研究内容Research

研究内容

当研究室では、細胞や細菌、ウイルスなどの生物の持つ機能を利用した生物製剤=「バイオロジクス」を用いた新しい治療法の開発とその応用をメインテーマとして研究を行っています。これまで遺伝子組換え技術やバイオテクノロジーの進歩によって、数多くのバイオロジクスが世に出され、患者さんの治療に用いられてきました。ワクチン、抗体医薬、免疫療法、細胞療法などがその代表的な例です。最新のテクノロジーを応用したバイオロジクスは、従来の医薬品では予防・治療できなかった疾患に対する新たな解決法として、そのニーズが高まり、市場規模が拡大、多様化しています。患者さん一人ひとりに合わせた個別化医療から、グローバルな大規模接種を可能にする感染症ワクチンまで、バイオロジクスを利用した医薬品は大きな可能性を持っています。
当研究室では、そのようなバイオロジクスに注目し、近年の高齢化社会等の要因により増加する悪性腫瘍に対する新たな治療法や、グローバルに利用できる感染症予防薬の実用化を目指し、研究開発を行っております。
その中で、当研究室では具体的には下記の研究テーマとして基礎研究、そしてそれを社会実装につなげるための橋渡し研究に取り組んでおります。

組換えウイルスベクターを用いたがん遺伝子治療薬の開発

細胞のがん化の要因として遺伝子の変異や異常が多数報告されています。それらの異常な遺伝子を正常な遺伝子に置き換えたり、異常な遺伝子の働きを抑制する遺伝子を人工的に導入したりすることでがん細胞の増殖、浸潤や転移を防ぐ方法があり、これをがん遺伝子治療といいます。当研究室ではがん細胞への遺伝子導入効率に優れる組換えアデノウイルスベクター等のウイルスベクターを用いたがん遺伝子治療法の研究開発を行っており、特に泌尿器科領域の悪性腫瘍に対する制癌効果を報告しています。がん遺伝子治療の実用化により、低侵襲ながん治療が実現できるほか、患者さんそれぞれに適した遺伝子を用いて治療する個別化医療に貢献することが期待されます。

組換えビフィズス菌を用いた新規経口ワクチンの開発

ヒトの体には様々な免疫応答を担う器官が存在していますが、その中でも大きな免疫調整力を持つものが腸管免疫系です。当研究室ではその腸管免疫系を利用して感染症や悪性腫瘍に対する獲得免疫を誘導する粘膜投与型ワクチン「経口ワクチン」の開発研究を行っております。これまで、常在細菌であるビフィズス菌の菌体表層にワクチン抗原を提示させる技術を開発し、動物実験などによりC型肝炎、腸チフス、悪性腫瘍に対する免疫誘導効果を明らかにしてきました。ビフィズス菌を利用した経口ワクチンにより、注射針を使わず誰でも服用しやすい安全な次世代型ワクチンの実現を目指しています。(JASRI)との共同開発を通じて、インシリコ・生化学・分子生物学・構造生物学的手法を駆使した独自のスクリーニングシステムにより(movie1)、担がんモデル動物において顕著な抗がん作用を有する複数の物質(リード化合物)の同定に成功しています(図2)。これらの物質の作用メカニズムを原子レベルで明らかにすることで、より活性が強く毒性が低い医薬品開発候補品の創出を目指しています。

樹状細胞を利用したがん免疫療法の研究

近年、新たながん治療方法として患者さんの免疫応答を利用するがん免疫療法が注目されています。免疫応答を担う細胞の中でも樹状細胞はがん抗原をT細胞に提示してがん特異的免疫応答を誘導する役割を持っていますが、その度合いは患者さんそれぞれで異なっています。樹状細胞療法は患者さんから採取した樹状細胞に人工的に高い抗原提示能力を与え、それにより効率的にT細胞のがん特異的免疫応答を誘導することにより癌治療を行います。患者さんそれぞれに適したがん免疫応答を賦活でき、個別化医療に貢献できることが期待されます。

インドネシアにおける下痢性感染症の疫学調査・薬剤耐性菌の分布状況調査

本学医学部附属大学病院、保健学研究科、インドネシアアイルランガ大学と協力して、今なお感染が収まらない腸チフスやコレラ等の下痢性感染症の国際的な疫学調査・研究を行っております。近年、抗菌薬の進歩により多くの感染症の治療が可能になっていますが、同時に抗菌薬に対する耐性を獲得した薬剤耐性菌の出現・増加が問題となっています。特に感染者が多い開発途上国において、薬剤耐性菌の蔓延が問題なっており、その対策が急がれています。国際的な薬剤耐性菌分布調査をすることで、近年重要視されるワンヘルス・アプローチの観点から適切な抗菌薬使用と薬剤耐性菌の制御を目指して研究を行っております。