これまでの厚生労働研究成果

サイトメガロウイルス母子感染対策を目的とし、厚生労働科学研究費補助金成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業として二つの研究が実施され、以下のことが明らかとなった。

Ⅰ.「全新生児を対象とした先天性サイトメガロウイルス感染スクリーニング体制の構築に向けたパイロット調査と感染児臨床像の解析エビデンスに基づく治療指針の基盤策定」平成20~22年度(研究代表者 故藤枝憲二、3年目古谷野伸)1, 2)の成果を以下にまとめる。

1)全国25施設の約23,405人を対象とした,ろ紙尿による新生児スクリーニングによって、71人の先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染が同定された。日本における先天性CMV感染の発生頻度は0.31%で、新生児1/300人が先天性感染を起こしていた。地域差はなかった(図1)。
2)感染児の24%が新生児期に典型的な臨床所見を呈し、加えて9%が頭部画像にのみ異常が見られた。したがって、新生児1/1000人が症候性先天性感染児であった。この頻度は、代表的な代謝異常疾患であるクレチン症1/3000人や先天性副腎過形成1/15、000人に比べて高く、ダウン症に匹敵するものである。
3)71人の先天性CMV感染児の血清CMV IgM検査では、47%が陽性であった。先天性感染児の約半数が血清CMV IgM陰性であった。
4)ろ紙尿法はろ紙血法に比べてCMV DNA検出感度が高かった。ろ紙血法ではろ紙尿陽性の25%が検出されなかった。
5)先天性感染児の64%に兄弟(同胞)がいた。感染児と兄弟のウイルス株が85%で一致した。主要感染ルートは、子(同胞)が尿・唾液などに排泄するウイルスの母親(妊婦)への初感染であった。
6)症候性の先天性感染児では胎児発育不全が30%に見られ、無症候性児や正常コントロールに比べて頻度が高かった。
7)症候性児では無症候性児に比べて血中ウイルス量が多かった。
8)症候性児にvalganciclovirないしganciclovir治療をスクリーニング同定児以外を含めて24人に実施した。難聴改善が8/18人、脳室拡大・脳内石灰化の改善は2/14人、網脈絡膜炎の改善は3/3人に認められた。
9)ほとんどの妊婦は、CMVについての知識を持たない。
10)クリニックないし市立病院(一次病院)において、妊婦に感染予防の教育・啓発をしている施設での先天性CMV感染発生率0.20%は、感染予防教育・啓発をしていない施設の発生率0.27%より低かった。しかし、有意差は無い。

図1 地域毎の先天性サイトメガロウイルス感染の発生頻度



Ⅱ. 「先天性サイトメガロウイルス感染症対策のための妊婦教育の効果の検討、妊婦・新生児スクリーニング体制の構築及び感染新生児の発症リスク同定に関する研究」平成23~24年度(研究代表者 山田秀人)3)、の成果を以下にまとめる。

