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【研究概要】

ストレスと脳の老化、レジリエンスを司る生物学的基盤の解明と医薬品開発を目指した薬理学研究

 薬理学は、薬物と生体との相互作用や疾患の病態を担う分子機序を明らかにし、治療や創薬に役立てる学問です。当分野では、心身の健康や病に関わりの深いストレスや脳の老化について、薬理学の観点から研究しています。
 厳しい環境や過酷な状況によるストレスは、条件により心身の機能に多様な影響を与えます。例えば、短期的で克服可能なストレスはストレスに対処するための適応的な反応を促し、ストレスに対する順化や抵抗性(レジリエンス)を高めます。一方で、長期的で克服不可能なストレスは抑うつや不安亢進、認知機能障害を誘導し、うつ病など精神疾患や多様な身体疾患のリスクを高めます。また、長期的で克服不可能なストレスを受けても必ずしも全ての個体で抑うつや不安亢進が生じるわけではなく、ストレス感受性には大きな個体差があり、ストレスに対するレジリエンスの存在が推測されます。しかし、ストレスやレジリエンスのメカニズムには不明な点が多く、ストレスに着目した治療法開発も確立していません。
この問題に迫るため、当分野では、社会挫折ストレスなどマウスのストレスモデルを用いた研究を進めています。その結果、ストレスの程度により、脳の機能や構造、さらには情動行動に与える影響に大きな違いがあることを見出してきました。例えば、短期的なストレスは神経伝達分子のドパミンを介して、内側前頭前皮質の神経細胞の樹状突起増生を引き起こし、レジリエンスを増強します。一方で、長期的なストレスは脳内の炎症担当細胞のミクログリアに由来する炎症関連分子を介して、内側前頭前皮質の神経細胞の樹状突起退縮とともに情動変容を誘導します。加えて、長期的なストレスは骨髄からの血液細胞の動員と脳への浸潤を引き起こし、情動変容に貢献することも明らかになりつつあります。
 すなわち、ストレスによる情動変容の根底には、脳局所での神経細胞やグリア細胞の分子細胞生物学的変化があり、これが末梢から脳内に浸潤してくる血液細胞と協働して、局所さらには広域の神経回路の神経活動を変容し、情動変容に至ります。
 また、脳の老化でもやる気や認知機能の低下が生じます。脳の老化には、神経細胞の樹状突起退縮やミクログリア活性化を伴う脳内炎症の関与が示唆されています。脳の老化にも大きな個体差があり、レジリエンスの存在が推測されます。しかし、これらの実態は不明です。
 当分野は、ストレスによる心身の変化や脳の老化、レジリエンスを司る生物学的基盤を解明し、うつ病を始め心身の病を克服する革新的医薬品の開発を目指します。

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【主な研究課題】

ストレスによる脳内の細胞生物学的変化とその意義の解明

 ストレスによる情動変容や精神疾患には、脳局所での神経細胞やグリア細胞の機能形態変化が重要ですが、その変化の基礎となる細胞内小器官の変化やそのメカニズムはほとんど分かっていません。当分野では、学内外の共同研究も通じ、三次元電子顕微鏡、膨張顕微鏡、オミクス解析を用いた分子動態・形態解析、遺伝子組換えウイルスによる脳領域・細胞種特異的な分子操作、マウス行動実験を駆使して、ストレスによる脳内の細胞生物学的変化とその意義の解明を目指します。

ストレスによる脳内の転写・エピゲノム制御とその意義の解明

 ストレスによる神経細胞やグリア細胞の応答性はストレスの反復により変化することから、転写・エピゲノム制御の関与が示唆されていますが、その実態は不明です。当分野では、学内外の共同研究も通じ、微量脳組織のセルソートを用いた脳領域かつ細胞種特異的な遺伝子発現解析や転写・エピゲノム解析や一細胞オミクス解析、遺伝子組換えウイルスによる脳領域・細胞種特異的な分子操作、マウス行動実験を駆使して、ストレスによる脳内の各細胞種における転写・エピゲノム制御とその意義の解明を目指します。

ストレス感受性・レジリエンスを司る神経回路の同定

 ストレスによる脳局所の転写・エピゲノム制御と細胞生物学的変化は、脳領域内の神経回路から複数の脳領域からなる神経回路の活動パターンの変化を通じて、抑うつや不安亢進など情動変容を誘導します。内側前頭前皮質や側坐核やそれらの脳領域を制御するモノアミン投射などの重要性は確立していますが、ストレス感受性・レジリエンスを司る神経回路の全貌は不明です。組織学的な全脳神経活動マッピング、電気生理学計測、脳領域・神経投射選択的な神経活動操作等を駆使して、ストレス感受性・レジリエンスを司る神経回路の同定を目指します。

