第10回日本病理学会カンファレンス2013六甲山開催報告

世話人:横崎 宏(神戸大学大学院医学研究科病理学講座病理学分野)

 第10回日本病理学会カンファレンス2013六甲山を8月2日(金)、3日(土)に兵庫県神戸市六甲山ホテルにて開催いたしました。幸いにも天候に恵まれ、学会外からの招聘講師5名と事前登録者100名(病理学会会員講師5名を含む)ならびに当日参加希望され直接現地に来られた地元大学院生3名の合計108名のご参加をいただきました。

1.開催の目的と概要

 ヒトの疾患を対象とした生命科学における病理学の独自性は、日々の生検・手術検体病理診断や病理解剖を通して病的個体の肉眼的、顕微鏡的形態変化を的確に捉え、背景にある病的機能変化をその時点で利用可能なあらゆる方法論を用いて解析し、病因・病理発生を明らかにすることにあります。がん組織を顕微鏡観察すると、しばしばがん細胞と間質細胞が基質で隔てられることなく密着する所見が得られます。これは明らかに非生理的すなわち病的現象です。今回の日本病理学会カンファレンスでは、がん細胞と正常細胞、間質細胞を含めた局所微小環境での細胞相互作用に注目して研究を進められている10名の先生にレクチャーをお願いし、線維化、血管新生、上皮間葉転換、がん幹細胞性維持など様々な細胞相互作用に関する最新知見を概観することを第一の目標にしました。第二のねらいは若手病理学会会員に臨床家から先端生命科学までの研究者と、通常の学会発表では得られない濃厚な討議と情報交換、さらには施設を超えた若手研究者の横のつながりを作る場を提供することです。今回は懇親会を兼ねたポスターセッションを第一日目夕食後に設け、ショートプレゼンテーションとその後のポスターセッションコーディネーター(レクチャー担当者にお願いしました)を中心としたグループ発表・討議を行いました。ポスター発表はレクチャー講師、病理学会研究推進委員会委員に評価していただき、最優秀ポスター賞1題と優秀ポスター賞2題を選考し、カンファレンス閉会式において表彰しました。

今回のレクチャー講師と演題は以下の通りです(敬称略、発表順)

森 正樹 〔大阪大学大学院医学系研究科〕
「消化器癌の癌幹細胞」
落谷 孝広 〔国立がん研究センター研究所〕
「エクソソームによるがんの浸潤転移の解明とliquid biopsyへの応用」
竹屋 元裕 〔熊本大学大学院生命科学研究部〕
「腫瘍関連マクロファージ(TAM)の役割とその制御」
石井 源一郎 〔国立がん研究センター東病院〕
「がん関連線維芽細胞の病理生物像」
八代 正和 〔大阪市立大学医学研究科〕
「スキルス胃癌の増殖進展における癌周囲微小環境と癌細胞との相互作用」
井垣 達吏 〔京都大学大学院生命科学研究科〕
「細胞の競合と協調によるがん制御」
片岡 寛章 〔宮崎大学医学部〕
「細胞膜上プロテオリシス制御が演出するがん間質相互作用とがんの生物像」
加藤 光保 〔筑波大学医学医療系〕
「がんの発生と進展におけるトランスフォーミング増殖因子βの作用」
井上 正宏 〔大阪府立成人病センター研究所〕
「三次元培養法から見えてくる癌細胞の増殖と休眠」
平岡 伸介 〔国立がん研究センター研究所〕
「腫瘍局所の免疫環境」

一般演題ポスター発表は24題で、以下の3名にポスター賞が授与されました(敬称略)

最優秀ポスター賞  酒井康弘〔信州大学大学院医学系研究科 分子病理学講座〕
優秀ポスター賞   川口真紀子〔宮崎大学医学部病理病態学講座 腫瘍・再生病態学分野〕
優秀ポスター賞   藤原章雄〔熊本大学大学院生命科学研究部 細胞病理学分野〕

2.登録参加者〔103名(事前参加登録100名、当日参加登録 3名)、病理学会会員講師を含む〕の内訳について

 日本病理学会会員・非会員、都道府県(所属施設)の内訳は、下記の通りです。日本病理学会会員が約9割を占めておりました(90/103: 87.4%)。支部地域別では、北海道5名、東北1名、関東18名、中部16名、近畿30名、中国四国11名、九州22名とほぼ全国からご参加いただきました。学生(大学院生・学部学生)としての参加登録者は21名で、これに加えて、今回新たに導入した若手ポスター発表者参加費補助で登録された35歳以下のポスター発表者は12名(ポスター演題数の50%)でした。

