研究概要RESEARCH SAMMARIES


 個別化医療への挑戦

 基盤研究
  • 遺伝子医療の推進における薬剤師の戦略的活用
 基礎研究
  • 分子標的治療薬による副作用発症機構の解明
  • 分子標的治療薬の戦略的シーケンシャル治療に向けた分子基盤変動解析
 臨床研究
  • スペシャルポピュレーション投与設計のためのファーマコメトリクスの応用
  • 分子標的治療薬による副作用の遺伝子多型解析を用いたスクリーニング
  • LC-MS、血中濃度測定システムを用いた医薬品適正使用に向けての取り組み

基盤研究

遺伝子医療の推進における薬剤師の戦略的活用

~ゲノム薬理学アプローチによる薬剤情報データベースの構築~

 近代に発達した西洋医学では、品質管理や安全性を重んじるあ まり、最大公約数的な効果しか期待できないもので満足せざるを得ないことがあります。薬物治療を行う際に、効果や副作用を予見し、それを元に個人によって投与薬の種類や投与方法を決めることが理想です。

 ヒトゲノムが解読されたように、遺伝子に関連する科学的技術の進展や情報の集積は目を見張るものがあります。疾患関連遺伝子の解明や、個人の体質が 遺伝子の多様性によって説明が可能になった現在、治療薬の選択や投与計画に、遺伝子の情報を反映させることが実践されつつあります。さらに治療だけでな く、将来の疾患の予測や、それを予防するための生活習慣にまで、遺伝子情報の活用が可能になってきました。

 このような状況で、医療従事者だけでなく、一般の方々にも遺伝子情報を知ることの重要性を広めていく必要があります。幸い技術の発展により、簡単な 操作で特定の遺伝子を検出することは日常的にできるようになっています。この技術を使って、薬の効果や副作用に関係する遺伝子をあらかじめ知っておけば、 安全で効果的な薬物治療の実践の一助となることは間違いありません。ただ、遺伝子の情報はあくまで情報であり、それをどう活用するかについては、知識が必 要です。また、今後技術の発展に伴い、現在解っていないことも明らかにされていくでしょう。

 当研究室では遺伝子情報の正しい意味と活用方法を広めること、遺伝子情報に関する研究を進めることを目的に日本ゲノム薬理学研究会を立ち上げ、医療従事者だけでなく、一般の方々も含めた活動を行っております。

日本ゲノム薬理学研究会ホームページ




基礎研究

分子標的治療薬による副作用発症機構の解明

~皮膚障害発症メカニズムの解明と克服法の探索~

 癌化学療法は分子標的治療薬の登場により飛躍的に進歩しています。大腸癌、血液腫瘍、腎細胞癌、肝細胞癌など、分子標的治療薬の適応疾患は広がり、今後も更なる発展が期待されている分野です。しかしながら、当初副作用が少ないと考えられていた分子標的治療薬においても治療に影響を及ぼす重大な副作用が認められてきました。中でも上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬、多標的キナーゼ阻害薬及びmammalian Target of Rapamycin(mTOR)阻害薬投与患者にみられる皮膚障害はいずれの薬剤においても非常に高頻度に発症し、治療の中断やQOLを低下させる要因となります。

 本皮膚障害は、5-FUやタキサン系などの細胞障害性の抗癌剤に起因する皮膚障害とは明確に区別されており、分子標的治療薬に起因する皮膚障害特有の病理像を示すことが報告されています。さらに、これら皮膚症状は、発症と癌治療の効果との間に相関性を示唆する報告があり、臨床上重要な症状であるにも関わらず、活発な研究が行われておらず、発症の詳細なメカニズムについては未だ解明されていません。

 本研究では皮膚の恒常性を維持するSignal Transduction and Activator of Transcription (STAT) 3に着目し、分子標的治療薬にみられる皮膚障害の発症メカニズムの分子生物学的解明と副作用バイオマーカを特定することを目的とて、ヒト表皮角化細胞および患者検体を用いて分子標的治療薬が皮膚組織に及ぼす影響を検討しています。

~口内炎発症メカニズムの解明と克服法の探索~


 分子標的治療薬による口内炎は特定の薬剤において非常に高頻度に発症し、治療の中断やQOLを低下させる要因となっています。本症状はMK (multi kinase)阻害薬で50%2)、mTOR (mammalian target of rapamycin)阻害薬で60%以上と、特に高頻度で発症することが明らかにされています。また、MK阻害薬やmTOR阻害薬のもう一つの副作用である皮膚障害と本症状は併発していることが多く、副作用の発症メカニズムが強く関連している可能性が高いと考えられます。皮膚障害の発症メカニズムについては未だ明らかにされていませんが、このことが証明されれば、口内炎の発症メカニズムを解明する上でも非常に重要な知見となることが予想されます。

 本研究では、分子標的治療薬にみられる口内炎の発症メカニズムの解明と副作用のバイオマーカーを特定することを目的として、ヒト頬粘膜扁平上皮癌由来細胞およびヒト舌扁平上皮癌由来細胞を用いて分子標的治療薬が口腔粘膜に及ぼす影響について分子生物学的検討を行っています。