1)妊婦343人に対して、母子感染とその予防に関する知識調査を行った。母子感染を起こす13病原微生物のうち、胎児に影響を及ぼす感染症として認識があったのは、TORCHの中では風疹 76%、梅毒 69%、トキソプラズマ 58%、パルボウイルB19 28%、単純ヘルペス 27%、CMV 18%の順であった(図2)。CMVは最も認知度が低く、妊婦の5%しか感染予防法を知らなかった4)
2)CMV IgG, IgG avidity(AI)測定による妊婦スクリーニングを1154人に実施した。307人(27%)がIgG陰性で、うち4人(全体の0.35%、陰性者の1.3%)が妊娠後期に陽性化した。IgG AI 45%以下の初感染疑いは52人(4.5%)であった。先天性感染児は、再活性化による2人および初感染(AI低値とIgG陽性化)による2人、計4人(発生率0.35%)であった。うち症候性児はAI低値初感染の1人であり、IgGとIgG AIによるスクリーニングは、症候性感染の同定に有用であった。
3)先天性感染ハイリスク群であるCMV IgM陽性妊婦50人において、先天性感染の出生前予知因子を多変量解析した結果、母体IgG AI低値(OR 0.91, 95%CI 0.83-0.99)ならびに胎児超音波異常(OR 291, 95%CI 2.7-31125)は、独立したリスク因子であることを初めて明らかにした5)
4)新生児3944人のCMV尿スクリーニング検査を行い、11人(0.28%)の先天性CMV感染児を新たに同定した。ろ紙尿スクリーニングの有用性を再確認した。
5)先天性感染児の発症リスクに関して、出生時の脳室拡大は聴覚異常発生に関連することを明らかにした6)。TLR-2遺伝子多型は先天性感染のリスク因子であり、またNK受容体NKG2D遺伝子rs2255336 GG型は症候性児に多く、宿主側要因としての自然免疫との関連を初めて明らかにした7)
6)新生児尿スクリーニングで診断され、感染児コホートとして2歳以上のフォローが完了した62人(症候性17人、無症候性45人)の予後を検討した。
 症候性児17人のうち、抗ウイルス薬治療をしなかった7人では、正常発達が0人(0%)、片側難聴のみが3人(43%)で、4人(57%)に死亡/中~高度障害を残した。一方、抗ウイルス薬治療を行った10人では、正常発達3人(30%)、片側難聴のみが3人(30%)、4人(40%)が死亡/中~高度障害であった。抗ウイルス薬治療群に正常発達が多い傾向(p=0.18)を認めた。
 無症候性児45人のうち、正常発達を遂げていたのは40人(89%)で、5人(11%)に異常があった。内訳は、遅発性片側難聴1人、自閉症1人、注意欠陥多動性障害1人、言語発達遅延2人であった。発達障害の原因に先天性CMV感染が関与している可能性がある。
7)全国産科施設を対象にしたアンケート調査では、妊婦健診における感染スクリーニングとして、風疹、梅毒、HIV、HTLV-1、HBV、HCVは99%以上の実施率であったのに対し、CMV(4.5%)とトキソプラズマ(48.5%)の実施率は低かった。
8)この全国調査の結果、2011年には先天性CMV感染として、中絶3人(ほか不確定1人)、流産0人(3人)、死産2人(1人)、分娩29人(3人)が報告された。多くの先天性CMV感染児、特に軽症の症候性や無症候性の先天性感染児が出生時に見逃されている現状を明らかにした。
9)CMVの妊婦感染予防のためのパンフレットを作成した。また、感染予防啓発と医師のためにホームページを開設した。

図2 妊婦の先天性感染の知識調査:胎児に影響を及ぼす感染症として知っていますか?(n=343)



参考文献
1. Koyano S, Inoue N, Oka A, Moriuchi H, Asano K, Ito Y, Yamada H, Yoshikawa T, Suzutani T, for the Japanese Congenital Cytomegalovirus Study Group. Screening for congenital cytomegalovirus infection using newborn urine samples collected on filter paper: Feasibility and outcomes from a multi-centre study. BMJ Open 2011;doi:10.1136/bmjopen-2011-000118
http://bmjopen.bmj.com/content/1/1/e000118

2. 古谷野伸(代表研究者).全新生児を対象とした先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染スクリーニング体制の構築に向けたパイロット調査と感染児臨床像の解析エビデンスに基づく治療指針の基盤策定.厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)平成20~22年度総合研究報告書,pp1-188,2011
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIST00.doよりダウンロード可能)

3.山田秀人(研究代表者).先天性サイトメガロウイルス感染症対策のための妊婦教育の効果の検討,妊婦・新生児スクリーニング体制の構築及び感染新生児の発症リスク同定に関する研究.厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)平成23~24年度総合研究報告書,pp1-201,2013
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIST00.doよりダウンロード可能)

4.Morioka I, Sonoyama A, Tairaku S, Ebina Y, Nagamata T, Morizane M, Tanimura K, Iijima K, Yamada H. Awareness of and knowledge about mother-to-child infections in Japanese pregnant women. Congenital Anomalies, in press

