソソーム生成の場である多胞エンドソーム上においても細胞膜とは独立して働いていることを見出しました。さらにこの独立したS1Pシグナリングの恒常的な活性化が、積荷タンパク質をエクソソームへソーティングするトリガーになることを明らかにしました(図2)。実際、多胞エンドソーム上でのS1P産生を引き起こすSphK2やS1P受容体などのS1Pシグナリング分子の働きを選択的阻害剤やsiRNAなどによりブロックすると、特定の積荷タンパク質のエクソソームへのソーティングが抑制され、結果積荷の含有量が減少したいわば”空の”エクソソームが放出されることが示されました(図3)。
 またさらに、多胞エンドソーム上でのS1Pシグナリングの下流シグナルの詳細について調べたところ、S1P受容体にカップルする三量体Gタンパク質のうちGβγの下流でRhoファミリー低分子量Gタンパク質が恒常的に活性化しており、このシグナルの制御によりアクチン重合が促進していることが明らかとなりました。そしてこの多胞エンドソーム上でのアクチン繊維の形成は、積荷タンパク質のエクソソームへのソーティングに不可欠であることが分かりました(図4)。一部の積荷タンパク質は、S1Pシグナリングの制御下で形成されるアクチン繊維のレールに乗って、エクソソームの中へと運ばれていくのかもしれません。
 現在私達は、積荷タンパク質のエクソソームへのソーティングを、S1Pシグナリングの制御により自在にコントロールすることで、各種生理応答や疾患の制御を行うことを目指し研究を進めています。

                    

  図1:S1Pシグナリングの自己活性化機構                 

              

 

  図2:S1Pシグナリングによるエクソソームへの積荷タンパク質ソーティング

    

 

  図3:S1Pシグナリング活性の抑制によるエクソソームへの積荷タンパク質ソーティングの低下

 

 

  図4:エクソソーム積荷ソーティングにおいてS1Pシグナリングの制御下で働くアクチン繊維

 

 

 

 

Ongoing activation of sphingosine 1-phosphate receptors mediates maturation of exosomal multivesicular endosomes.

Kajimoto, T., Okada, T., Miya, S., Zhang, L., Nakamura, SI.

Nature Communications. 4:2712. doi:10.1038/ncomms3712 (2013)

 

エキソソームの形成機構

梶本 武利、岡田 太郎、中村 俊一

細胞工学 Vol.34 No.2 エンドソームの多彩な機能 2015年2月号

 

Involvement of Gβγ subunits of Gi protein coupled with S1P receptor on multivesicular endosomes in F-actin formation and cargo sorting into exosomes.

Kajimoto, T., Mohamed, NNI., Badawy, SMM., Matovelo, SA., Hirase, M., Nakamura, S., Yoshida, D., Okada, T., Ijuin, T., Nakamura, SI.

Journal of Biological Chemistry 293, 245-253 (2018)

 

 

 

 

 

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