神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野・小児神経学・発達行動小児科学部門―神戸市寄附講座―

神経発達症に対するエビデンスのある療育プログラムDevelopmental support program

エビデンス(証拠)に基づく医療について

神経発達症に対しては、医療機関、教育機関、障害児支援事業所など、さまざまな機関が療育プログラムを提供しています。その中で実際に効果が科学的に証明されているプログラムをここでは紹介します。
その前に「エビデンス」という語について、簡単に触れておきましょう。
医療分野では、1990年にGordon Guyattによって提唱された「エビデンス(証拠)に基づく医療」という概念が広まりました。現在では「エビデンス」という言葉は医療分野以外でも広く使われるようになっています。臨床医学においてある治療法が強力なエビデンスを持つということは、例えば、特定の疾患、状態に対して、Aという治療法がBという治療法よりも明確に改善効果をもたらすという証拠を示す複数の研究が存在することを指します。
ここでは、エビデンスに基づいて治療や介入法を評価・整理している英国の国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインに基づき、神経発達症の一つである自閉スペクトラム症(ASD)に対する科学的に裏付けられた介入方法とその効果について紹介します。

1. 応用行動分析(ABA)に基づく介入

ABAは、行動科学の原理を用いて行動を分析し、適応的な行動を増やし、不適応な行動を減らすことを目的とした方法です。NICEガイドラインによると、ABAに基づく介入は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちにおいて、コミュニケーションスキルや社会的相互作用の向上に有効とされています*1)

2. 早期スタートデンバーモデル(ESDM)

ESDMは、発達心理学とABAの原理を統合した包括的な介入モデルで、12~48か月の幼児を対象としています。子どもの興味に基づいて、自然な遊びや日常生活の中で介入を行います。研究によれば、ESDMは幼児の社会的コミュニケーションや認知機能の改善に効果があるとされ、Dawsonらの無作為化対照試験では、ESDMを受けた子どもたちが認知機能と言語能力の向上を示しました*2)

3. 親主導の言語・コミュニケーション介入

親が中心となって子どもの言語やコミュニケーションスキルを支援する方法で、専門家の指導の下、家庭で日常的に実践します。RobertsとKaiserのメタ分析によると、親が主導する介入は、子どもの社会的コミュニケーションスキルの向上に有効であり、言語発達にも効果があるとされています*3)

4. TEACCHプログラム

TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped Children)は、構造化された教育を通じて、日常生活スキルの向上を目指すプログラムです。Paneraiらの研究では、TEACCHを受けた子どもたちが学習能力と社会的スキルで有意な進歩を示したことが報告されています*4)

5. 感覚統合療法

作業療法士が提供する感覚統合療法は、感覚処理の問題を持つ子どもたちの感覚統合スキルを向上させます。
感覚統合療法の効果についてはエビデンスは限られていますが、特定の感覚処理の問題に対して有益である可能性が示唆されています。
Case-Smith, J., & Arbesman, M. (2008)のレビュー*5)では、感覚統合療法が適応行動や感覚処理能力の改善に効果的である可能性が示されています。

以上様々なエビデンスのあるプログラムがありますが、効果的なプログラムには表に挙げられるような共通の特徴があることが報告されています*6)

実践の特徴 実証的に裏付けられた介入の共通の特徴
評価と目標
  • スキルを体系的に評価する
  • 家族の意見を取り入れる(共同意思決定)
  • 各児童の客観的な評価に基づいて、個別に測定可能な目標と指導手順を選択する
  • 評価に基づいた、経験的に裏付けられた指導方法を使用して、スキルを構築、一般化、維持し、問題行動を軽減する
指導方法
  • 社会的コミュニケーションにおける中核症状、制限された反復的な行動、スキル不足に対処する 
  • 子どもの個別の目標に対応できるほど低い生徒対教師の比率を提供する 
  • 介入は適切な訓練を受けた提供者によって行われ、選択された治療アプローチに忠実でなければならない
  • 複数のプロバイダーが協力して作業できるようにする 
サービスとサポート
  • 個別サービスとサポート
  • 強化システムを決定する際に子どもの興味や好みを活用する
  • 活動への関与を高めるために好みの活動を組み込む
環境
  • 予測可能なルーチンや視覚的な活動スケジュールなど、活動間の移行を子供たちが予測できるようにする構造化された学習環境を提供する
  • 作業スペースを整理して気を散らすものを最小限に抑え、タスクの完了を促進する
  • 生徒の注意をそらす可能性のあるものへのアクセスを制限する
  • 環境は、生徒がコミュニケーションを取り、仲間と交流する機会を促進するものでなければならない
行動管理
  • 機能的行動分析を実施して、問題行動が発生する理由を特定し、この評価に基づいて行動改善計画を策定する(IDEA 必須アプローチ) 
  • 行動改善計画を使用して子供たちにより適切な対応を教える 
進捗 
  • 個々の子供の進歩を体系的に測定し、記録する 
  • 目標スキルの習得を可能にするために、必要に応じて指導戦略を調整する
家族のサポート
  • 家族を巻き込み、教育することで、家庭や地域社会で行動戦略を活用できるようにする
移行計画 
  • 学校環境から成人への移行を計画する(例:家庭での早期介入から就学前サービスへ、就学前教育から小学校へ、小学校から中学校へ、中学校から高校へ、高校から職場または高等教育へ、自宅から地域社会での生活へ) 
1) Eldevik, S., et al. (2009). Meta-analysis of Early Intensive Behavioral Intervention for children with autism. Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology, 38(3), 439-450.
2) Dawson, G., et al. (2010). Randomized, controlled trial of an intervention for toddlers with autism: The Early Start Denver Model. Pediatrics, 125(1), e17-e23.
3) Roberts, M. Y., & Kaiser, A. P. (2011). The effectiveness of parent-implemented language interventions: A meta-analysis. American Journal of Speech-Language Pathology, 20(3), 180-199.
4) Panerai, S., Ferrante, L., & Zingale, M. (2002). Benefits of the Treatment and Education of Autistic and Communication Handicapped Children (TEACCH) program as compared with a non-specific approach. Journal of Intellectual Disability Research, 46(4), 318-327.
5) Case-Smith, J., & Arbesman, M. (2008). Evidence-based review of interventions for autism used in or of relevance to occupational therapy. American Journal of Occupational Therapy, 62(4), 416-429.
6) Hyman, SL, et al.  Identification, Evaluation, and Management of Children With Autism Spectrum Disorder. Pediatrics January 2020; 145 (1): e20193447.

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