研究内容

脊髄性筋萎縮症の遺伝子診断

私たちは脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy;SMA)の遺伝子診断に精力的に取り組んできました。SMAは、Duchenne型筋ジストロフィーと並んでもっとも頻度の高い小児神経筋疾患です。SMAは、脊髄前角細胞の変性・脱落に伴い、体幹・四肢近位部優位の進行性の筋緊張低下・萎縮を生じます。

SMAは発症年令と臨床経過により3つの臨床型に分類されています。1型(Werdnig-Hoffmann病)は生後6ヶ月までに発症する最重症型で、運動能力は自力で座位保持(お座り)するところまで達しません。2型(中間型)は生後18ヶ月までに発症する中等症型で、自力で座位保持は可能ですが、自力で立って歩行する能力を獲得するところまで達しません。3型(Kugelberg-Welander病)は18ヶ月以降に発症する軽症型で、自力で立って歩けます。

大多数のSMAは、常染色体劣性遺伝形式をとります。常染色体劣性遺伝形式をとるSMAの原因遺伝子の一つとして、SMN1遺伝子が有名です。私たちは、1995年以来SMN1遺伝子のことを研究してきました。現在までに100例近いSMA患者の遺伝子診断をおこない、遺伝子変異を明らかにしてきました。およそ90%のSMA患者にSMN1遺伝子欠失が認められました。SMAに対する新しい治療法が臨床応用されるようになった今日、早期診断が重要な意味をもつようになってきています。私たちは本疾患の新生児遺伝子スクリーニング研究を通して、早期診断・早期治療が実施できることを目標としています。

生理活性脂質メディエーターと病態生理

炎症反応は本来、外的傷害に対する生体の防御反応ですが、慢性化すると不可逆的な組織障害を引き起こすため、生体にとって適切なタイミングでの炎症収束プロセスが必要です。従来、炎症収束プロセスは、炎症惹起性サイトカイン・脂質メディエーターの産生低下・希釈に伴って「受動的に」進行するプロセスであると捉えられてきましたが、近年、炎症収束プロセスは、特異的な脂質メディエーターによって制御される「能動的な」プロセスであることが明らかになりつつあります。

炎症が収束過程に向かう際、炎症局所の内皮細胞・上皮細胞ならびに循環血液中から集積する血小板・好中球・好塩基球・マクロファージ等が持つ特異的な酵素活性により、高度不飽和脂肪酸を基質として炎症収束性脂質メディエーターが産生されます。このメディエーター群は、リポキシン群・レゾルビン群・プロテクチン群・マレイシン群の4つのファミリーからなり、特異的なG蛋白共役受容体を介して生理作用を発揮し①好中球の遊走・活性化を抑制し、好中球のアポトーシスを促進する②炎症性サイトカインの分泌を伴わないマクロファージの貪食能を高めることで炎症部位に残存するアポトーシス好中球・組織デブリスを除去することが知られています。これらの作用により炎症は能動的に収束へと向かい、生体恒常性が保たれることが分かってきました。疾病における特徴的な脂質メディエータープロファイルを明らかとすることで、新しい視点からの病態の理解と新たな治療戦略の発見に繋げたいと考えています。