第5回万有医学奨励賞受賞

淺原 俊一郎

医学研究科 内科学講座 糖尿病・内分泌内科学 特命助教

淺原特命助教

我々の研究室では、2型糖尿病発症における膵細胞量調節機構に関する研究を進めております。近年、ゲノムワイド関連解析などによって2型糖尿病領域においても多くの原因遺伝子が同定されており、その中でも東アジア人で特に重要と考えられているのがKCNQ1遺伝子です。我々は遺伝子組換えマウスを用いた実験により、KCNQ1遺伝子の変異を父親から引き継いだ時のみ、エピジェネティクス修飾の変化を介して細胞周期調節因子p57の発現が亢進し、膵細胞量が減少することを報告いたしました(Asahara S, et al. PNAS, 2015)。この結果は、インスリン分泌能低下を示しやすい東アジア人の病態を説明しうる意義深いものと考えております。

しかしながら、2型糖尿病の病態は遺伝因子だけで説明できるものではありません。食生活などの環境因子も重要な役割を担っていることがわかっております。そこで、このKCNQ1変異マウスに高脂肪食を負荷したところ、転写因子C/EBPが膵細胞特異的に蓄積し、相乗的にp57の発現を亢進させることによって膵細胞量減少に寄与していることが明らかになりました(manuscript in preparation)。この結果は、膵細胞量調節において遺伝因子と環境因子が相乗的に作用していることを示すものであり、近年、特に東アジアで2型糖尿病患者人口が激増している機序の一端を説明しうるものと考えています。この研究が評価され、2016年11月、第5回万有医学奨励賞を受賞いたしました。 また膵細胞量調節におけるエピジェネティクス制御機構の解析も同時に進めております。最近では、ヒストン脱アセチル化酵素HDACが、膵細胞における増殖シグナルを2つの独立した経路によって制御していることを明らかにいたしました(PLOS ONE in revision)。

現在は、ヒトiPS細胞を用いた研究に着手しており、培養細胞やマウス実験で得られた結果を、ヒトの膵細胞不全発症機序に繋げることを課題としております。今後も各先生方のご指導の下、より興味深い研究成果を上げられるよう努めてまいります。