HOME診療内容豊胸・乳房の形成/脂肪注入による豊胸術

 脂肪注入による豊胸術

先にも述べたように、乳房を大きくするには何かを「足す」必要があります。
当科ではインプラントを第一選択としていますが、脂肪は非常に優れた材料であることは間違いありません。
脂肪注入によって大きくなった乳房は非常に柔らかく、非常に自然です。
一度安定すると、インプラントのようなメンテナンスも不要で、安心して生活できます。

だからと言って安易に行うべき治療ではありません。
きちんと理解して手術をうけてください。

|| 脂肪注入について

人の体で組織を移動させることを「移植」と言います。
「移植」と聞くと、テレビなどでドナー登録を呼びかける臓器移植のCMを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
ドナー登録を呼びかけているのは、亡くなった方から臓器(例えば腎臓など)をいただいて、病気の方に移植する手術です。
脂肪注入も移植手術の一種ですが、他の人から(たとえ肉親でも)頂戴することはできません。ご自身の身体のどこかから脂肪組織を採取して、使用する必要があります。
乳房増大であれば、お腹や太ももから脂肪を採取して、乳房に「移植」するわけです。
その「移植」の手技に、注射器を用いて注入するため「脂肪注入」と呼ばれるのです。

ここで大事なことは、採取された脂肪は血液の流れが途絶しているということです。
血液から酸素や栄養を受け取ることができなくなった脂肪は、死んでしまう(壊死するといいます)のです。壊死した脂肪は、しこりとなり患者さんに大きな苦痛を与えます。
かつてこのような脂肪移植によって、たくさんの患者さんに合併症による苦痛を与えたことから、米国の形成外科学会では乳房への脂肪移植を禁止した時期もあるのです。
幸い、その後安全な脂肪注入の方法が発見されました。さらには再生医療の概念の導入により、脂肪を用いた手術は大きな盛り上がりをみせています。
特に美容外科の世界では「再生医療」の言葉が独り歩きしている感があります。脂肪組織が生着する過程で、脂肪由来の幹細胞が関与しますから「脂肪を用いた再生医療による豊胸術」という宣伝文句は、すべてが間違っているわけではありませんが、誤解を招く表現です。

大事なことなので繰り返します。脂肪注入はきちんとした手技を用いて行えば非常に優れた方法ですが、そうでない場合にはひどい合併症を生じて患者さんを苦しめる危険性がある方法なのです。

脂肪注入の実際は?

手術前
脂肪注入第一段階
脂肪注入第2段階
脂肪注入最終段階

図1:手術前
図2:脂肪注入第一段階
図3:脂肪注入第二段階
図4:脂肪注入最終段階

(※クリックで拡大)

1)脂肪の採取
太ももや、腹部から脂肪を採取してきます。
皮膚を5mm程度切開し、そこから先を丸めた金属製の管(カニューレ)を差し込んで、脂肪を吸引します。イメージとしては、固めのゼリーをストローで吸いだすような感じです。もちろん脂肪組織はゼリーよりも固いですし、周りと結びついているので、決して簡単な手技ではありません。

2)脂肪の処理
吸引した中には、脂肪だけでなく、血液や麻酔の液などがたくさん混じっていますので、これらを除去する処理が必要です。いろいろな方法があるのですが、当科では遠心分離機にかけて、純度の高い脂肪を取り出しています。

3)脂肪の注入
いよいよ脂肪を注入していきますが、これもいろいろな方法があります。
当科では一番基本通りに、脂肪を細い注射器に分けて、先が丸くなった特別な針を用いて、少量ずつ注入していく方法を行っています(図1〜4)
非常に手間のかかる作業ですが、ここで手間を惜しまないことが非常に重要です。
細い針を使っているので、注入部位には針穴だけで、切開は必要ありません。

4)術後の管理
脂肪が生着するまでは安静が必要です。
組織の腫れを抑えて、生着するまでの環境を整えるために、軽く冷やすことをお勧めしています。
高い圧力は、脂肪の壊死する原因となるので、特別な圧迫固定は行いません。
マッサージも不必要です。

安全な脂肪注入と、危険な脂肪注入の違いは?