3.アンケート集計結果(回答数59、回収率57.3%)について

 掲載を終了いたしました。

4.総括と今後の課題

 日本病理学会カンファレンスは、かつての公的研究費合同班会議の様に、臨床から基礎を含めた特定疾病克服に同じ志を持った研究者が日常を離れて一堂に会し、泊まり込みで研究成果を討議できる機会を、特に若手の病理学会会員に継続的に提供したいという目的で10年前より毎年夏のこの時期に国内各地で開催されてきました。昨春の第101回病理学会総会で、世話人の負担をより良いプログラム作りに集中できるように、当分の間開催地を神戸六甲山に固定する事が決まり、今回がその始まりの会となった次第です。

〔広報〕

 今回より、日本病理学会ホームページのトップページから本カンファレンスホームページに直接リンクを、さらに、新着情報欄に随時カンファレンスの準備状況を掲載していただきました。効果は絶大で、実際、病理学会ホームページに参加登録、演題募集の情報を掲載した翌日から登録申込や、問い合わせがありました。さらに、札幌での第102回病理学会総会では、佐藤昇志会長のご厚意により会場内随所に本カンファレンスのポスターを掲示いただいたことも病理学会会員への周知に大変役だったと思います。次回からも、概要発表の時点からホームページを使って時間をかけたカンファレンスの周知を行う事が重要と思われます。なお、今回準備中に気付きましたが、歯学部のメーリングリストが完備されていないため、口腔病理学関連教室への広報が不十分であった事は改善されるべきです。

〔参加者〕

 前述のような広報に対するご支援のおかげで、3月29日からカンファレンスホームページを立ち上げ、5月10日全レクチャー演題公開と少し周知期間が短かったものの、最終的に事前登録参加者100名、日本病理学会会員の割合は87%、20代、30代の若手参加者は49%(アンケート結果から)とほぼカンファレンスの趣旨に沿った参加者を得ることができました。また、今回から導入した若手ポスター発表者補助申請者は12名で、その内2名がポスター表彰者であったことから、意欲あふれる若手発表者参加促進の一助になったものと考えます。

〔レクチャー〕

 世話人が最も興味を持って研究しているがんにおける細胞相互作用について、日頃多くのご指導や共同研究を行っていただいている国内研究者を中心にレクチャーをお願いしました。がん治療最前線の外科医からショウジョウバエ遺伝学を用いた基礎研究者まで幅広い領域の講師に、それぞれの立場から形態学的、細胞生物学的ならびに分子間での相互作用をお話しいただけたと思います。アンケートからも、レクチャーの質に関しては好評でした。ただし、レクチャー数を減らして、最新のデータとともにじっくりと聴講、討議したいと言う意見や、一般ポスター演題の一部を口演に回して討議する機会を作ってみてはなど、貴重な提案をいただきました。

〔一般ポスター演題〕

 前回のカンファレンスで初めて導入された90秒間のショートプレゼンテーションは、ポストアンケートで比較的評判が良く、また、研究推進委員会においても全体の発表を概観できることと、限られた時間を使っていかに発表内容を要領よく演者がまとめることができるかを評価する上でも有効であるとの意見が多数であったため、今回も実施しました。1時間弱で済ませることのできるセッションですので、今後実施するタイミング(夕食前か?後か?)を試行して検討する必要があるかも知れません。懇親会を兼ねたポスターディスカッションでは、司会をお願いした病理学会会員レクチャー講師のご尽力で、深い討論ができたものと思います。

〔会場〕

 会場となった六甲山ホテルのレクチャーおよびポスター発表・懇親会に用いた宴会場「あじさい」、夕食時のジンギスカンテラス、懇親会二次会の小宴会場「つばき」および本館屋上オープンデッキは、アンケートでの評価も高く、100名前後のカンファレンス開催にほぼ満足できる規模と施設であったと思います。一方、宿泊に関しては、今回六甲山ホテルで初めての開催で、前年5月に交渉を開始したにもかかわらず全館完全貸し切りは実現しませんでした。そのため、一部の参加者に2名同室あるいは4名同室をお願いせざるをえず、ご不便をおかけしたことをお詫び申し上げます。今回の実績を踏まえ、次回に向けてより多くの客室を確保できるべく粘り強い交渉を続けたいと考えています。

5.謝辞

 今回のカンファレンス開催にあたり、ご援助いただきました日本病理学会に感謝申し上げます。準備に際しては、日本病理学会研究推進委員会委員、日本病理学会事務局の方々には様々なご指導・ご支援を賜りました。また、講師の先生には、レクチャーのみならずポスターセッションでの発表者へのご指導や評価など沢山の仕事をお引き受けいただき誠に有り難うございました。最後に、本カンファレンスの運営における神戸大学大学院医学研究科病理学分野メンバーの献身に深謝いたします。

ポスター

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