ストレスによる炎症反応とその意義の解明

 ストレスによる情動変容や精神疾患には、機能性脂質やサイトカインなど多様な炎症関連分子の働きが重要です。ストレスは脳と末梢臓器を含む全身で炎症関連分子の産生や血液細胞の動員を誘導し、多様な臓器の機能変化や脳と末梢臓器の相互作用を担うことが示唆されています。当分野では、学内外の共同研究も通じ、機能性脂質やサイトカインの包括的解析、フローサイトメトリーによる血液細胞解析、一細胞オミクス解析、組織・細胞種特異的な遺伝子改変マウスを用いたマウス行動実験も駆使して、ストレスによる全身に及ぶ炎症反応の実態とその意義の解明を目指します。

脳の老化を引き起こす生物学的基盤の解明

 老齢マウスに見られるやる気や認知機能の低下など脳の老化を、一般的な情動試験に加え、刺激分別課題や注意セットシフト課題など多様な認知課題により多次元で評価し、各種オミクス解析、組織学的解析や分子・神経活動操作を駆使して、老化に伴う各認知情動変化を担うメカニズムの解明を目指します。

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【展望】

 当分野は、マウスのストレスモデルや老齢マウスを用いた基礎研究を推進し、必要に応じて共同研究により健常者・患者検体を用いた臨床研究も行い、ストレスや脳の老化、レジリエンスに関する以下の根本問題を生物学的に解明し、精神・神経疾患を始め心身の病を克服する革新的医薬品の開発を目指します。

  • ストレスは脳内でどのように生じ増幅し維持されるのか。
  • ストレスや老化への感受性やレジリエンスはどのように制御されているのか。
  • ストレスや老化の個体差はどのように生ずるのか。
  • ストレスや老化による脳の変化と体の変化はどのように関連するのか。
  • ストレスや老化は心身の病にどのように関わるのか。
  • ストレスや老化による心身の機能不全はどうすれば元に戻せるのか。
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【研究手法】(共同研究によるものを含む)

マウス行動実験(P1A・P2A)、遺伝子組換えマウス作製、脳定位固定手術、遺伝子組換えウイルス接種マウス作製、脳内投与用カニューラ留置マウス作製、浸透圧ポンプ留置マウス作製、光・化学遺伝学的操作、インビボ神経活動計測、セルソート、フローサイトメトリー、免疫組織染色、レーザー共焦点顕微鏡観察、三次元電子顕微鏡解析、膨張顕微鏡解析、自動画像解析、網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq法)、網羅的エピゲノム解析(クロマチン免疫沈降シーケンス法・ATAC-seq法)、包括的脂質解析(LC-MS/MS)、包括的サイトカイン解析、初代培養神経細胞、初代培養ミクログリア、細胞トランスフェクション、スライス生化学実験、HPLC-ECD、プラスミド作製、遺伝子組換えウイルス作製、定量的RT-PCR

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【参考文献】

  • Furuyashiki T, Narumiya S. Stress responses: the contribution of prostaglandin E2 and its receptors. Nature Reviews Endocrinology 7, 163-175 (2011).PubMed
  • Tanaka K et al. Prostaglandin E2-mediated attenuation of mesocortical dopaminergic pathway is critical for susceptibility to repeated social defeat stress in mice. Journal of Neuroscience 32, 4319-4329 (2012).PubMed
  • Deguchi Y et al. mDia and ROCK mediate actin-dependent presynaptic remodeling regulating synaptic efficacy and anxiety. Cell Reports 17, 2405-2417 (2016).PubMed
  • Shinohara R et al. Dopamine D1 receptor subtype mediates acute stress-induced dendritic growth in excitatory neurons of the medial prefrontal cortex and contributes to suppression of stress susceptibility in mice. Molecular Psychiatry 23, 1717-1730 (2018).PubMed
  • Nie X et al. The innate immune receptors TLR2/4 mediate repeated social defeat stress-induced social avoidance through prefrontal microglial activation. Neuron 99, 464-479 (2018).PubMed
  • Higashida S et al. Repeated social defeat stress impairs attentional set shifting irrespective of social avoidance and increases female preference associated with heightened anxiety. Scientific Reports 8, 10454 (2018).PubMed
  • Furuyashiki T et al. Roles of multiple lipid mediators in stress and depression. International Immunology 31, 579-587 (2019).PubMed
  • Furuyashiki T and Kitaoka S. Neural mechanisms underlying adaptive and maladaptive consequences of stress: Roles of dopaminergic and inflammatory responses. Psychiatry and Clinical Neurosciences 73, 669-675 (2019).PubMed
  • Numa C et al. Social defeat stress-specifi increase in c-Fos expression in the extended amygdala in mice: Involvement of dopamine D1 receptor in the medial prefrontal cortex. Scientific Reports 9, 16670 (2019).PubMed
  • Nie X et al. Roles of Toll-like receptor 2/4, monoacylglycerol lipase, and cyclooxygenase in social defeat stress-induced prostaglandin E2 synthesis in the brain and their behavioral relevance. Scientific Reports 9, 16670 (2019).PubMed
  • Nagai M et al. Stress-induced sleep-like inactivity modulates stress susceptibility in mice. Scientific Reports 10, 19800 (2020).PubMed
  • Ishikawa Y et al. Repeated social defeat stress induces neutrophil mobilization in mice: maintenance after cessation of stress and strain-dependent difference in response. British Journal of Pharmacology 178, 827-844 (2021).PubMed
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【募集】

