留学紹介

上田 香織(平成24年入局)

2023年9月より、National Institute of Health(NIH)のNational Eye Institute(NEI)に属するNeurobiology Neurodegeneration & Repair Laboratory(N-NRL)に留学しています。略称の通り、Rodの分化の根幹となるNRLを中心とした基礎研究を行うラボです。
渡米してまだ2か月程度ですが生活環境がとてもよいので、若い先生方にぜひこの地への留学を考えてほしいと思っています。短い期間の経験にはなりますが、これまでの生活について書いてみます。

【居住環境】
住んでいるのはメリーランド州のモンゴメリー郡、北ベセスダというところです。この地区は治安がよく、また日本人の居住者がかなり多い場所です。私の住んでいるアパートは同じ敷地内に3棟のアパートがあり、多分居住者の2~3割くらいは日本人と思います。子供が小学校に通っている世帯のグループラインがあって、そこだけで60軒の日本人世帯が含まれています。
近所を歩いていると聞こえてくるのは半分くらい日本語です。アパートの1階がスーパーなのですが、日本語を話せる店員さんがいるので(日本のアニメが好きすぎて独学したそうです)、食材の場所を教えてもらったりして助かっています。

☆自宅前(奥に見えるのが今住んでいるアパート)の広場。
子供たちは放課後、近所のお友達とここで夕方まで遊んでいます。

【生活のセットアップ】
今の家は、先に渡米していた夫の下宿先である日本人の不動産屋さんに斡旋してもらいました。日本でいうところの2LDKですがかなり広く、日本で住んでいた部屋が少し狭かったので、非常に満足しています。電化製品はすべて備え付けで、家具も大部分は知り合いから譲ってもらいました。ここに来る日本人の大半は数年で帰国するので、帰国時に家具や日用雑貨等をシェアすることが多いようです。子供服、子供のおもちゃなども頂き物です。こちらに来る時に、日本で使っていたものはほとんど処分してきたので、大変ありがたいことです。
車が必須なので、帰国時に売却する契約でトヨタのRAV4を中古で購入しました。昨年のカメラーデンで書いた通り、運転歴1年でプリウスしか乗っていなかったので、サイズアップに左ハンドル、右車線とか大丈夫かと思っていましたが、とくに問題なく運転できています。ちなみに今のメリーランド州では日本の運転免許があれば、webでの3時間のアルコール&薬物講習のあと、ネットに出回っているテストを受けるだけで、免許を取得できます。

☆アパート屋上のプール。夏の間はよくプールで遊びました。

【買い物】
先に記載の通り、アパートの1階がスーパーになっています。野菜の種類が豊富で、日常の買い物には不自由しません。その他車で10分圏内にスーパーが山ほどあります。よく行くのはlotte plaza(アジア系の食材の多いスーパー)、costco(コストコですね)、Target (日本でいうところのライフみたいな感じ)、Maruichi(日本人が経営する日本のものだけが置いてあるスーパー)あたりです。また買い物ではありませんが、近所に日本の本だけ集めた図書館があり、アニメのDVDやマンガもあるので子供たちは喜んでいます。
スーパーには大概薬局が併設されています。薬剤の種類が豊富で(さすがに抗生物質はありませんが)、こちらに来てから子供たちが何回か風邪をひいたり、皮膚のかぶれが出たりしましたが、解熱剤はもちろん、抗アレルギー薬、大容量のステロイド軟膏なども売っており、今のところ市販薬で対処できています。そういえば、渡米直後にまた家族でコロナ感染したのですが、2回目の感染だったためか、症状が前ほど強くなくて済みました。夫は初めての感染で、あまりのしんどさに驚いたそうです。

☆costcoで見つけました…。

【学校】
メリーランド州は全米で教育水準の最も高い州だそうです。新学期が9月のため、2016年10月生まれの長男は日本と同じく1年生、2018年8月生まれの次男は1年繰り上がってキンダー(日本の幼稚園の年長)で入学しました。この学校は親の仕事の都合で世界各国から子供たちが集まっており、日本人の子供もとても多く、次男の学年では生徒の1割以上が日本人です。
アメリカ全体がそうなのかは分かりませんが時間割はほぼ固定されていて、子供達の通う小学校ではとくに英語の発音・読み書きと算数を重視しています。キンダーでも第1週目から簡単な文章を読んだり、アルファベットを書いたりという授業をしています。日本にいるころから勉強はいらん、家で一番小さい子なのでひらがなも読めなくていいのと平然と言い放ち、鉛筆もろくに持ったことのなかった次男は苦労しています(笑)。加えてうちの子供たちは英語力ゼロで渡米したので、ELDという英語の補講を受けています。算数はEureka mathというシステムを取り入れていて、これは算数の仕組みを理解・説明させることに重点を置いているそうです。分厚い問題集が新学期前に配布され、毎日これに取り組むことになっています。
授業で興味深いのが、自分と周りの人を大切にすること、自分に自信を持つこと、自分も含め異なる文化を尊重すること、フィクションとノンフィクションの区別をつけること、など、人間の根幹に関わるような道徳的な内容がどの授業にも盛り込まれていることです。ELDの説明会でも、母国を大切にするため、家庭では母国語で話すようにと言われました。
また、長男は今月から、土曜日に日本語学校にも通学します。次男も日本での年長になる来春から通学予定です。宿題とテストが多いそうで、子供達にはまだ黙っています…のびのびとアメリカ生活を楽しんでもらいたいとは思いますが、長男は既にカタカナが抜け始めており、次男は元々日本語の読み書きができなかったので、帰国後のことを考えると、家庭学習だけではちょっと厳しそうです。