5.Sonoyama A, Ebina Y, Morioka I, Tanimura K, Morizane M, Minematsu T, Inoue N, Yamada H. Low IgG avidity and ultrasound fetal abnormality were predictive of congenital cytomegalovirus infection. J Med Virol 84, 1928-1933, 2012

6. Matsuo K, Morioka I, Oda M, Kobayashi Y, Nakamachi Y, Kawano S, Nagasaka M, Koda T, Yokota T, Morikawa S, Miwa A, Shibata A, Minematsu T, Inoue N, Yamada H, Iijima K. Quantitative evaluation of ventricular dilatation using computed tomography in infants with congenital cytomegalovirus infection. Brain Dev, in press

7. Taniguchi R, Koyano S, Suzutani T, Goishi K, Ito Y, Morioka I, Oka A, Nakamura H, Yamada H, Igarashi T, Inoue N. Polymorphisms in TLR-2 are associated with congenital cytomegalovirus (CMV) infection, but not with congenital CMV disease. Int J Infect Dis, in press.

全国産科施設を対象とした妊婦感染症スクリーニングと先天性感染の実態調査

【研究要旨】
 全国調査では妊婦健診において風疹、梅毒、HIV、HTLV-1、HBV、HCVの感染スクリーニングについては99%以上の実施率であったのに対し、CMV(4.5%)とトキソプラズマ(48.5%)のスクリーニング実施率は低かった。
 2011年には先天性CMV感染として、中絶3人(ほか不確定1人)、流産0人(3人)、死産2人(1人)、分娩29人(3人)が報告された。多くの先天性感染児、特に軽症の症候性や無症候性の先天性感染児が出生時に見逃されている現状が明らかとなった。妊婦スクリーニングを実施している施設からの先天性CMV感染報告数が有意に多かった。
 予想される先天性感染数に比べて、CMVやトキソプラズマの症例が少ない理由として、母子感染予防対策や検査・診断法が確立されていないため、未診断例が多いと推察される。
 先天性パルボウイルスB19感染数は予想以上に多く、流行時には流産や死産の原因となっている可能性がある。

研究目的
 日本における妊婦健診時の感染症スクリーニングの実施状況、およびTORCHを含めた母子感染の実態を明らかにすることを目的とした。

研究方法
 アンケートによる調査方式で、対象は全国 2,714の妊婦健診施設とした。その施設において、2011年1月~12月の期間に経験した症例を調査の対象とした。2012年7月までに一次アンケート調査を行い、その結果を2012年9月付けでまとめた。調査にあたり倫理委員会の承認を受けた。
 一次アンケートの調査内容は、①施設の2011年総分娩数、施設規模(NICUの有無,病床数)。②感染症スクリーニング実施の有無、測定方法と回数。③ CMV・トキソプラズマ・風疹・梅毒・単純ヘルペス/新生児ヘルペス・パルボウイルスB19による人工妊娠中絶(中絶)、流産、死産、分娩の症例数とした。調査での流産と死産は、妊娠22週未満、妊娠22週以降の子宮内胎児死亡とそれぞれ定義した。流死産等では、確定診断検査(病理,核酸検査など)を実施していないケースも考慮して、疑い例も含めて調べた。
 一次アンケートで症例の報告があった施設を対象に二次アンケート調査を2012年7月~2013年5月まで実施し、症例の正確さ、臨床的背景、検査・診断法の問題点等を調べた。先天性感染の診断確定例と不確定例に分類した。