~間質性肺炎発症メカニズムの解明と克服法の探索~

 分子標的治療薬による間質性肺炎は特定の薬剤において非常に高頻度に発症し、治療の中断やQOLを低下させる要因となっています。本症状はmTOR (mammalian target of rapamycin)阻害薬で15%以上、EGFR(Epidermal growth factor receptor)阻害薬6%以上と、高頻度で発症し、ときには致命的な状態に陥ることもあります。これらの発症メカニズムについては未だ明らかにされていませんが、このことが証明されれば、患者個々に適した治療を提供する上でも非常に重要な知見となることが予想されます。

 本研究では、分子標的治療薬にみられる間質性肺炎の発症メカニズムの解明と副作用のバイオマーカーを特定することを目的として、ヒト肺癌上皮細胞およびヒト肺癌由来線維芽細胞を用いて分子標的治療薬が肺組織に及ぼす影響について分子生物学的検討を行っています。




分子標的治療薬の戦略的シーケンシャル治療に向けた分子基盤変動解析

 近年、様々な分子標的治療薬の登場により癌治療は革新的な発展を遂げました。各薬剤の使用実績も蓄積されている現在において、機序の異なる分子標的治療薬を順番に用いるシーケンシャル治療が注目されています。特に腎細胞癌の治療では術前・術後の化学療法においても分子標的治療薬に対する寄与が大きく、シーケンシャル治療についても様々な組み合わせが検討されています。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるソラフェニブ投与後に標的の異なるTKIスニチニブを投与した群は、順序を逆に投与した群と比較して全生存期間が延長するといった報告もあります。さらに近年では、mTOR阻害薬エベロリム、最近本邦において承認されたアキシチニブならびに本邦では未承認のTKIパゾパニブについてもその投与順序が注目されており、分子標的治療薬は、あるものを使う時代から組み合わせる順序を考慮する時代へ突入しました。
 この治療法については近年急速に開発が進んでおり、様々な臨床試験が行われているが、臨床での結果のみが先行し、有効な順序を規定する根拠となる治療機序の基礎研究は行われておらず、新たな有効性の高い使用方法を構築するには薬剤継続曝露による細胞内分子基盤の解明が急務です。

 本研究では、ヒト腎癌細胞を用いて分子標的治療薬の継続的な曝露による代償シグナル機構の解明、薬物動態学的な影響を及ぼすタンパク質の発現変動、分子基盤に基づいた投与順序の検討など、薬剤継続曝露時の分子変動を多角的に検討しております。



臨床研究

スペシャルポピュレーション投与設計のためのファーマコメトリクスの応用

 スペシャルポピュレーションとは、小児や高齢者、妊婦・授乳婦、腎機能・肝機能低下患者など、薬物動態および薬物感受性が一般の患者集団と異なる特性を有する患者のことです。一方、ファーマコメトリクスとは、数学的な手法により薬物動態を予想する技術を指します。我々は血中濃度を予測することが困難であるスペシャルポピュレーションについて、ファーマコメトリクスを応用することで、適切な血中濃度管理につなげたいと考えております。このことで、これまで予測困難であったスペシャルポピュレーションに対しても適切な薬物投与設計が可能となります。



分子標的治療薬による副作用の遺伝子多型解析を用いたスクリーニング

 当研究室では分子標的治療薬による副作用の発症機構を基礎研究にて解明することを目標として研究を進めています。一部の結果は論文として報告しております。これらの結果を用いて、患者さんに同意を取得したうえで、患者さんの遺伝子多型を調べ、基礎研究で明らかにした内容の臨床応用を目指しています。

臨床研究名:分子標的治療薬による皮膚障害とSTAT3遺伝子多型に関する研究
臨床研究名:mTOR阻害薬の唾液分泌と口内炎発症に関する研究

 本研究室では「基礎と臨床の融合」を大きなテーマの一つとして掲げています。基礎研究で明らかにした内容を速やかに臨床研究に応用することを目指して全ての基礎研究に取り組んでいます。



LC-MS、血中濃度測定システムを用いた医薬品適正使用に向けての取り組み

 治療効果や副作用に関する様々な因子をモニタリングしながらそれぞれの患者に個別化した薬物投与を行うことをTDMといいます。多くの場合、血中濃度が測定され、臨床所見と対比しながら投与計画が立てられます。薬物を投与する際には期待する効果とそうでない効果(副作用)が現れますが、それらが薬物の血中濃度と相関する場合に血中濃度を指標として投与法を決定するわけです。TDMが行われる薬物には一般的な指標として有効血中濃度が知られています。当院では、LC-MSなどの精密機器により種々の薬物血中濃度を測定し、治療効果や遺伝子変異との相関性について検討しています。


バナースペース

薬物動態学・薬剤学分野

〒650-0017
兵庫県神戸市中央区楠町7丁目5-2
神戸大学医学部附属病院 薬剤部

TEL: 078-382-6659
FAX: 078-382-6702
E-mail: yakuken@med.kobe-u.ac.jp