スペシャルポピュレーションとは、小児や高齢者、妊婦・授乳婦、腎機能・肝機能低下患者など、薬物動態および薬物感受性が一般の患者集団と異なる特性を有する患者のことです。一方、ファーマコメトリクスとは、数学的な手法により薬物動態を予想する技術を指します。我々は血中濃度を予測することが困難であるスペシャルポピュレーションについて、ファーマコメトリクスを応用することで、適切な血中濃度管理につなげたいと考えております。このことで、これまで予測困難であったスペシャルポピュレーションに対しても適切な薬物投与設計が可能となります。
当研究室では分子標的治療薬による副作用の発症機構を基礎研究にて解明することを目標として研究を進めています。一部の結果は論文として報告しております。これらの結果を用いて、患者さんに同意を取得したうえで、患者さんの遺伝子多型を調べ、基礎研究で明らかにした内容の臨床応用を目指しています。
本研究室では「基礎と臨床の融合」を大きなテーマの一つとして掲げています。基礎研究で明らかにした内容を速やかに臨床研究に応用することを目指して全ての基礎研究に取り組んでいます。
治療効果や副作用に関する様々な因子をモニタリングしながらそれぞれの患者に個別化した薬物投与を行うことをTDMといいます。多くの場合、血中濃度が測定され、臨床所見と対比しながら投与計画が立てられます。薬物を投与する際には期待する効果とそうでない効果(副作用)が現れますが、それらが薬物の血中濃度と相関する場合に血中濃度を指標として投与法を決定するわけです。TDMが行われる薬物には一般的な指標として有効血中濃度が知られています。当院では、LC-MS/MSなどの精密機器により種々の薬物血中濃度を測定し、治療効果や遺伝子変異との相関性について検討しています。
パーキンソン病発症には、加齢や環境、遺伝的素因、ミトコンドリア機能障害等が関与する可能性が報告されていますが、詳細な原因は不明です。一方、近年小胞体ストレス(ER
stress)誘発による神経細胞死がパーキンソン病発症に関与する可能性が報告されています。変性蛋白質の蓄積によって起こるER stressに対して、細胞は蛋白質の翻訳抑制、ERシャペロン誘導による蛋白質折りたたみの促進、そしてユビキチン-プロテアソーム系を介した小胞体関連分解(ERAD)の促進等の防御機構を作動させますが、これらの防御機構でもER
stressが緩和されない場合、神経細胞死が惹起され、パーキンソン病発症に繋がると考えられています。
私たちは、小胞体ストレス関連分子としてユビキチンリガーゼHRD1と安定化分子SEL1Lを同定していますが、最近これらの分子がパーキンソンモデルに対して保護的に働くことを見出しました。そこで、HRD1/SEL1LがPD治療の新たな標的になるのではないかと考え、現在も研究を行っています。
癌化学療法は分子標的治療薬の登場により飛躍的に進歩しています。大腸癌、血液腫瘍、腎細胞癌、肝細胞癌など、分子標的治療薬の適応疾患は広がり、今後も更なる発展が期待されている分野です。しかしながら、当初副作用が少ないと考えられていた分子標的治療薬においても治療に影響を及ぼす重大な副作用が認められてきました。中でも上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬、多標的キナーゼ阻害薬及びmammalian
Target of Rapamycin(mTOR)阻害薬投与患者にみられる皮膚障害はいずれの薬剤においても非常に高頻度に発症し、治療の中断やQOLを低下させる要因となります。
本皮膚障害は、5-FUやタキサン系などの細胞障害性の抗癌剤に起因する皮膚障害とは明確に区別されており、分子標的治療薬に起因する皮膚障害特有の病理像を示すことが報告されています。さらに、これら皮膚症状は、発症と癌治療の効果との間に相関性を示唆する報告があり、臨床上重要な症状であるにも関わらず、活発な研究が行われておらず、発症の詳細なメカニズムについては未だ解明されていません。
本研究では、分子標的治療薬にみられる皮膚障害の発症メカニズムの分子生物学的解明と副作用バイオマーカを特定することを目的として、ヒト表皮角化細胞および患者検体を用いて分子標的治療薬が皮膚組織に及ぼす影響を検討しています。
分子標的治療薬による間質性肺炎は特定の薬剤において非常に高頻度に発症し、治療の中断やQOLを低下させる要因となっています。本症状はmTOR
(mammalian target of rapamycin)阻害薬で15%以上、EGFR(Epidermal growth factor receptor)阻害薬6%以上と、高頻度で発症し、ときには致命的な状態に陥ることもあります。これらの発症メカニズムについては未だ明らかにされていませんが、このことが証明されれば、患者個々に適した治療を提供する上でも非常に重要な知見となることが予想されます。
本研究では、分子標的治療薬にみられる間質性肺炎の発症メカニズムの解明と副作用のバイオマーカーを特定することを目的として、ヒト肺癌上皮細胞およびヒト肺癌由来線維芽細胞を用いて分子標的治療薬が肺組織に及ぼす影響について分子生物学的検討を行っています。