研究結果と考察
1)回収率、施設規模、総分娩数
 2,714施設のうち、1,990施設より回答を回収させていただいたが、閉鎖となっていた施設や妊婦健診を行っていない施設が13施設あった。アンケート回収率は、73.7%であった。施設規模としては,総合病院NICU有り302施設(15.2%)、総合病院NICU無し455施設(22.9%)、産婦人科病院20床以上107施設(5.4%)、クリニック・診療所19床以下1,126施設(56.6%)の内訳であった。アンケート回収施設(当該設問に無回答28施設)での2011年総分娩数は約788,673分娩であった。アンケート回収率に大きな地域差はなかった。
2)感染症スクリーニングの実施状況
 に妊婦健診における感染症スクリーニング実施率を示す。「全例で実施している」と回答があったのは、風疹、梅毒、HIV、HTLV-1、HBV,HCVが99%以上であるのに対し、トキソプラズマ48.5%で、CMVは4.5%であった。風疹スクリーニングを実施していない施設が一部に認められた。

表1 妊婦健診における感染症スクリーニング実施率(2011年)
感染症 全員に実施 希望者にのみ
実施
実施していない 回答なし 実施率
(%)
CMV抗体 90 15 1,879 6 4.5
トキソプラズマ抗体 962 59 961 8 48.5
風疹抗体 1,951 4 12 23 99.2
梅毒抗体 1,966 2 0 22 99.9
HIV抗体 1,962 2 4 22 99.7
HTLV-1抗体 1,964 1 3 22 99.8
HBs抗体 1,967 1 0 22 99.9
HCV抗体 1,964 0 4 22 99.8


また、トキソプラズマのスクリーニング実施率については都道府県により大きな差があった(図1)。

 図1 トキソプラズマの都道府県別スクリーニング実施率(%)
トキソプラズマの都道府県別の妊婦スクリーニング実施率(%)

 CMVとトキソプラズマに関しては、測定の検査方法と回数について調査を行った。CMVについて、スクリーニングを行っている90施設中、検査方法はCF(補体結合反応)26(28.9%)、IgG+IgM 20(22.2%)、IgG単独20(22.2%)、IgM単独 5(5.6%)の順であった(当該設問に未回答19施設21.1%)。測定回数は、1回75(83.3%)、2回6(6.7%)、3回2(2.2%)であった(未回答7施設7.8%)。
 トキソプラズマは、スクリーニングを行っている962施設中、検査方法はHA(赤血球凝集反応)758(78.8%)、IgG 85(8.8%)、LA(ラテックス凝集法)21(2.2%)、HA+IgM 19(2.0%)であった(未回答79施設8.2%)。測定回数は、1回789(82.0%)、2回12(1.3%)、3回2(0.2%)であった(未回答159施設16.5%)。
 妊婦の抗体陰性者はおよそCMVで30%、トキソプラズマは95%とされる。これらの感染症に対して、妊娠初期1回のみの測定施設が圧倒的に多く、抗体陰性者の妊娠中の抗体陽性化はほとんど調べられていない現状が判明した。

3)一次アンケート調査による先天感染の報告症例数
 2011年1年間で産科施設を対象にした一次アンケート調査(疑い例も含む)の結果を表2に示す。CMVとトキソプラズマの先天性感染数は、妊婦スクリーニングを実施している施設からの報告数が、非実施施設からの報告数に比べて有意に多かった(p<0.00001)。

表2 先天性感染の一次アンケート調査による報告症例数(2011年)
先天性感染症 中絶 流産 死産 分娩
先天性CMV感染 5 3 3 58
先天性トキソプラズマ感染 2 1 1 72
先天性風疹感染 4 0 2 18
先天性梅毒感染 1 0 0 21
先天性ヘルペス感染/新生児ヘルペス 0 0 1 21
先天性パルボウイルスB19感染 4 48 28 146
疑い例も含む。


表3 先天性感染の二次アンケート調査による先天性感染数(2011年)
先天性感染症 中絶 流産 死産 分娩
先天性CMV感染 3(1) 0(3) 2(1) 29(3)
先天性トキソプラズマ感染 0(2) 0(0) 0(1) 1(13)
先天性風疹感染 1(1) 0(0) 0(0) 2(3)
先天性梅毒感染 0(0) 0(0) 0(0) 5(5)
先天性ヘルペス感染/新生児ヘルペス 0(0) 0(0) 1(0) 7(1)
先天性パルボウイルスB19感染 3(1) 35(13) 14(0) 17(63)
 確定数および不確定数(括弧内)を示す。不確定とは、母体感染は確定的だが児や胎児付属物の検査等が
 不適切、不十分のため先天性感染の有無を確定できない症例。


