神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野・小児神経学・発達行動小児科学部門―神戸市寄附講座―

寄付講座についてAbout endowed courses

この部門は、子どもの神経発達や行動の問題に関する研究拠点として、2024年4月1日に神戸市の支援で設立されました。
小児神経学や発達行動小児科学の視点から、生物・心理・環境・社会モデルに基づく研究を進め、障害児や虐待を受けた子どもたちの調査を行います。
研究成果を広め、障害の予防や治療法、早期発見の手法を開発し、すべての子どもが健やかに成長できる社会を目指しています。

ごあいさつGreetings

 特別支援教育を受ける神経発達症(発達障害)の子どもの数や児童虐待報告数が、この30年間でそれぞれ10倍以上に増加するなど、子どもの心理社会的問題が大きな問題となり、医学においても神経発達症や児童虐待に全ての小児科医が関わる時代となってきました。
 このような状況の中、神戸大学小児科には、平成27年に障害児(者)療育に関する研究拠点として「こども総合療育学部門」が、さらに平成31年には児童虐待の予防、発達障害の早期支援、乳幼児健診の疾病スクリーニング精度向上に関する疫学調査・研究を目的として「こども急性疾患学部門小児統合健康学領域」が、いずれの部門も神戸市の寄附講座として設置され、これまで診療、研究、教育を担ってきました。令和6年4月1日に、これら2つの寄附講座が再編・統合され、「小児神経学・発達行動小児科学部門」となり、新たに活動をはじめました。
 新しい講座の名称である「小児神経学」、「発達行動小児科学」はいずれも確立された医学分野です。

 小児神経学は、精神分析を生み出したことで知られるFreudが開いた脳性麻痺のクリニック、Bernard Sachsによる初めての教科書であるA Treatise on the Nervous Diseases of Children for Physicians and Students.(1895)など19世紀末にその源流を辿ることができる分野であり、北米では臨床研修プログラムが1950年代以降広がり、小児科学のサブスペシャリティとして確立されました。我が国においては、昭和36年(1961年)に日本小児神経学会の前身である小児臨床神経学研究会が発足、昭和52年(1977年)に日本小児神経学会と改称され現在まで発展してきています。小児神経学は脳性麻痺、筋ジストロフィーなどの運動障害、神経発達症(発達障害)、てんかん、頭痛、睡眠障害などの症状を対象とし、それらの原因は遺伝性疾患、中枢神経感染症、急性脳症、自己免疫疾患、周産期脳障害、頭部外傷など非常に多岐にわたる分野です

 一方、発達行動小児科学は、子どもの心身の問題に対してCharles Darwin, James Mark Baldwin, Jean Piagetらによって形作られてきた発達心理学と、Ivan Pavlov, James B. Watson, B.F. Skinnerらに系譜を持つ行動科学の観点からアプローチする小児学の分野として1960年代に米国で生まれ、1977年に精神科医のEngelが提唱した生物心理社会モデル*1)を取り入れ、発展してきました。日本におけるこの分野に対応する学会は1960年に発足した日本小児精神神経学会、1983年に設立された日本小児心身医学会が挙げられます。
例えば、子どもが学校に行きたがらない場合、その要因として神経学的には知的発達の遅れをきたす疾患が存在し(生物学的、神経学要因)、そのため学校の授業がつまらないと感じる(心理学的要因)、クラスが大規模で先生の目が届かない(社会的要因)、さらには先進国における学業の価値のウェイトが高くなりすぎている(生態学的要因)といった多層レベルで臨床的課題をとらえて対処していきます。

 本講座はこのような歴史ある2学術分野を基盤として子どもの精神神経発達の問題について取り組みますが、このような問題を支援するには、医療以外の、保健・福祉・教育・心理学など行政機関を中心に様々な分野の専門職との協働が求められます。本講座は、神戸市の寄附講座であるという特色を活かし、療育センター・こども家庭センター・保健所・教育委員会などの神戸市の行政機関と協力して、精神神経発達・行動上の問題を抱える子どもたちに対する新たな診断・治療・支援プログラムを開発し、神戸から全国、さらには全世界に発信していきます。

*1)Engel GL. The need for a new medical model: a challenge for biomedicine. Science. 1977;196(4286):129-36. 

令和6年9月1日 神戸大学大学院医学研究科内科系講座
小児神経学・発達行動小児科学部門
特命教授 永瀬裕朗

スタッフ紹介Staff introduction

永瀬 裕朗

永瀬 裕朗

特命教授 平成9年卒
小児科専門医
小児神経専門医
てんかん専門医
子どものこころ専門医

山口 宏

山口 宏

特命講師 平成23年卒
小児科専門医
小児神経専門医
てんかん専門医

南部 静紀

南部 静紀

特命助教 平成25年卒
小児科専門医

花房 宏昭

花房 宏昭

特命助教 平成26年卒
小児科専門医
臨床遺伝専門医

事業Project

寄附講座において取り組む事業は以下のとおりです

  1. 障害児(者)に関する疫学調査・研究
  2. 神経発達症に対する遺伝学的研究
  3. エビデンスに基づく神経発達症の管理・治療の開発
  4. 児童虐待に関する分析
  5. 障害児・児童虐待に関する多機関ネットワークの構築
  6. 障害児・児童虐待の医学生教育システムの確立
  7. 障害児・児童虐待の研修プログラムの研究開発
  8. 地域の専門職及び市民への啓発活動
  9. 研究成果に関する普及啓発

現在進行中の具体的研究課題

  • 発達二次健診プログラムの策定、検証研究
  • 神戸市乳幼児健診データを用いた疫学研究
  • 医療機関における知的発達症合併自閉スペクトラム症児への早期介入プログラムの開発
  • 急性脳症・熱性けいれんに関するレジストリ研究
  • 小児期発症の摂食障害患者の臨床経過に関する 記述的研究

教育

医学生、神戸大学初期研修医への小児神経学、発達障害、児童虐待に関する講義