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 シリコンインプラントによる豊胸術

当科で使用する乳房インプラントについて

シリコン乳房インプラント

図1:シリコン乳房インプラント(※クリックで拡大)

 たくさんの種類のシリコン乳房インプラント(以下インプラントとします)が販売されていますが、現在わが国では、米国アラガン社のナトレル®️シリーズのみが、医療機器として厚生労働省の承認を受けています(図1)
 そして日本形成外科学会のガイドラインでは、講習会を受講し、承認された医師のみが、乳房増大用インプラントの使用を認められています。
 もちろんこの講習会はあくまで単なる座学ですので、それを受講すればインプラントに精通できるわけではないことは当然です。しかし、保険診療の様々な治療において、ガイドラインが定められ、それに従った診療が行われている現在、豊胸術(乳房増大術)ガイドラインが作成された以上、当科はその規定に従った治療を行うようにしています。

 ナトレルシリーズのインプラントは、内部はお菓子の「グミ」のような硬さのもので、液状ではありません。そのため、万一破損しても、その場にとどまり、体内に入り込むことはないと考えられています(これには異論もありますので、後に述べます)。
表面をザラザラに加工することで、表面積を増やし、被膜拘縮という合併症(後で説明します)を減らす工夫がされています。
そして、より自然さを目指して、アナトミカルという涙滴のような形をしています。

|| インプラントによる豊胸術について

 手術の大まかな流れは
1)皮膚切開
2)インプラントを入れるスペース(ポケットと言います)の作成
3)インプラントの挿入
4)閉創
となりますので、その順に説明します。

皮膚切開

 豊胸術の皮膚切開は、主に以下の3種類に分けることができます。

乳房増大術の皮膚切開

図2:乳房増大術の皮膚切開(※クリックで拡大)

乳房下溝切開(図2―a)
 乳房とお腹の境界線を切る方法です。乳房下溝という皮膚の折れ目に合わせますので比較的目立ちにくいのですが、仰向けに寝転んだ際には見えやすいなどの欠点があります。

腋窩切開(図2―b)
 脇の下の皺に合わせて切開する方法です。
比較的目立ちにくいため、豊胸術には多く選ばれる切開です。

乳輪周囲切開(図2―c)
 かつて生食バッグ(シリコンでできたバッグの中に生理食塩水を入れ、万一バッグが破れて中身が漏れ出しても、生理食塩水なので心配ない、という製品が使用されていました)法が行われていたころには、乳輪の周囲を切る方法も好んで選択されました。
が、生食バッグが使われなくなった今、乳輪が小さい日本人の女性にインプラントをこの切開から挿入することは困難なため、ほとんど使われることはなくなりました。
当科でも乳輪周囲切開による乳房増大術は行っておりません。

当科での豊胸術について
乳房増大術の皮膚切開

図2:乳房増大術の皮膚切開(※クリックで拡大)

 当科ではこの中で、乳房下溝切開(図2―a)を使用しています。
手術をする部分をしっかりと観察できることが一番大きな理由です。
インプラントを体内に入れるには、インプラントが余裕を持って入るような十分に広いポケットを作成することが必要です。乳房下溝切開では皮膚からインプラントへの距離が短いため、しっかりとポケット内を観察しながら手術が可能です。筋肉の処理、血管の処理など手術には細かい作業が伴いますが、それを正確に行うにはこの切開が一番適しているのです。
 さらにはインプラント挿入の際に皮膚が傷みにくいというメリットもあります。

 腋窩切開(図2―b)では、内視鏡などの特別な器械を使わない限り、ポケットの内部をしっかりと観察することができません。それはポケット内で出血が起こっていても見逃してしまったり、発見できたとしてもきちんとした止血ができないということになりかねません。不十分な止血は、術後、ポケットの中に血液が溜まるという事態につながります(血腫といいます)。ほとんどの血腫は自然と吸収されるのですが、程度によっては吸収されずに残ってしまうことがあります。その場合、残った血腫は感染の原因になったり、長期的には被膜拘縮の原因になるとも考えられます。
 当科では安全で確実な手術を最優先しています。そのため基本的には腋窩切開ではなく乳房下溝切開(図2―a)から手術を行う方針としています。

インプラントを入れる深さ
インプラントの挿入位置

図3:インプラントの挿入位置(※クリックで拡大)

 インプラントを入れる深さには大きく分けて、乳腺の下に入れる方法(図3―b)と大胸筋の下に入れる方法(図3―c)があります。イラストを見ていただければわかりやすいですが、二つの方法の違いは、大胸筋の上(表側)か下(裏側)かの違いです。大胸筋上法(図3―b)と大胸筋下法(図3―c)としても良いかもしれません。

 大胸筋の下に入れると、大胸筋がインプラントの表面を覆ってくれるので(図3―c)、その分、皮膚の上からはインプラントがわかりにくくなります。逆に乳腺の下(つまり大胸筋の上)に入れると、インプラントの形が皮膚の上からでも浮き出しやすいということです。ですから、もともとの乳腺の量が少ない方(=もともと乳房が小さい方)は大胸筋の下に入れた方が良いということになります。
もし乳腺に細菌が侵入しても乳腺炎を生じても、乳腺とインプラントの間で大胸筋が防護壁となってくれるので(図3―c)インプラントを護ってくれる可能性があります。

