神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野・小児神経学・発達行動小児科学部門―神戸市寄附講座―

原因検索・遺伝学的検査の適応Genetic testing

神経発達症と遺伝について

神経発達症は、遺伝要因と環境要因が複雑に絡み合って生じるとされています。
特に中等度から重度の知的障害においては、単一の遺伝子変異が原因となるケースが多いとされています*1)
一方で、遺伝要因と環境要因が絡み合う多因子のケースでは、原因の特定が困難なことがあります。

遺伝子に関する検査とは?

伝子に関する検査

遺伝子は、体内でタンパク質を構成するための設計図です。この設計図を調べることで、知的障害の原因を明らかにし、診療に役立てることを目的としています。現在の医療では、主に単一遺伝子の変化が原因となっている知的障害に焦点を当てており、環境要因や複数の遺伝要因が関与する多因子遺伝については、まだ発展途上の段階です。

遺伝子関連検査の目的について

遺伝子関連検査により原因遺伝子が特定されれば、神経発達症の発症原因について理解が深まり、納得感が得られる場合があります。多くの神経発達症では特別な治療法がないものの、一部の代謝疾患などでは治療に関連する情報が得られることもあります。また、合併症のリスクや健康管理に関する情報が提供されるほか、発達の特性を理解することで、療育に活かすことが可能です。

遺伝子関連検査の留意点について

遺伝子関連検査によって原因が特定されると、症状に対する見通しが立ったり、思いもよらない合併症についての情報が得られたり、家族についての情報が得られることによる心理的負担が生じたりする可能性があります。さらに、遺伝子の検査は万能ではなく現在も発展途上であり既存の検査では原因が特定できない可能性もあります。例えば、現在日本においては研究で行われている全エクソン解析(ヒトのすべての遺伝子の重要な部分をまとめて解析する方法)でも、神経発達症の診断率は様々な研究によれば約40%程度と言われています*2),3)

遺伝子関連検査の種類について

神経発達症の検査にはいくつかの方法があり、状態に応じて選択します。検査の選択については、主治医と相談することをお勧めします。

染色体G分染法
染色体は、多くの「遺伝子」が収められた箱のようなものです。この検査では、染色体の数や形の変化を顕微鏡で確認します。遺伝子関連の基本的な検査で、染色体の数に異常があると考えられる場合、例えばダウン症候群が疑われるときに行われます。
FISH法
染色体の特定の部位を光らせることによって、染色体G分染法ではわからないような微細な欠失を特定する方法です。例えば、22q11.2欠失症候群のような特定の染色体部位の欠失に関連する症状が疑われる場合に実施されます。
染色体マイクロアレイ検査
染色体全体を調べ、微細な欠失や重複を特定する検査です。欧米では、知的障害やASDの原因を探るために、最初に選ばれることが多い検査です*4),5)。日本でも2021年に保険適用になりました。
遺伝子検査
一つ一つの遺伝子の配列を詳細に調べ、異常を検出する方法です。神経発達症に関連する特定の症状がある場合、その症状に合わせた遺伝子を一つまたは複数選んで調べることができます(いくつかの体質については保険適用があります)。原因がはっきりしない場合には、研究目的で全エクソン解析が行われることもあります。

どのような場合に遺伝子の検査が考えられるか

中等度から重度の知的障害では、軽度の場合と比べて遺伝子検査で診断がつく確率が高いとされています*6)。また、他の合併症が見られる場合も、遺伝子が関与している可能性が高く、こうしたケースで遺伝子検査が検討されることが多いです。 欧米ではさらに進んでおり、原因不明の神経発達症がある場合には、全ての患者に対して染色体マイクロアレイ検査を第一選択として行うことが推奨されています*4),5)。日本においても、遺伝子関連検査の重要性は今後ますます高まると考えられます。

遺伝カウンセリングについて

遺伝子検査には様々な種類があり、一般的な検査とは異なる面もあります。検査を受ける前に詳細を知りたい、あるいは検査を受けるかどうかを相談したい場合には、遺伝の専門家(臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー®)に相談する「遺伝カウンセリング」を利用することができます。
遺伝カウンセリングは全国の遺伝子医療部門で受けることができます。

1)Willemsen MH, Kleefstra T. Making headway with genetic diagnostics of intellectual disabilities. Clin Genet. 2014;85(2):101-110.
2)Sánchez-Luquez KY, Carpena MX, Karam SM, Tovo-Rodrigues L. The contribution of whole-exome sequencing to intellectual disability diagnosis and knowledge of underlying molecular mechanisms: A systematic review and meta-analysis. Mutat Res Rev Mutat Res.2022;790:108428.
3)Srivastava S, Love-Nichols JA, Dies KA, et al. Correction:Meta-analysis and multidisciplinary consensus statement: exome sequencing is a first-tier clinical diagnostic test for individuals with neurodevelopmental disorders. Genet Med. 2020;22(10):1731-1732.
4) Hyman SL, Levy SE, Myers SM; COUNCIL ON CHILDREN WITH DISABILITIES, SECTION ON DEVELOPMENTAL AND BEHAVIORAL PEDIATRICS. Identification, Evaluation, and Management of Children With Autism Spectrum Disorder. Pediatrics.
5) Muhle RA, Reed HE, Vo LC, et al. Clinical Diagnostic Genetic Testing for Individuals With Developmental Disorders. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2017;56(11):910-913
6)Savatt JM, Myers SM. Genetic Testing in Neurodevelopmental Disorders. Front Pediatr. 2021;9:526779. Published 2021 Feb 19.

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