教授からのご挨拶

人類の歴史は太古より感染症との戦いと言って過言でありません。しかし、私が医学部の学生の頃は、抗生剤、抗ウイルス薬、ワクチン療法の発達により感染症はいずれ制圧され、先進国の病気ではなくなるだろうとする楽観的な風潮が存在していました。あれから25年以上が過ぎましたが、感染症は制圧されるどころか、先進国を含めたすべての国々で感染症対策に難渋している現状があります。このように感染症学は古くて新しい学問であるといえるのです。

ウイルスはナノメーター単位のきわめて小さくシンプルな構造からなる病原体ですが、宿主に感染して宿主因子を拝借して巧みにウイルス増殖に有利な環境を構築していきます。ウイルスは増殖していく過程でヒトや様々な動物を急激に死に至らしめたり、長い年月をかけて病原性を発揮し、癌などの重篤な疾患を引き起こしたりします。ウイルス感染症学は核酸や蛋白質などの分子レベルの解析からグローバルレベルの分子疫学解析までの非常に拡がりの大きなダイナミックな研究領域であり、若き研究者が情熱を傾けるに足る魅力的な分野なのです。

現在、私達の研究室では肝炎ウイルス(C型およびB型)の増殖機構および病原性発現機構の解析、ユビキチン-プロテアソーム系の創薬研究、さらにJ-GRID拠点事業として、インドネシアにおける下痢症ウイルス(ノロウイルスやロタウイルス)の分子疫学研究を展開しています。このように「分子レベルからグローバルレベル」の研究を行っておりますので、私達の研究に興味を持って頂いた多くの研究者と共に研究を推進していきたいと考えております。

神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター感染制御学分野 教授  勝二 郁夫

 


 

略歴

1990年3月    神戸大学医学部医学科卒業

1990年-1991年 神戸大学医学部附属病院 研修医(内科)

1991年-1993年 宇和島市立宇和島病院 内科医員

1993年-1998年 国立感染症研究所ウイルス第二部 協力研究員(宮村達男 部長)

1997年3月   京都大学大学院医学研究科卒業 博士(医学)(千葉勉 教授)

1997年-2000年 日本学術振興会特別研究員(PD)

1998年-2002年 Harvard Medical School, Dept. of Pathology(Prof. Peter M. Howley), Research Fellow

2002年-2007年 国立感染症研究所ウイルス第二部第三室 室長

2007年-2009年 神戸大学大学院医学研究科微生物学分野 准教授

2009年‐2015年 神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター微生物学分野 准教授

2015年-現在   神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター感染制御学分野 教授