 このように書くと、大胸筋の下に入れた方が無難なように思われるかもしれませんが、本来乳腺は大胸筋の表面にあるものです(図3―a)。大胸筋が動いた際に、より自然なふるまいを示すのは大胸筋の上(つまり乳腺の下)(図3―b)に入れた方なのです。つまり乳腺の量が十分に多い方(=もともと乳房が大きい方)は、乳腺の下=大胸筋の上にインプラントを入れた方が、綺麗に仕上がることが期待できます。

 上記の2種類以外に大胸筋膜下に入れる方法もあります。
良いとこ取りなら、もちろんそれが一番良いのですが、決してそうとも言えず、当科では行っていません。

 結論を言えば、インプラントを入れる深さは、患者さんごとに相談して決めるということになります。

豊胸術の合併症
1)傷あと

 当科では形成外科的な縫合手技を駆使して、丁寧に縫合しますが、どうしても傷あとは残ってしまいます。

2)血腫

 手術中にどれだけ丁寧に止血しても、血液が皮膚の下にたまってしまうことがあります。血腫は感染や後に述べるカプセル拘縮の原因にもなりますので、手術中に細いチューブを傷口に挿入しておく処置を追加しています。チューブは術後に引っ張れば抜けるように固定しています。

3)感染

 手術である以上は、感染の危険性をゼロにすることは不可能です。
 当科では清潔度の高い、きちんと管理された手術室および手術器具の使用、科学的な根拠に裏付けられた適正な抗生剤の使用など、感染の減少に務めています。
 それでも感染が生じてしまった際には、インプラントを抜去することもあります。その場合、どのようにして左右のバランスを取るか?の相談も必要です。

4)乳輪乳頭の知覚異常

 乳輪乳頭は赤ちゃんが乳頭を吸うと、その信号を脳に送り、乳汁の分泌を増やすなど非常に繊細な知覚を有しています。手術によって知覚(感覚)が低下する(鈍くなる)可能性があります。
 その程度は手術の規模などによって左右されますが、多くの患者さんは徐々に低下した知覚も回復してきますが、その回復にはバラツキがあることをご理解ください。

5)左右差

 元々、女性の乳房の形状、大きさ、位置は左右で異なっているのが普通です。
 もちろん術前のデザインは、患者さんと相談しながら進めますが、完全に揃えることは難しいことをご理解ください。

6)インプラントの破損

 インプラントは体内で徐々に劣化することが知られています。生涯を通じてトラブルのない方ももちろんおられますが、中には破損してしまう方もおられます。
当科で用いているアラガン社のナトレルシリーズは、シリコン製のバッグの中に、グミ状のシリコンが封入されています。そのため外側のバッグが破損しても、大きなトラブルには発展しないとされています。例えば血液の流れに乗って、体の他の部分に流れてしまうようなことはありません。しかしながらグミ状のシリコンが、体液を吸収して性質を変えてしまう可能性も否定できません。
定期的な検診をお願いし、万一異常が発見された場合には、速やかに新しいインプラントに入れ替えることをお勧めします。

7)カプセル拘縮

 インプラントは、シリコンという人体に親和性の高いものですが、人体からは異物ですので、どうしても人体が反応して、膜を作ってしまいます(被膜、カプセルといいます)。
多くの場合は問題にならないのですが、人によってはカプセルが分厚く、固くなってしまいます。インプラントが固く触れるだけでなく、ひどい場合には変形してしまうこともあります。
現在のところ、カプセル拘縮に対する明確な対策はありません。もし生じてしまった際には、なんらかの手術が必要になります。

8)リンパ腫

 最近になって、インプラント術後に生じるリンパ腫が報告されています。
このリンパ腫の特徴的な症状は、すごく腫れるということです。
リンパ腫は放置すると重症化する危険性がある疾患ですが、インプラント術後に生じるリンパ腫についてはインプラントを取り除き、その周囲に生じたカプセルを除去すれば、特別な治療をしなくとも治癒するとされています。
その頻度もまだ不確かで、はっきりとしたことはわかっていませんが、海外では報告されているという状況です。
このリンパ腫の面からも定期的な検診をぜひともお勧めします。

9)喫煙と合併症の関係について

 ここで注意を喚起したいのは喫煙です。喫煙は術後の感染を増加させる原因であることが判明しています。他にも糖尿病などの基礎疾患、肥満など感染率を高める患者さん側の要素はあるのですが、それらはすぐに改善できるものではありません。しかしながら喫煙は今すぐにでもやめることは可能です。
 感染以外にも組織の血行への悪影響、麻酔への悪影響など、喫煙は手術に非常に悪いものであることをご理解ください。

 当科では手術を希望される患者さん全員に、禁煙をお願いしています。 美容外科の手術は、健康な身体にメスを入れるものであり、患者さんご本人の希望によるものです。美容外科の手術をお受けになるなら、禁煙をセットでお考えいただきたいと思います。

※手術費用のほかに、術前検査代、入院費、全身麻酔代が別途かかります。

(文責:神戸大学病院美容外科診療科長 原岡剛一)


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