4)二次アンケート調査による先天性感染のまとめ
 一次アンケートで報告された全症例に対して、2013年5月に二次調査が100%完了した。回収した二次アンケート調査用紙、電話等による問い合わせにより症例の臨床症状および検査結果の情報を収集・分析して、最終的に先天性感染あり、および不確定と判定した数を表3に示す。母体感染は確定的だが児・胎児付属物の検査等が不適切、不十分のため先天性感染と確定できない症例数を別に括弧内に不確定として表示した。

A. サイトメガロウイルス
① 2011年には先天性CMV感染として、中絶3人(ほか不確定1人)、流産0人(3人)、死産2人(1人)、分娩29人(3人)が報告された。
 先天性感染の出生児29人中、症候性25人(86.2%)で無症候性は4人(13.8%)であった。疫学的報告と異なって症候性の割合が多かった。症候性25人の症状の内訳は、中枢神経系症状が3人、中枢神経系外症状が6人、両方の症状が16人であった。中枢神経系症状だけを示す症例は症候性の3/25(12%)と少なく、両方の症状を示す重症例が16/25(64%)で多かった。症候性感染児25人中、症状不明の5人を除き、15/20人(75%)が中~高度障害13人および死亡2人の報告であった。1人が軽症の障害(片側難聴のみ)、4人が障害なしであった。
② 無症候性出生児4人のうち、1人は32週早産が契機で児IgM陽性が判明。残り3人は、新生児尿スクリーニング(1人)ないし妊婦抗体スクリーニング(2人)が契機で先天性感染が診断されていた。
③ 分娩後の新生児検査により初めてCMV先天性感染が判明したのが10人であった。契機は、頭蓋内病変(脳室拡大、脳内石灰化)6人(4人にFGR、2人に肝脾腫あり)、血小板減少や点状出血3人、新生児尿スクリーニング1人であった。このような症状が出生児に有る場合には、CMV感染精査が必要である。
④ 先天性感染34人中、CMV感染を疑う契機となったのは、超音波胎児異常18人(52.9%)、妊婦抗体スクリーニングの結果5人(14.7%)の順であった。超音波検査で胎児異常がある場合には、CMV母子感染を念頭に精査を行う必要がある。
⑤ 妊婦抗体スクリーニングを施行している施設からの先天性感染数が、非実施施設からの数に比べて有意( p<0.00001)に多かった。
⑥ 母体IgM検査が実施されていない11人を除く23人中、17人(73.9%)で母体初感染 [IgM陽性、Avidity Index(AI)低値、IgG陽性化など] が推定された。残り6人(26.1%)(IgM陽性AI高値2人、IgM陰性4人)は、再活性化や再感染によると推定した。
⑦ 先天性感染「分娩」の新生児29人中、尿CMV PCRやウイルス培養が実施されていたのは21人(72.4%)であった。残りは他の検査で確定診断されていた。先天性感染診断のための新生児尿CMV検査が、27.6%で実施されていなかった。
⑧ 先天性感染出生児29人のうち新生児治療として、抗ウイルス薬(バルガンシクロビル、ガンシクロビル、ホスカルネット)治療ありは17人であった。抗ウイルス薬以外では、免疫グロブリン単独療法が3人いた。新生児治療として抗ウイルス薬治療が広く行われている現状が明らかとなった。
⑨ 先天性感染(n=34)の同胞有りの率は52.9%であった。
⑩ 先天性CMV感染の頻度は新生児300人に1人で症候性は新生児1,000人に1人で出生し、無症候性児数は症候性児の約3~5倍とされている。多くの先天性感染児、特に軽症の症候性や無症候性の先天性感染児が出生時に見逃されている現状が明らかとなった。
⑪ 先天性感染、特に無症候性の同定には、新生児ないし妊婦抗体スクリーニングが有用である可能性がある。超音波検査で胎児異常がある場合には、CMV母子感染を念頭に精査を行う。

