脂質研究

炎症収束性/惹起性脂質メディエーターと疾病

炎症反応は本来、外的傷害に対する生体の防御反応ですが、慢性化すると不可逆的な組織障害を引き起こすため、生体にとって適切なタイミングでの炎症収束プロセスが必要です。従来、炎症収束プロセスは、炎症惹起性サイトカイン・脂質メディエーターの産生低下・希釈に伴って「受動的に」進行するプロセスであると捉えられてきましたが、近年、炎症収束プロセスは、特異的な脂質メディエーターによって制御される「能動的な」プロセスであることが明らかになりつつあります。

炎症が収束過程に向かう際、炎症局所の内皮細胞・上皮細胞ならびに循環血液中から集積する血小板・好中球・好塩基球・マクロファージ等が持つ特異的な酵素活性により、高度不飽和脂肪酸を基質として炎症収束性脂質メディエーターが産生されます。このメディエーター群は、リポキシン群・レゾルビン群・プロテクチン群・マレイシン群の4つのファミリーからなり、特異的なG蛋白共役受容体を介して生理作用を発揮し①好中球の遊走・活性化を抑制し、好中球のアポトーシスを促進する②炎症性サイトカインの分泌を伴わないマクロファージの貪食能を高めることで炎症部位に残存するアポトーシス好中球・組織デブリスを除去することが知られています。これらの作用により炎症は能動的に収束へと向かい、生体恒常性が保たれることが分かってきました。疾病における特徴的な脂質メディエータープロファイルを明らかとすることで、新しい視点からの病態の理解と新たな治療戦略の発見に繋げたいと考えています。

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