夏に向けて豊胸術を希望される患者さんが増える時期です。
胸を大きくするためには、何かを乳房の中に入れて大きくすることが必要です。
その材料には大きく分けて二つの方法があります。
一つは「人工の材料」を乳房の中に入れて大きくする方法。
もう一つは「ご自身の身体の一部を材料として」入れて大きくする方法です。
(詳しくはこちら「豊胸術について」)
ここでは最近人気の脂肪注入による豊胸術を考えてみましょう。
人気の原因は、例えば太もものような細くなりたい部分から脂肪を採って使用するため、太ももは細くなるので、一石二鳥のように思える点でしょうか。
また一旦落ち着くとメンテナンスフリーで、生涯安心できる点もあるでしょう。
ですがここで強調したいのは、手術は魔法ではないってことです。
もちろん太ももから脂肪を取れば(本当は“採る”が正しいのですが)、太ももが細くなるのは嘘ではありません。
でも太ももにしこりができたり、場合によっては皮膚が波打ったような変形を残してしまう可能性もあるのです。
メンテナンスフリーで、生涯安心できるというのも、脂肪が完全に生着したら…の場合です。
手術が雑であったり、欲張って大きな胸を求めすぎた場合には、脂肪の生着が悪くなります。
生着しなかった脂肪の多くは、しこりになるのですが、時には岩のように硬いしこりになることもあるのです。
最近、私の外来に来られた患者さんとお話ししていて、次のように言われました。
「なんでそんなに安静にしないといけないんですかっ?!
○○クリニックでは、1日で手術は済むので、次の日から仕事して良いって言われましたよ!
美容の手術でそんなに休めるわけないじゃないですか!」
お気持ちはとてもよくわかるのですが…、逆にお聞きしました。
「○○さんのお身体は、美容外科の手術だからって早く治るんですか?
お身体が治る早さは、美容外科の手術も、病気やケガの手術と何も変わらないですよ。
もしそれがご理解できないなら、手術は受けるべきではないです。」
そして、ご理解いただきたいのは、脂肪注入は、脂肪を吸引する部位も、注入する部位も傷は非常に小さいのですが、傷の面積は非常に大きい、という事実です。
もし同じ面積を火傷して形成外科を受診したら、場合によっては即入院という重症さです。
当科では患者さんの短期の安全を確保するため術後の安静指導をしっかりと行い、長期の安全(脂肪の生着向上)を確保するため無理な量の注入はしない、丁寧に手間暇をかけた手術を行うことを実践しています。
残念ながら他院で手術を受けられ、残念な結果になった患者さんが多数来院され、初めて手術を受ける患者さんよりもはるかに多い割合を占めておられます。
もし他院で手術を受けて、不安に感じておられるようであれば、受診されることをご提案します。
画像検査などを行った上で、必要な治療を提案させていただきます。
が、最初の手術を安易に決めることなく、しっかりと説明を受け、よく考えた上で、手術を受けてくださいね。 そうすると美容外科の手術も決して悪いものではないことを体感していただけますよ。
文責:神戸大学病院美容外科診療科長 原岡剛一