B. トキソプラズマ
① 先天性感染「分娩」と判定されたのは1人のみであった。出生児IgM陰性、臍帯と臍帯血PCR陽性で不顕性感染と診断された。IgM陰性でも先天性感染は否定できない。
② 母体トキソプラズマIgM陽性でトキソプラズマ感染が疑われた38人(感染確定1、不確定13、感染なし24人)では、AI測定は19/38人(50.0%)、羊水PCR検査は5/38人(13.2%)で実施されていた。38人の出生児検査としてIgM検査が24/38人(63.2%)で実施されていた。しかし、13人は児IgM検査のみならず、PCR検査や病理検査もなされておらず「不確定」と判定した。1人(2.6%)のみ血液PCR検査だけ実施され、陰性のため「感染無し」と判定した。児IgM検査が24/38人(63.2%)で実施されていたが、児PCR検査2/38人(5.3%)、眼底検査1/38人(2.6%)、頭部CT 1/38人(2.6%)および胎盤病理検査1/38人(2.6%)の実施率が非常に低いことが明らかとなった。
③ トキソプラズマ感染が疑われた38人中29人(76.3%)でアセチルスピラマイシン(AcSPM)治療がなされていた。19/38人(50.0%)はAIを参考に治療をするか否かを決めていた。2/38人(5.3%)はAI測定も無く治療もしていなかった。AcSPMは標準的治療法であるが、AI値も参考にせず、治療を行っていないケースがあった。
④ 感染リスク因子について、不明と未記入の18人を除いた20人中、生や加熱不十分の肉摂取が5人(25.0%)、土いじり2人(10.0%)、猫1人(5.0%)の頻度であった。「生や加熱不十分の肉摂取」の頻度が多かった。
⑤ トキソプラズマ妊婦スクリーニングの実施による中絶数の増加は,他の感染症と比べても認められなかった。
⑥ 先天性感染が疑われるにも拘らず、出生児の検査が適切かつ十分にされていない現状が明らかとなった。AIおよびPCR検査が保険適用になっていない、妊婦スクリーニングと出生児検査指針が普及していないためと推察した。
⑦ 推定では、先天性トキソプラズマ感染は136~339人/110万出生とされる。今回の調査結果はそれと比較すると明らかな少ない。理由として、妊婦スクリーニングの非実施、出生児検査が適切かつ十分にはなされていない、生後1歳時の不顕性感染児の診断(血液IgGやIgM陽性)が今回の調査では含まれていない、などが推察される。母体IgM陽性であっても、児IgMやPCR検査、眼底検査、頭部画像検査が実施されていないために、不顕性感染や軽度の症候性感染児が見逃されているであろう。

C. 風疹
① 無症候性の先天性風疹感染(CRI)が2人確認され、再感染1人と初感染1人(SGA)であった。児血清IgM陽性で診断され、PCR検査はされていなかった。2人とも無症状であった。国立感染症研究所2011年では、先天風疹症候群 (CRS) が1人報告されているが、今回の調査では協力が得られなかった。
② 中絶1人はペア血清で初感染と診断され、羊水PCRは陽性であった。死産1人も有症状でペア血清にて初感染と診断され、26週で胎児死亡となり、PCR検査・ウイルス培養にて児の風疹感染が確認された。
③ 母体IgM陽性なのに出生児の検査がなされていないため、3人を「不確定」とした。
④ PCRやウイルス培養検査は死産や中絶症例の児の診断検査 (羊水検査を含む) としてのみ用いられていた。分娩感染なし4人の診断検査には、血清IgM検査しか用いられていなかった。
⑤ 母体IgM陽性で母体風疹感染が疑われるにも拘らず、出生児の検査が適切に行われていないケースがあった。PCR検査は、出生児の診断検査に実施されていない現状が明らかとなった。

