がん研究

代謝とは

生体内では酵素反応が単独で起こることはほどんどなく、多段階の連続反応に組織化されていています(解糖系など)。経路においては1つの反応の生成物は次の反応の基質となります。さまざまな異なる経路が交差し、統合された目的のある化学反応ネットワークを形成しています。これらをまとめて代謝(metabolism)と呼びます。

生物もそれを構成する細胞も代謝過程を統合して、内因性や外因性のさまざまな要因に応答してこれを調節する必要があります(ホメオスタシス)。ホメオスタシス(homeostasis)の達成および維持には関連する酵素反応がバランスと統制のとれた速度で進行し、かつ内部および外部の環境の変化に適切に応答することが必要です。つまり、ホメオスタシスは代謝調節によって維持されており、これが破綻することに伴い、ある刺激に対して不適切な応答を示すことを病気と定義することができます。したがって、病気を分子レベルで理解するためには、代謝を深く知ることが大切です。

 

がんと代謝

細胞内のエネルギー(ATP)と細胞を構成する材料は主にグルコースから生成されます。グルコースは解糖系によりピルビン酸へ代謝され、ミトコンドリア上でTCA回路を経て酸化的リン酸化によって、グルコースから多くのATPが産出されます。正常細胞は酸化的リン酸化によってエネルギーを得ているのに対し、がん細胞は酸化的リン酸化ではなく好気的解糖によってエネルギーを得ています。酸化的リン酸化と比較してグルコースからATPを産出する能力が著しく低下するにも関わらず、がん細胞は好気的解糖をひたすら行っているのです。この現象をワールブルグ効果(the Warburg effect)と呼びます。

がん細胞は、なぜこのような特別な代謝経路が働いているのでしょうか?ここに、がんを理解するためのヒントがあるに違いありません。質量分析総合センターでは、がん細胞の持つ特徴(例えば高運動能や浸潤性)とがん細胞の代謝の関連性を明らかにしていきます。細胞内のさまざまなシグナル伝達機構との関連性も明らかにしていきます。これらの研究をすることで、代謝の観点からがんの性質を調べています。

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がんと代謝をもう少し知りたい方へ

多数発表されているがんと代謝に関する論文の中で総説をいくつか選びました。ご参考にしてください。

  1. Partick S. Ward and Craig B. Tompson, Cancer Cell 21, 297-308. 2012
  2. Douglas Hanahan and Robert A. Weinberg, Cell 144, 646-674. 2011
  3. Sophia Y. Lunt and Matthew G. Vander Heiden, Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 27, 441-464. 2011
  4. Matthew G. Vander Heiden, Lewis C. Cantley and Craig B. Thompson, Science 324, 1029-1033. 2009

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