 当分野は、当分野の研究に興味のある大学院生や学部生の参加を募集しています。興味のある方は下記の連絡先までご連絡ください。

古屋敷 智之(神戸大学大学院医学研究科薬理学分野・教授)

TEL 078-382-5440;
FAX 078-382-5459;
tfuruya[at]med.kobe-u.ac.jp
(但し[at]は@と読み替える)

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【研究代表者】

古屋敷 智之(ふるやしき ともゆき)

神戸大学大学院医学研究科薬理学分野・教授

  • 平成3年4月~平成9年3月 京都大学医学部医学科
  • 平成9年4月~平成13年3月 京都大学大学院医学研究科博士課程
  • 平成10年4月~平成15年3月 日本学術振興会特別研究員(DC1・PD)
  • 平成15年4月~平成16年8月 京都大学大学院医学研究科助手
  • 平成16年9月~平成20年3月 Johns Hopkins大学脳心理学分野准研究員
  • 平成20年4月~平成24年10月 京都大学大学院医学研究科助教
  • 平成24年11月~平成26年4月 京都大学大学院医学研究科特定准教授
  • 平成26年5月~現在 神戸大学大学院医学研究科教授
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【構成員】

氏名
Name
役職 電話 メールアドレス
(但し[at]は@と読み替える)
古屋敷 智之
FURUYASHIKI Tomoyuki
教授 078-382-5440 tfuruya[at]med.kobe-u.ac.jp
篠原 亮太
SHINOHARA Ryota
講師 078-382-5701 rshino[at]med.kobe-u.ac.jp
永井 裕崇
NAGAI Hirotaka
助教 078-382-5441 hirotaka.nagai[at]port.kobe-u.ac.jp
谷口 将之
TANIGUCHI Masayuki
助教 078-382-5441 m-taniguchi[at]port.kobe-u.ac.jp
山口 勇太
YAMAGUCHI Yuta
特命助教 078-382-5441 yyuta[at]med.kobe-u.ac.jp
永井 碧
NAGAI Midori
特命助教 078-382-5441 mnagai[at]med.kobe-u.ac.jp
呂 亜濱
LU Yabin
助手 078-382-5442 非公開
岩村 妃呂子
IWAMURA Hiroko
特命職員
(技術系)
078-382-5442 非公開
滝澤 美茶子
TAKIZAWA Misako
特命職員
(事務系)
078-382-5443 非公開
松下 和敏
MATSUSHITA Kazutoshi
博士課程大学院生
(2018年度入学)
非公開 非公開
田村 太一
TAMURA Taichi
博士課程大学院生
(神戸大学 肝胆膵外科)
(2018年度入学)
非公開 非公開
沼 知里
NUMA Chisato
MD/PhDコース学生
(2019年度入学)
非公開 非公開
三島 零
MISHIMA Rei
博士課程大学院生
(2019年度入学)
非公開 非公開
堀川 伊和
HORIKAWA Io
博士課程大学院生
(2020年度入学)
非公開 非公開
山田 留衣
YAMADA Rui
博士課程大学院生
(2020年度入学)
非公開 非公開
本岡 弓佳
MOTOOKA Yumika
博士課程大学院生
(2021年度入学)
非公開 非公開
奥田 裕己
OKUDA Yuki
博士課程大学院生
(2021年度入学)
非公開 非公開
祝 晴
ZHU Qing
博士課程大学院生
(2021年度入学)
非公開 非公開
大田 康平
OTA Kohei
博士課程大学院生
(2023年度入学)
非公開 非公開
田 博文
TIAN Bowen
博士課程大学院生
(2023年度入学)
非公開 非公開
邱 雯冉
QIU Wenran
修士課程大学院生
(2022年度入学)
非公開 非公開
久末 敏博
HISASUE Toshihiro
修士課程大学院生
(2022年度入学)
非公開 非公開
谷津 健太
YATSU Kenta
修士課程大学院生
(2022年度入学)
非公開 非公開
李 東芮
LI Dongrui
修士課程大学院生
(2022年度入学)
非公開 非公開
張 李爽
ZHANG Lishuang
修士課程大学院生
(2022年度入学)
非公開 非公開
朱 耘慧
ZHU Yunhui
修士課程大学院生
(2022年度入学)
非公開 非公開
陳 国威
CHEN Guowei
修士課程大学院生
(2022年度入学)
非公開 非公開
高 榕蔚
GAO Rongwei
研究生
(2023年度入学)
非公開 非公開
医学部医学科学生 非公開
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【アクセス】

古屋敷 智之(神戸大学大学院医学研究科薬理学分野・教授)

TEL 078-382-5440;
FAX 078-382-5459;
tfuruya[at]med.kobe-u.ac.jp
(但し[at]は@と読み替える)


神戸大学大学院医学研究科薬理学分野は楠キャンパス内研究棟Bの4階東側にあります。

神戸大学大学院医学研究科までのアクセスと研究棟Bの場所は以下のURLをご参照ください。
https://www.med.kobe-u.ac.jp/access/

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