D. 梅毒
① 先天性感染5人のうち、4人は、新生児TPHA-IgMないしFTA-ABS IgM検査陽性により診断された。残る1例は、TPHA陽性、RPR陽性および肝脾腫ありで診断されていた。3人に症状があり、SGA児が1人、肝脾腫2人であった。新生児ペニシリン治療は4人で行われ、1人は無症状のため無治療であった。1人は未受診妊婦であった。
② 「不確定」の5人とも母体活動性感染があり、母体のペニシリンまたはアセチルスピラマイシン治療を受けた。しかし、児血清学的検査や精査がされていなかった。この新生児うち、2人がペニシリン治療を受けた。
③ 母体活動性感染があるのに出生児検査がされていないケースがあった。新生児感染が確認されたが、治療がされていない1人がいた。適切に検査、診断および治療を行う必要がある。

E. 単純ヘルペス
① 先天性感染分娩(全て新生児ヘルペス)7人のうち、1人初感染 (外陰症状なし・乳房症状あり;血清IgG陰性・IgM陽性、抗原検査なし)、1人抗原陽性、5人はIgMや抗原は検査していなかった。7人中6人は母体の外陰症状が分娩時点では明らかではなく、新生児ヘルペスの発症により母子感染が明らかとなった。新生児ヘルペスはいずれも生後3~5日で発症し、全身型4人、皮膚型(表在型)3人、中枢型0人であった。児感染の確定診断として、ウイルスDNA検出が5人、児IgM検査は2人に行われていた。
② 帝切1人(外陰症状有り)、経腟分娩6人(外陰症状無し。1人は産褥期に症状出現、初感染は乳房の皮疹のみ)であった。帝切1人は皮膚型で母児ともにアシクロビル投与で軽快した。経腟分娩6人中、全身型4人(うち2人死亡)、皮膚型2人で、生存3人はアシクロビル治療を受けた。1人は新生児搬送のため詳細不明。
③ 妊娠24週死産1人は母体IgM陽性より初感染とされ、死産児血清IgMは陽性であった。「不確定」分娩の1人は、母体にヘルペス症状があり予防帝切をしたが、児検査がされていなかった。
④ 予防帝切でも新生児ヘルペス発症が1人いた。新生児ヘルペス6人は分娩時点では外陰症状がなかった。したがって、新生児ヘルペスの多くは、出生前に母体に外陰症状がなく予測できていなかったことが明らかとなった。母体のヘルペス感染、特に再燃例は症状が軽く、見逃されやすい可能性があり、新生児ヘルペス発症により初めて母子感染が確認される例が多いことが分かった。
⑤ 多くの症例で母体血IgG, IgM測定がなされていないため、初感染か再燃か判断できなかった。報告症例での母体検査は抗原検査が多く、より感度の高いDNA検査の実施例はなかった。
⑥ 近年、新生児ヘルペスの発生が減少している、ないし産科施設での調査のため、遅れて発症した症例が見逃されている可能性がある。