(左・中央)子供たちの通っている小学校。校庭は広い芝生で、鹿が暮らしています。
(右)スクールバス。家の前まで来てくれるので助かります。

【仕事関連】
自宅からラボへは地下鉄で2駅、片道20分程度です。車で行っても同じくらいです。敷地が広大なので、正面ゲートから離れたラボにはシャトルバスが出ています。通勤時、また休憩中にキャンパス内を歩いていると、リスや鹿、アヒルがあちこち走り回り、頭上からは鳥の鳴き声、足元からは(秋なので)虫の鳴き声がして、森の中にいるようです。
NIHに来て驚いたのは、インストラクションや個人へのサポート・案内が大変丁寧であるということです。初日にSSN(マイナンバーみたいなもの)を含む各種手続きの案内メールが届いた後、数日後にNEIのポスドク担当者から、海外から来た研究者を対象とした個別面談を受けました。この時にラボでどんな仕事をするのか、MDなのにどうして基礎研究をするのか、NIHの任期が終了したあとは将来のキャリアをどうしたいか、母国に帰ってキャリアが途切れることがないか、等々、かなり細かく聞かれたあと、システムから語学、メンタルに至るまでのあらゆるサポートやサービスの案内を受けました。機器や手技についてはすべてインストラクションを受けないといけないのですがこれもしっかりしており、最近ではZeissのLSM 700のインストラクションがありましたが、蛍光顕微鏡の各波長が目に届く仕組みから、撮影時に各機器の中でどのような動きがあるか、それらに連動した撮影のテクニックなど、新しく知ることがたくさんあって大変面白かったです。この点は大学でも共通機器を使用するにあたり、統一されたインストラクションがあるとよいのではと感じました。

☆スミソニアン自然史博物館(左)と国立動物園(右)。
地下鉄で30分くらいでワシントンDCに行けます。

思いつくことを書き連ねましたが、今のところ困っていること、苦労したことは何もありません。これが私がここでの生活をお勧めする理由で、留学先としては本当に恵まれた最高の環境と思います。これから困ることが出てくるかもしれませんが、今はこの楽しさを若い先生方に知ってほしい、ぜひ一度ここで暮らしてもらいたいと心から思っています。

過去の主な留学研究者

中村 誠
Pennsylvania State University, College of Medicine, Department of Ophthalmology, and Cellular and Molecular Physiology, USA(1999.10.1-2001-9.30)


中西 裕子
Wilmer Eye Institute, Johns Hopkins University School of Medicine, USA Post-doctoral Fellow(2003.12-2006.3)


楠原 仙太郎
University College London (UCL), Translational Vision Research (Professor David Shima), UK (2012.6-) ≫留学記を見る


金森 章泰
Department of Ophthalmology & Visual Science, and Pathology & CellBiology, University of Montreal, Canada (2008.6.1-) ≫留学記を見る


今井 尚徳
Pennsylvania State University, College of medicine, Department of Ophthalmology, and Cellular and Molecular Physiology, USA(2007.7-2009.8)


近藤 直士
The Wilmer Ophthalmological Institute of the Johns Hopkins University School of Medicine, USA (2009.4.1-) ≫留学記を見る


栗本 拓治
Research fellow, Laboratory for Neuroscience Research in Neurosurgery and F. M. Kirby Neurobiology Center, Children's Hospital, Boston, Harvard Medical School ,USA(2008.9-2010.8)


三木 明子
The Wilmer Ophthalmological Institute of the Johns Hopkins University School of Medicine, USA (2009.9.1-)


松宮 亘

Byers Eye Institute, Department of Ophthalmology, Stanford University School of Medicine, USA(2019.10.27-) ≫留学記を見る その①
Byers Eye Institute, Department of Ophthalmology, Stanford University  School of Medicine(2019.10.27-) ≫留学記を見る その②


盛 崇太朗

University College London (UCL), Institute of Ophthalmology (IoO),Translational Vision Research (Professor Francesca Cordeiro), UK (2021.9-) ≫留学記を見る その①
University College London (UCL), Institute of Ophthalmology (IoO),Translational Vision Research (Professor Francesca Cordeiro), UK (2021.9-) ≫留学記を見る その②