Program事業の概要

はじめに

 文部科学省が大学・大学病院における、より効率的で質の高い臨床教育・研究実施のための新たな体制を構築する優れた取組を支援し、これを持続的な業務改善につなげることで、医師の働き方改革に貢献することを目的とした「質の高い臨床教育・研究の確保事業」に、神戸大学が申請した事業が採択されました。

事業の概要

 大学、大学附属病院は、教育、研究、診療という3つの重要な役割を担っていますが、働き方改革による労働時間短縮の中で、教育の高度化や研究、診療の質、量の拡大が求められています。

 この相反する要求を高度に達成するには、近年急速に発達したICT 技術を大胆に導入し、事務的作業を徹底的に効率化し、生じた人的、時間的余裕を人間しか行えない創造的な活動に投入する必要があります。ICT の導入原則は1.全領域を対象、2.先進的企業のICT 技術の活用、3.ICT 専門家と現場職員のチーム形成(集合知)、4.初期からのチーム形成、5.現場での課題探索で、抽出した課題に対し期待される効果、実行可能性、コストを厳密に評価し、優先順位を付け、課題ごとにプロジェクトを立ち上げてPDCA、OODA等により事業を進めることで社会実装率の向上を図ります。現在、先進的ICT 企業との共同研究に合意し、本事業の対象となる臨床実習および臨床研究の課題探索を開始しています。

特徴

本事業は、ICT導入の原則に則り、技術を持つ企業と合同で現場から抽出された課題に対して期待される効果、実行可能性、コストを厳密に評価し、優先順位を付け、課題ごとにプロジェクトを立ち上げ社会実装率の向上を図ります。

また本事業の対象外の課題も含め大学、附属病院の業務を俯瞰的に検討することで局所最適ではなく社会実装に適した課題解決を行い、教員および事務職員の業務負担を劇的に軽減し、教育・研究に費やす時間を確保することが質の高い臨床教育・研究の確保に繋がると考えています。そのための一般事務等へのICT技術の導入も同時に推進することも特徴です。

現状の課題

  • 大学および大学附属病院の職員は医師、看護師、事務系職員を問わずICT化の遅れなどから教育、研究、診療の直接業務以外の資料作成、記録、連絡、会議参加などの間接(支援)業務に忙殺されており、本来業務の停滞を招いている。
  • 働き方改革の本格実施による勤務時間の制限の中、いかに診療の効率を高め、研究や教育に使える時間を確保するのかが重要な課題と考えている。
  • デジタルコンテンツを用いた反転授業など、臨床教育現場での新たな教育手法の活用は不十分であると認識している。
抜本的な医学部の構造改革が急務

ICTの包括的導入による業務最適化

  • 先進的ICT企業の技術を活用する。(共同研究)
  • ICTの専門家と現場の職員・教員によるチームを編成し、課題探索・集合知を形成する。
  • 教育関連業務・研究支援業務・診療補助業務などの全領域を対象にしAIを活用した自動化を進める。
  • 得られたノウハウをパッケージ化して他大学に導入可能な枠組みづくりを目指す。

医学教育現場の非効率的慣行の打破により生じた人的・時間的余裕による教育・研究・診療の向上を目指します。

診療参加型臨床実習の充実

独自の臨床実習管理システムを構築するとともに教育コンテンツにシミュレーションやAIなどの最新のICT技術を導入しその質の向上を図ります。

質の高い臨床研究の確保

AI技術により臨床研究に特化した臨床研究文書作成システムを構築するとともに電子カルテとの連動による負担軽減を狙います。

取組内容

クリックするとPDFが開きます

診療参加型臨床実習の充実
メタバース空間等を活用した臨床実習前シミュレーション教育の充実

現状では、4年次OSCE直前のみシミュレーション実習を実施しているものの十分な経験が不足しています。診療参加型実習へのスムーズな移行のため、低学年でも自学自習が可能なようにメタバース上に問診室、一般病棟、救急外来、レクチャールームなどを構築し、診察手技の確認、重症感染症室への入室方法の習得、手術用機材の名称確認などを繰り返し学べる環境を構築します。ゲーミフィケーション教育の要素を取り入れ学習意欲の維持を図り、臨床実習に臨んだ際、実際の医行為のインセンティブとします。