F. パルボウイルスB19
① 2011年の先天性パルボウイルスB19感染は、69人であった。このうち、分娩17人では、児IgMは10人、PCR(羊水、血液ないし胎盤組織)が4人で実施され先天性感染が検査で確定診断されていたが、17人中7人でこれら検査は実施されていなかったが、貧血や胎児水腫の症状ありで確定と判断した。
 他にIgM陽性で母体感染が疑われていたが、児所見が無いために63人がIgMやPCR検査が行われておらず、今回の調査では先天性感染の有無は「不確定」と判定した。感染無しと判断された14人中13人は児IgM陰性であり、14人中2人のみPCR陰性が確認されていた。
② 先天性感染あり69人のうち49人(71.0%)が流死産の妊娠帰結であった。パルボウイルスB19の母体感染は、流死産の原因となっているであろう。
③ 先天性感染あり69人のうち58人(87.1%)が経産婦であった。高率であり、同胞の存在が母子感染に関与するかもしれない。この69人中37人(54%)で家族ないし同僚(1人のみ)に伝染性紅斑の症状があった。 69人中34人(49.3%)は母体の伝染性紅斑症状がなかった。しかし、この34人中21人で家族ないし同僚(1人のみ)の伝染性紅斑症状を認めていた。周囲に発症者が居る場合には母子感染に注意が必要である。
④ 症状発現時期が明らかな27人中、16人(59.2%)は10週~15週未満に感染症状が出現していた。母体症状が10週未満に出現した場合には、症候性感染が100%、10~20週未満で60~70%、20週~25週で50%、母体症状が30週以降に出現した例では症候性の先天性感染の発生を認めなかった。母体症状出現の週数が早いほど、症候性感染の割合が多い。妊娠8週~20週は肝造血期前半に相当し、赤血球半減期が妊娠後半期の骨髄造血期における赤血球半減期と比較して短いことが一因となっていると考えられる。
⑤ 胎児水腫、腔水症、胎児貧血、心拡大が超音波異常として多かった。症候性児55人および一過性に胎児超音波異常が出現した児10人の計65人の解析では、症状出現時期は妊娠10~26週であった。それ以降の胎児超音波異常の初発出現はなかった。
 母体症状出現時期が特定され、かつ胎児超音波異常を認めた24人では、症状出現から超音波異常出現までの期間は、中央値3.5週で範囲1~9週間であった。
⑥ 11人に胎児治療が行われた。胎児輸血単独9人、胎児輸血+胎児腹腔内グロブリン投与1人、胎児輸血+胎児腹腔内グロブリン投与+母体静脈内グロブリン投与1人、であった。胎児輸血単独療法のうち3人が無症候性先天性感染で出生した。それ以外の8人は、流死産に至った。
⑦ 先天性感染の有無を診断するための児IgM検査が適切になされていない現状が明らかとなった。また、PCR検査は保険適用となっていないため、診断検査として実施されたのはごく一部であった。適切な児IgM検査の実施とPCR検査の体外診断薬としての保険適用化の必要性が明らかとなった。
⑧ 国立感染症研究所情報センターの感染症発生動向調査によると,伝染性紅斑は2007年と2011年に流行があった。我々の調査でも2011年のパルボウイルスB19先天性感染数は予想以上に多かった。流行時にはパルボウイルスB19母子感染が、流産や死産の原因となっている可能性がある。


結論
1. 妊婦健診における風疹、梅毒、HIV、HTLV-1、HBV、HCVの感染スクリーニング実施率は、99%以上であった。CMV(4.5%)、トキソプラズマ(48.5%)の実施率は低かった。
2. 2011年には先天性CMV感染として、中絶3人(ほか不確定1人)、流産0人(3人)、死産2人(1人)、分娩29人(3人)が報告された。多くの先天性感染児、特に軽症の症候性や無症候性の先天性感染児が出生時に見逃されている現状が明らかとなった。妊婦スクリーニングを実施している施設からの先天性感染報告数が有意に多かった。
3. 予想される先天性感染数に比べて、CMVやトキソプラズマの症例が少ない理由として、母子感染予防対策や検査・診断法が確立されていないため、未診断例が多いと推察される。
4. 先天性パルボウイルスB19感染数は予想以上に多く、流行時には流産や死産の原因となっている可能性がある。

謝辞
 日常診療でご多忙の中、アンケート調査にご協力賜りました全国産科施設の皆様、ご支援いただきました学会および医会の関係各位,目標に向かって継続してご尽力いただきました研究分担者ならびに研究協力者各位に心から感謝申し上げます。助言と支援をいただきました厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課の皆様に厚くお礼申し上げます。

担当
神戸大学大学院医学研究科 産科婦人科分野 山田秀人
神戸大学大学院医学研究科 産科婦人科分野 平久進也
神戸大学医学部附属病院 周産母子センター 森岡一朗
 
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