第53回小島三郎記念文化賞受賞(H29年度)

森 康子

医学研究科 微生物感染症学講座
臨床ウイルス学分野 教授 医学研究科附属感染症センター長

ヒトヘルペスウイルス6Bの宿主受容体を発見

森康子教授

神戸大学大学院医学研究科森康子教授らの研究グループは、ヒトヘルペスウイルス6B(human herpesvirus-6B;HHV-6B)の宿主受容体 (PNAS 2013)を世界で初めて発見した。HHV-6Bは、活性化したヒトT細胞に感染し、増殖できるという特徴をもつ。ヒトに初感染後、潜伏感染状態で、終生をヒトと共にする。初感染時に突発性発疹(時に重篤な脳炎)を発症させ、ほぼ100%の成人の体内に潜伏感染している。臓器移植患者、特に、骨髄幹細胞移植患者におけるHHV-6Bの再活性化は、致死的な脳炎を引き起こすこともあり、非常に問題視されている。また、薬剤過敏症症候群におけるHHV-6Bの再活性化および病態増悪との関連性も知られている。

ヘルペスウイルスの宿主細胞への侵入は、ウイルス粒子のエンベロープに存在する糖タンパク質が、特異的な宿主受容体を認識し、結合することにより始まる。よって、このウイルスリガンドと宿主受容体の相互作用が、ウイルスの細胞向性ひいては病原性を決定する要因のひとつとなる。しかし、HHV-6Bの宿主受容体は、不明であった。

森教授らの研究グループは、既に同定していたウイルス糖タンパク質複合体(gH/gL/gQ1/gQ2複合体;テトラマー)に対する抗体がウイルス感染を阻止できることを見出し、このテトラマーが、HHV-6Bの受容体のリガンドになると考え、このテトラマーをベイトととして、受容体探索を行った。その結果、活性化したT細胞に発現しているヒトCD134が、同定された。最近研究グループは、骨髄幹細胞移植患者におけるヒトCD134とHHV-6B再活性化・増殖との関連性(J. Clinical Virol. 2018)を見出しており、受容体の発見は、HHV-6B研究を大きく飛躍させた。