AIを活用した患者訪問診療教育の質向上

GPTなどの生成系AIを含む対話技術を活用し、背景情報を与え患者役を担わせ、対話機能で学生の問診の教育に活用します。保たれた会話ログを用いることで時と場所を問わずフィードバックを行うことや同時に多数の学生指導が可能となり、教員と患者の負担減が可能となります。教員間での問診教育情報の共有も可能で、質の向上が期待できます。

AIを活用したチュートリアルFAQシステムの構築

神戸大学が行うチュートリアル教育において、学生グループの一員あるいはチューター補助となるようなAI-FAQによりAIと共に学ぶ形式へ発展させます。AI-FAQはチャットボットやGPT(生成AI)による対話型も想定のうえ、誤った知識学習にならないよう設計します。

教員および事務職員を対象とした実習管理システムの構築

教員の臨床教育における事務負担は、資料作成、患者割り当てなどたいへん重くなっています。そこで今回のプログラム計画時にシステム導入を提案し、内容のクリックだけで整合された計画と学生の希望マッチングが完了する効率的な実習管理システムを開発することと致しました。このシステムでは予定管理のみならず、学習結果の管理を行うことにより実習の進捗、学生評価、実習プログラムの有効性の検証が可能となります。さらに事務職員が実施している学生実習の割り振り・評価の取りまとめ作業、チュートリアル教員配置の調整などについてシステムによる策定を可能とし、負担の大幅な軽減が可能となります。

教育担当専任教員の増員

育休明けなどの時短勤務を希望する医師を教育専任教員として登用します。時短医師にとって臨床や研究より負担が少なく、大学でのキャリア継続のメリットがあります。一般教員にとっても自身の業務負担が軽減され、ゆとりが生まれます。さらに医師のタスクシフトの一環で、有益な教育リソースとしてメディカルスタッフ人材も活用します。具体的には退職後の看護師や検査技師によるシミュレーターを用いた臨床手技指導を可能とします。

質の高い臨床研究の確保
倫理審査委員会申請・研究計画書策定業務の省力化
(臨床研究文書作成システムの構築)

倫理委員会申請書・研究計画書は、過去の書類等から雛形化した必要項目について、登録画面から箇条書きにより容易に登録が可能で下書き書類が作成できるシステムを構築し、省力化を行います。過去の類似書類を参考に効率化が図れるよう、AI等による文書検索でのアシスタント機能からシステム構築を始め、将来的には登録時点で書かれた内容の校正チェックをAI等で行い、更なる効率化を図りることを目指します。大量文書を自然言語解析し、類似度が高い文書の検索による問い合わせシステムを構築します。将来的にはすべての臨床研究関連文書を対象とします。

電子カルテと臨床研究プロトコルの自動連携ツールの開発

広く他の大学への適用を見据え、複数の電子カルテシステム及び臨床研究システムとの連動を行える、汎用的なツールを画像認識AI等の活用を踏まえて開発します。本事業とは別に、大学および附属病院にAIなどのICT技術を大胆に導入し、教員および事務職員の業務負担を軽減させ、教育・研究に費やす時間を確保することが質の高い臨床教育・研究の確保に繋がると考えていることから、一般事務等へのICT技術の導入も積極的に推進します。

目標

確保した人材の業務内容・補助事業期間終了後の姿

教育専任として臨床実習に上がる前のシミュレーション教育、臨床実習中のminiCEX等の評価業務を中心に活用する。個別最適化した学びのため、学生各個人に対しフォロー対応する。補助事業終了後はフルタイム勤務希望者は教育教員として学内で任用し、時短勤務継続希望者は院内ブラッシュアップセンターと協力しキャリアの継続を推進する。

数値目標(診療参加型実習の充実)

各学生の疾患及び症候に対する経験度合、医行為の実施数を把握し、学外を含めた実習計画を個別最適化する。

各学生における実施すべき医行為数の平均が前年度の25%増を目標に掲げ、3年間で50%の増加を見込む。

数値目標(質の高い臨床研究の確保)

本プログラムで構築、強化した体制による臨床研究支援の件数は、 「臨床研究文書作成システム」を活用した文書作成件数として初年度に少なくとも1件、3年間で30件を目指す。