「日本病理学賞」の受賞について(H29年度)

横崎 宏

医学研究科病理学講座 病理学分野 教授

横崎教授

日本病理学賞は、病理学領域における特定の課題について卓越した業績を挙げていると判断された日本病理学会会員に授与される

その選考要件には、1)国内外の評価のある業績であること、2)断片としての学術情報ではなく、体系として受け取れる内容であること、3)受賞者の示す問題把握のしかた、課題の解決法、学問観などが会員にとって大いに資するものであること、が挙げられ、代表的な論文の学術的評価、その領域自体のもつ重要性や将来性、応募者の学術性や適格性などを含めて多面的に判断され、病理学会学術委員会で厳正に選考される。日本病理学賞の内容は「宿題報告」として3日間の病理学会総会会期中に毎日1演題ずつ、他の会場はすべてクローズし、メイン会場にて講演が行われる。

今回の宿題報告では、癌は癌細胞のみから出来上がっているのではく、周囲に存在する線維芽細胞やマクロファージ、細胞外基質、血管などの間質成分との有機的集合体として癌という病的組織が成立していること、すなわち「組織としての癌」を理解するために行ってきた癌細胞と間質細胞の相互作用について、胃癌、食道癌を対象に解析した結果とそれらの病理学的意義についての考察を行った。報告の要点は以下に集約される。

(1)腫瘍間質の線維芽細胞は癌細胞により増殖促進されるのみならず、相互作用により癌細胞の運動、形態形成、上皮間葉転換に関与している。
(2)骨髄由来間葉系幹細胞は一部のがん関連線維芽細胞の起源となり、癌細胞の幹細胞性の再獲得や上皮間葉転換に関与している。
(3)腫瘍随伴マクロファージは癌微小環境で骨髄由来単球・マクロファージから分化し、癌の増殖、進展に深く関与している。
(4)発癌初期病巣に浸潤するマクロファージは生物学的プロモーターとして機能する可能性がある。
(5)癌細胞は間質細胞との相互作用の中で既存の増殖因子、サイトカイン、ケモカインネットワークを巧みに利用して、「組織としての癌」を構築している。