手術前
脂肪注入第一段階
脂肪注入第2段階
脂肪注入最終段階

図1:手術前
図2:脂肪注入第一段階
図3:脂肪注入第二段階
図4:脂肪注入最終段階

(※クリックで拡大)

安全な脂肪注入と、危険な脂肪注入の違いは、その注入法にあります。
安全な脂肪注入とは、丁寧に少しずつ注入することです(図1〜4)
逆に危険な脂肪注入とは、乱暴に一気に注入することです。

安全な注入のためには細い針で少しずつ注入することが重要です。
細い針で注入すると、脂肪は素麺のような細い状態で体内に注入されていきます。洋菓子のモンブランの黄色いクリームにも似ています。
その細い麺のような脂肪を、一本一本慎重に注入していくのです。
一本の体積は0.5ml程度と言われていますので一本の細い麺では乳房の大きさは変わりません。これを横に並べ、少しずつ積み重ねていくのです。お菓子のミルフィーユのようなイメージと言えます(図1〜4)
これは大変根気のいる作業です。もし200mlの脂肪を注入しようとしたら、400回も注入作業を繰り返す必要があるのです。
根気だけでなく、時間もかかります。たくさんの患者さんを流れ作業のように、こなすことは決してできないのです。

乱暴に注入するとどうなるのでしょうか?
乱暴に注入された脂肪は、体内で細い麺ではなく、塊状になります。塊となった脂肪は、表面は周囲の組織と接していますが、その表面以外の大部分は生着することはありません。つまり壊死してしまうのです。
壊死した脂肪はオイル状となり、しこりとなります。そのしこりは血液が通っておらず、石のように固く、時には感染を生じることさえあります。
取り除くには手術しかない場合もあります。多くの場合、手術は皮膚を切開することになりますし、壊死した脂肪の塊が一つではない場合には、切開もたくさん必要です。
せっかく小さな傷で済むはずの脂肪注入の手術が、大きな傷と、変形だけを残す結果になりかねないのです。

患者さんはどうすべきでしょうか?
安易に脂肪注入を受けることはおすすめできません。
しっかりと担当の先生の説明を聞き、脂肪注入について理解し、「この先生なら信頼できる」と判断できてから、手術を受けることをお勧めします。

脂肪注入の問題点と合併症

1)痩せている方には不向きです

ご自身の脂肪を採取する必要があります。痩せている方は、採取できる脂肪の量に限りがあるので、脂肪注入は不向きです。
他の方法(具体的にはインプラント)をお勧めするかもしれません。

2)一度に注入できる量に限りがある

豊胸術を脂肪注入で行う場合、どこに注入するか?が問題になります。
乳房の皮膚直下にある脂肪の層と、大胸筋の層に注入するのが理想ですが、豊胸術を希望される患者さんはもともと乳房が小さめのことが多く、脂肪も少なめです。そうなると注入する部位がないということになります。
だからと言って狭い範囲に無理やりたくさん注入すると、その部分の圧力が高くなり、生着率が低下してしまうというジレンマを抱えているのです。

乳腺の中に注入するのは簡単ですが、乳腺の中に注入された脂肪は、乳がんと間違われることがあり、乳がん検診の邪魔になる可能性があります(これは乳がんを見逃すわけではなく、乳がんではないものを乳がんと診断してしまうため、問題ないとする意見もあります)。
また授乳の妨げになる可能性も否定できません。

3)複数回の手術を必要とすることがある

一度に注入できる量に限りがあるということは、満足していただくためには手術を分けて行う必要があるということになります。

4)注入した脂肪がすべて生着するわけではない

注入した脂肪がすべて生着するわけではありません。正確な生着率はデータがないので説明はできないのですが、当科では「約半分程度が目安です」とお伝えしています。

5)しこりや異常石灰化の可能性がある

もし注入した脂肪が壊死した場合には、しこり(硬結)として残存することがあります。
そのしこりの周りには、卵の殻のような石灰化が生じることもあります。そしてその石灰化は非常に分厚くなることもあります。
しこりを生じない場合にも、細かな石灰化が生じることは珍しくありません。細かな石灰化程度であれば、生活上問題にならないのですが、乳がん検診でマンモグラフィーを行うと、石灰化が写ってきます。それは乳がんと見間違われてしまう可能性があります。

6)感染のリスク

小さな傷しか残らない脂肪注入ですが、手術ですので感染のリスクはあります。

さいごに

いかがでしょうか?脂肪注入についてご理解いただけたでしょうか?
神戸大学美容外科ではコンデンスリッチ法という、脂肪組織の濃縮を助け、幹細胞の密度を上げる方法を選択することも可能です。
もしご興味ある方は相談にいらしてください。

(文責:神戸大学病院美容外科診療科長 原岡剛一)

   « «『シリコンインプラントによる豊胸術』のページへ        
      『乳房縮小』のページへ   » »

Page Top