日本学士院賞受賞

筋ジストロフィーの新たな発症原因を発見 治療法開発に期待

戸田 達史

医学研究科 生理学・細胞生物学講座 分子脳科学分野 教授

戸田教授

神戸大学医学研究科戸田達史教授らの研究グループは、筋ジストロフィーの発症する新たな原因を世界で初めて発見した。筋ジストロフィーは、筋繊維の破壊や変性と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮や筋力低下が進行する遺伝性の疾患で、国内患者数は約2万5000人で、国から難病指定を受けている。特に日本人に集中的に多い福山型筋ジストロフィーは、ほとんど歩行不能の重症の疾患である。

我々は福山型筋ジストロフィーの原因遺伝子フクチンを発見し、アンチセンス核酸治療法を提唱してきた(Nature 1998, 2011)。これまでの研究で、福山型筋ジストロフィー及び類縁疾患の発症原因として、筋細胞表面にあるたんぱく質「ジストログリカン」に結合している糖鎖に異常が起きること、「ISPD」「フクチン」「FKRP」といった原因遺伝子が正しく機能していないことは知られていた。しかし、糖鎖の構造や遺伝子の働きは解明されていなかった。

戸田教授らの研究グループは、培養細胞に生体と同じ糖鎖をつくらせることに成功し、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が開発した技術「糖ペプチド質量分析法」を応用して糖鎖の成分ごとの質量を測定した。その結果、これまでバクテリアや一部の植物でしか確認されていなかった「リビトールリン酸」という珍しい糖が糖鎖の中に存在することを発見した。さらに、これまで機能が不明だった筋ジストロフィーの原因遺伝子「ISPD」「フクチン」「FKRP」は、ヒトの体内でリビトールリン酸をつくる酵素であることがわかった。実際に、筋ジストロフィーの原因遺伝子を欠損させた患者モデル細胞ではリビトールリン酸が欠損していたことから、リビトールリン酸の合成障害が病気の原因であることが明らかになった。また、リビトールリン酸をつくる材料となる「CDP-リビトール」を患者モデル細胞に投与すると、糖鎖の異常を解消することができた(Cell Reports 2016)。