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若手育成プロジェクト

神戸スプリングセミナー 2019年4月6日

2019年4月6日に、メディカルプラネックス施設でウエットラボに参加させていただいた。
まず、OPCABで、LITA-LADに見立てた吻合練習を向原先生に指導していただきながら行った。勤務している済生会中津病院で行っている吻合方法(heelから時計回りで吻合し、術者側で結紮する方法)で行う予定であったが、パラシュートで降ろしてからのグラフトへの運針の稚拙さから、違う方法で吻合する方針となった。普段の上級医が何気なく行っているように見える吻合でも、針の持ち方やグラフトの引く方向などを注意深く見ていなかったことが浮き彫りとなった。

2本目からは、順手で反時計回りに吻合し、第一助手側は第一助手が吻合する方法で吻合を行うこととなった。針を刺してからの持針器の回し方、鑷子で針を抜く方向、抜いた針を持針器で持つ流れなど、一つ一つ教えていただいた。特に針の抜き方は、気をつけていてもなかなか改善しなかったが、「今のは良かった、今のは悪かった。」と1針1針の評価をしていただく中で、途中から良い抜き方がわかるようになった。計5本も吻合させていただいたことや、1対1で指導していただいたことでやっと得た感覚だった。

その他の反省点としては、術野内での逆手から順手への針の持ち替えが苦手であることや、運針するときに糸を引いていないから緩んでいること、toeへの掛け方があまりにも少ないためカッティングしていることなどがあった。しかし、一番の反省点は普段の上級医の吻合のときの工夫を理解していないことであり、今後の手術での観察で修正していこうと思う。また、丸メス・ビーバーメス・ポッツ剪刀などで冠動脈前面を切開することや、スネアするためのテープの運針などの実際の心臓でないと経験できないことができたので、感覚を忘れないようにしようと思う。

左内胸動脈の採取する方法も、向原先生に指導していただきながら行った。初めて内胸動脈を採取したので、生きている豚で行えた経験が何より貴重であった。手順や、ハーモニックでカットするかどうかの判断、静脈が出血したときのクリッピングの方法、中枢側の内胸動脈の走行などを、詳しく教えていただいた。採取中に、内胸動脈に血腫を認め、解離が疑われた。その後の吻合で血流を認めたため、本当に解離したかどうかわからないが、脂肪を飛ばすときにハーモニックで内胸動脈を叩いていたことが原因と考えられた。初めての内胸動脈採取を、人間の手術ではなく豚でさせてもらって良かったと思う一方で、次の採取のときには十分注意しようと思った。

人工心肺の確立、RITA-LAD、LITA-LAD、TARを顔先生に指導していただきながら、河野先生と行った。事前に頸部分枝の人間との違いを指導していただいていたが、いざ行ってみると上行大動脈が思っていた位置と異なり、弓部送血となり、上行置換する予定が弓部大動脈を切開したためTARを行うこととなった。豚と人間の解剖の違いであるから仕方ないと思うのではなく、人間では事前のCT評価でanomalyがないか必ず確認すること、何かおかしいと思ったときは立ち止まることが必要であると思った。

RITA-LADの吻合を河野先生がされていたが、人間とLADの角度が異なるのでどのように吻合するかを顔先生と相談されており、普段の手術の観察をしっかり行っているからこそ違和感を覚えることができるのだと思った。LITA-LADの吻合を顔先生の指導の元に行った。スネアするテープがD1を傷つけてしまった。静脈と異なり、見えにくい動脈があることを再確認した。LAD前面を切開してシャントチューブを留置しようとしたときに、血流量が多くて難渋し、また切開がやや大きいため吻合に苦慮しながらも、LITA-LADの吻合を行うことが出来た。2箇所から出血したが、出血した理由はそれぞれ異なっており、教えていただきながら止血をした。

大動脈は前述のとおり、弓部大動脈を切開したため、末梢吻合、頸部分枝再建、中枢吻合、人工血管吻合を行うこととなった。末梢吻合は、周囲を剥離することで吻合が比較的しやすいと感じたが、初めて人間で行うTARの剥離の際に、同じように勇気を持って剥離できるのかと考えさせられた。末梢吻合や頸部分枝の吻合は、スピードやクオリティーは低いかもしれないが比較的苦慮することなく行うことができた。冠動脈の吻合の手際と異なるのは、吻合する血管の大きさだけではなく、やはり普段から使用している器械や縫合を行う回数が冠動脈より多いことが原因と思われた。冠動脈は、いずれ術者になるときにと思わずに、日頃から練習が必要であると感じた。

以上、ウェットラボを通して学んだことや反省点を述べたが、普段の手術から細部の細部まで観察すること、ドライラボでできることはドライラボでしておくべきということを痛感させられた。普段できない手技をさせていただいたことや、一つ一つの手技について真剣に指導していただいた指導医の先生のおかげで、自分に足りていないところが多く出てきた。2頭の豚に犠牲になっていただき、獣医さんを始めとしたテルモのスタッフの方、人工心肺を回していただいた技師の方、施設を使用させていただいたこと、同行していただきお世話をいただいたテルモのスタッフの方、指導していただいた先生方に感謝をし、経験したことを身に着けて今後も勉強していこうと思う。

素晴らしい経験をさせていただき、特に内胸動脈の採取ができたことは本当に貴重な経験であった。要望事項についても書くべきではあるかもしれないが、今回の経験ではこれ以上の要望事項はなく、次回も経験させていただきたいとは思った。

大阪府済生会中津病院
心臓血管外科 長命 俊也