女性にとって胸が小さいことでお悩みの方は、豊胸術(乳房増大術)で大きくすることができます。
小さな乳房を大きくするには、どのような方法があるか考えてみましょう。
たしかに魅力的な方法です。インターネットで調べてみると、バストアップサプリ、バストアップブラなど、簡単にたくさん見つけることができますが、残念ながら科学的な裏付けはありません。
考えてみると当たり前ですが、無理して寄せてきた脂肪は、ブラジャーを外せば元の位置に戻ってしまうのです。
結論を言えば、当科でお勧めできるような商品や方法はありません。
乳房自体を大きく成長させることができないなら、乳房に何かを「足す」ことで大きくするのがわかりやすい方法です。
ブラジャーにパッドを入れるのと同じ発想です。
簡単に言えば、美容外科ではブラジャーに入れるパッドを、手術で皮膚の下に入れてしまうことができるのです。
周辺の脂肪を寄せて胸を大きく見せるブラジャーがありますが、美容外科では本当に脂肪を乳房に持ってくることができます。
その「足す」ために用いることができる材料について考えてみましょう。
豊胸術の歴史は古く、いろいろな方法が行われてきました。
残念ながら、その歴史は、身体に悪影響を及ぼすような材料が使われた、暗い歴史でもあります。
この歴史を知ることは、私たち美容外科医だけでなく、患者さんにも非常に重要と考えますので、簡単にご紹介します。
我が国では1950年代にはロウソクやクレヨンの原料である「パラフィン」や、リップクリームの原料である「ワセリン」が注入剤として利用されました。そのようなものを体内に注入すると、数年で乳房は硬くなり、変形し、患者さんを苦しめました。
その次に登場したのが「人工脂肪」です。人工脂肪と聞くと、体に優しいように思えますが、内容は液状のシリコンです。液状であるために、注入されたシリコンは柔らかく、満足度は高かったそうですが、やはり乳房は硬くなり、変形し、患者さんを苦しめました。
最近ではアクアフィリングという材料による豊胸術後の副作用の問題がメディアに取り上げられました。アクアフィリングは98%の生理食塩水と2%のポリアミドを成分とする注入剤で、水に溶かして除去できるとのことで、美容外科医師らが個人輸入し、使用したものです。結果的にはしこりなどを生じ、患者さんが除去を希望しても、それは困難で、副作用に苦しんだり、不安を抱きながら過ごしておられる患者さんがおられます。
もちろん当科ではアクアフィリングは一切使用しておりません。とは言え、美容外科医として非常に残念な思いです。
過去の注入剤を振り返ってもみると、いずれの注入物も、異常が発生した際に、取り出すことが困難だという点で、非常によく似ています。
そして、このような負の歴史から学び取れたことは、体内に挿入する材料は以下の条件を満たす必要があるということです。(これは乳房増大術に限ったことではありません)
豊胸術の目的で乳房に「足す」材料には、以下のようなものがあります。
1)シリコンインプラント(以下インプラントとします)
2)ご自身の脂肪
3)注入材料
があります。
当科では、先に説明しましたように、その安全性から「3)注入材料」による豊胸術は行っていません。
そうなると「1)インプラント」か、「2)脂肪注入」の2択になりますが、現時点で一番リーズナブルな材料は、インプラントであると私たちは考えています。ただしあくまで「ベスト」ではなく、「リーズナブル」な材料です。
インプラントが脂肪注入よりも優れている点は
1)身体の他の部分に傷をつけなくても良い(脂肪注入するには、どこからか脂肪を採取しないといけません)
2)選択したインプラントの大きさだけ、きちんと乳房が大きくなるため、複数回の手術を必要としない(脂肪注入では、注入した脂肪の半分生着すれば良い方です)
3)嫌になったら取り出すことができる
ことなどが挙げられます。
つぎに、インプラントが脂肪よりも劣っている点(=脂肪が優れている点)、インプラントの欠点を考えていきましょう。
1)インプラントは身体の一部になることはありえないので、一生を通じて感染の危険性がある。
2)被膜拘縮のようなインプラント特有の合併症が起こり得る。
3)インプラントの表面を覆う皮下脂肪が薄かったり、乳腺が小さい場合、インプラントが浮き出してくる場合がある。
4)動かない。
5)脂肪注入に比べると手術の傷が大きくなる。
6)人工物であること自体が不安である。
ことなどが挙げられます。
これらの長所、短所を十分に理解いただいた上で、手術を受けていただくことが重要です。